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第55話・神が住んでいた島

「テッシン、あなたこんな紙をどこでもらったのですか?」



「その紙は、私がしばらくお世話になったエンジュという町で」



 ターニャに聞かれたテッシンは、素直にその経緯を説明してくれるようだった。



「エンジュはこの世界における神話や伝承などを集めて研究する町で、博識な方ばかりでした。その町で私も勉学に励んでいたのですが、中には妙なことを研究する人も多く……。その内の一人がシルビアという女性です」



「シルビア?」



「はい。彼女はエンジュにて動物に関する伝承や神話を調べており、この紙も複製なのですが彼女からもらったものです。シルビアさんは今この亀について調べているようですが……。ほら、よく見てください。この亀、少し変わったところがあると思いませんか?」



 そう言われてから、もう一度亀の絵を眺めてみる。タカオはその絵を見ながらあっ、とつい大きな声を上げる。



「タカオ、急に大きな声だすな」



「わ、悪い、エヴァン。これ、よく見てみろよ。亀の甲羅が普通と違って、中央がやけにせり上がっていないか。ほら、まるで山みたいにさ」



「……そう言われると、そうですね。あと、甲羅の端はやけに平べったい感じが……」



「よく気付きましたね。タカオさん、ターニャ様。そうなんです、それは亀に見えますけれど、大きな島でもあるんです」



 これがか、とエヴァンは紙を指さしながら怪訝そうに反論する。



「はい。この亀は神がこの世界に住まわれる時代、神をはじめ神話や伝承に登場する生物が住まう島とされており、ときには彼らを乗せて様々な場所に移動したと伝えられているようです」



「海に浮かぶ島で移動ねえ。それじゃまるで大きな船みたいなものじゃない」



 クレアは自分で言った言葉にハッとする。その顔を見てテッシンも頷く。



「もしかして、この亀が方舟だっていいたいの?」



「そうです。この亀は島として機能するだけでなく、神の住まう宮殿にもこの亀を使って移動していたという伝承が、エンジュには残されているようです。もしかしたら、クレアさん達が探している方舟のような役割もしていたと考えられませんか?」



「テッシンさん、この絵に描かれている亀って……」



「私がシルビアさんから聞いた話では、。彼女は今でもこの伝承を研究し、神が住むと同時に移動する際に使っていたと思われる島を探しています。その島こそが、本当は亀かもしれないという伝承を信じて」



 テレビでミステリー番組でも見ているような衝撃をタカオは受けてしまう。クレアは至って普通な感じだが、やはりこういうときはターニャが一番いいリアクションをする。

 しかし、エヴァンだけは顔を伏せて青い顔をしている。まるで今後のことを冷静に計算でもしているのか、目がグルグルと動いている。



「タカオ、次に行く場所が決まったわね」



「ああ。そうだな。それじゃ、エンジュという町に行ってシルビアさんに会ってみるか。テッシンさん、エンジュはどういう風に行けばいいんですか?」



「エンジュはクレアさんが守っていた神殿まで戻り、さらにそこから山を越えたところにあります」



「けっこう遠そうだな……」



「そうですね、歩けば一週間以上は掛かるかと……。今でしたら海の行く先を防いでいた呪いも解けていますので、海から山を迂回するように行けばすぐに向かうことができるかと思います」



「そうか! じゃあ、早速ー」



「行くのか、エンジュに?」



 先ほどまで口を貝のように閉ざしていたエヴァン。しかし、タカオたちのテンションとは裏腹に、調子だけはいいエヴァンが二の足を踏んでいる。



「どうしたのよエヴァン? あんたこういうとき、先んじて『行こうぜ』っていうタイプじゃない? このダメリエイター差し置いて」



「ダメリエイターは余計だ」



 いつもの痴話げんかを始めたにも関わらず、エヴァンは何も突っ込んでこない。本格的に異常が発生していると察知した三人は、エヴァンをじっと見つめる。まるでスポットライトを当てられた俳優のように、エヴァンは台詞を述べる。



「……俺は、エンジュには行かない」

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