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第53話・因縁の再会

 声がした方を見ると、そこには船が隊を成して俺たちのほうに向かっていた。近づいてきた船は砲撃を始め、次々と鳥型モンスターを撃ち落としていく。どんどん劣勢に陥る状況を読み取ったのか、徐々にモンスターが魔王の城へ退却を始めていく。



 状況が収束したことを確認した後、タカオとクレアは船上で闘っていた二人の元へ向かう。彼らの身体は猛攻によりボロボロになっているものの、致命傷を受けている様子は見られなかった。クレアはすぐに回復魔法を唱え、傷口を防ぐと共に体力を回復させていく。



 その間、タカオは人間に戻った人型モンスターの人たちの様子を確認してみる。意識を失っているだけで命に別状はないようで一安心する。しかし、今後もこの手の敵を相手にすると思うと、気が滅入ってしまう。



「ダンナ! ご無事で」



 それぞれの状況を確認している中、ジョニーが船を横に付けて声を掛けてくる。回復呪文によって元気を取り戻したエヴァンは立ち上がり、船縁まで走って応答する。



「サンキューな、助かったぜ!」



「海の上にモンスターが異常に集まっているのが見えたので、これは何かあると思ってきたのですが……。ビンゴでしたね」



「さすがヴァイキングじゃねえか。この窮地に船を出すようになるなんて、お前も変わったな」



 エヴァンに褒められて照れるジョニーを他所に、自分たちが乗っている船の状態について聞いてみる。船は沈んでしまうようなダメージを受けておらず、リューベックまでは十分に持つという判断に至った。そのままターニャの船に乗り込んだまま、ジョニーの先導の元リューベックへ向かう。



         ***




 リューベックのドッグへ入港し、道板を渡って波止場へ降りていく。わずかな時間の航海となったが、ターニャの父親から借りた船に傷をつけてしまった。



「すまない、ターニャ。ディクソンさんがせっかく貸してくれた船を……」



「大丈夫ですよ。ここの整備士さんに任せておけば復旧しますよ。ドワゾンの職人もここに居れば、もっと早く復旧するかと思いますが」



「呼んだかな、ドワゾンの職人を?」



 懐かしい声につい反射的に反応すると、そこにはディクソンさんがいた。お父様、とターニャはすぐに父親の元へ駆け出し、思い切り抱き着く。

 すでに娘の怪力に足元がぐらつくようになっているも、父の威厳かディクソンさんは不動明王のような顔つきで踏ん張る。



「た、ターニャよ。息災のようで何よりだ」



「ええ。私はいつでも元気です。それよりも、どうしてお父様が町を離れてここに?」



「突如として空に城が現れ、さらにモンスターまで溢れ出した。この状況では各地に武器が必要と思い、リューベックから他の町に武器を供給してもらうために訪れたのだ」



「でも、町からお父様が離れるのは危険なのでは」



「わしがここに来たのは、お前たちにこやつを紹介したいからなんじゃ」



 ディクソンがドッグの入口に向かって入ってこい、と合図を出す。すると黒いローブで身を包み、顔も布で隠している男がやってくる。

 またエレノアと対面するのかとヒヤヒヤしたが、布の下から出てきたのは男の顔だった。切れ目で端正な顔立ちをしており、いわゆるイケメンという部類だろう。



「テッシン!」



 ターニャはその顔を見て名前を叫んでしまう。テッシンとは確か邪霊ゴブリンが出てきた際、町の人間をたぶらかしてターニャを裏切った人物。

 ターニャは彼を前にして、明らかにどう対処すればいいのかわからない様子を見せている。それぞれの目には全く違う感情が浮かび上がり、反発することで彼女の頬は引きつっている。



 それに対してテッシンは曇りのない真っ直ぐな眼でターニャを見つめる。そのまま彼はターニャに近づき、膝を折って地面に額を擦りつける。



「ターニャ様! 以前は私の慢心により、あなた様だけでなく町全体を危機に追いやる形となったこと、まことに申し訳ありませんでした!」



 テッシンは額の皮膚が擦り切れそうなほど深く頭を下げ、その声には一切の邪念が感じられない。あの後、彼に何があったのかわからない。だが、おそらく例の一件で深く自戒し、やっと彼女の前に出られる覚悟を持てたのだ。彼の姿勢と声は、自然と彼の改心を表していた。



「……テッシン」



「はい」



「すみません……。私はやはり、子供です。あなたを思い切り殴らない限り、許せそうにありません」



 ターニャの言葉にテッシンはすぐ立ち上がり、腕を後ろで組む。



「私はあなたかの罰ならば、どのようなことでも甘んじて受ける覚悟です」



 ターニャは深く腰を落とし、正拳突きの構えを取り始める。いくらタウルス族の力を解放していないとはいえ、ターニャの正拳突きなんて喰らうと三日は起きられない。すぐに止めようとするも遅かった。拳は彼の顔面目掛けて放たれ、空を切る音がドック中に響き渡る。



 その音に誰もが二人のほうへ視線を向ける。しかし、拳は鼻の頭すれすれのところで止まっており、テッシンもその拳を真っ直ぐに凝視する。



「どうして、避けなかったのですか?」



「私はあなたに殴られて当然のことをしております。ここには、その覚悟を持ってきております」



 ターニャは拳を開き、彼の頭を優しく包み自分の体のほうへ引き寄せる。



「あなたの罪は、邪霊封印後に私から逃げ出したこと。その罰はこの危機を乗り切るため、全力で助力することで贖いなさい」



 テッシンはターニャの言葉に震え、声を出すこともできなかった。ただ額を涙で濡らし、首を縦に振っていた。

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