第52話・仮面と鳥まみれの煉獄
「あの鎧と仮面、もしかして……」
ターニャは自然とハンマーを握り出し、タウルス族の力を解放していく。そう、目の前にいる鎧姿の人型モンスターは、邪霊ゴブリンが作らせていたものと同じように見える。
あのときは日本風の甲冑だったが、目の前にいるモンスターは西洋風の鎧に変化している。仮面についても変化が見られ、以前は和風な鬼の面だったのに対しドクロ面になっている。
次々と人型モンスターが降り立ち、俺たちと同じく四人編成で隊列を組み始める。手に持っている武器は剣やヤリ、フレイルと多種多様。一人はローブ姿で杖を持っており、おそらく呪文を使うタイプだ。それぞれドクロの仮面も違っており、おそらく武器や役割ごとに違うのだろう。
「……!」
白い人型ドクロの仮面を被ったモンスターが剣を掲げると、ヤギ仮面を被った魔法使い風のモンスターが呪文を唱える。甲板の上に炎が走り始めるも、クレアがすぐに風の魔法にて鎮火させる。
「ったく! やっぱりこの船は呪われてるんじゃないのか?」
クレアの魔法で炎が収まった途端、エヴァンが敵陣に突っ込んで陣形を引っ掻き回す。急いでフレイルを持った牛仮面が反撃するも、エヴァンはするりと回避する。フレイルはエヴァンの後ろにいたトリ仮面の顔面にヒットし、仮面が割れると共にヤリを落とす。
「へん! ひと様の猿真似かしらないが、慣れないパーティ戦なんておいそれとやるもんじゃないぜ」
偉そうにエヴァンがポーズを取る。しかし、仮面の割れたモンスターはただ呻くだけで、身体から瘴気を吹き出しはじめる。みるみるうちに身体から鎧が外れ出し、中から人間が出てくる。
「なんだよ! もしかして、こいつら全員ー」
「そうだ、下手に息の根を止めるなよ!」
ターニャが意識を失った人間を救出するため、別のモンスターへ攻撃をはじめる。彼女の突撃を防ごうとヤギ仮面が再び呪文を唱え出すも、タカオはフォームチェンジで風の精霊の力をまとう。
すぐに背中に羽が生え、軽装の鎧に羽毛が生えた姿に変わる。風の力で瞬間移動のような速さでヤギ面に近づき、二刀の短剣に変化した封印剣で仮面を切り崩す。すると、先ほどの鳥面と同じくヤギ面の人型モンスターも人間に戻っていく。
「流石だ、タカオ!」
ターニャはリーダーらしい人型ドクロ面の間合いに入る。敵もすかさず反撃を加えようとするも、ターニャはハンマーで攻撃を受け、仮面を拳を思い切り叩き込む。衝撃が加えられた部分からパキパキと音を立て、仮面が崩れ去っていく。
一人取り残された牛仮面のモンスターはオロオロし始める。妙に人間臭い行動をするも、クレアは容赦なく仮面に杖の一撃を加える。きれいに仮面が割れると、そのモンスターも他と変わらず人間に戻っていく。
「やれやれ……。意外とあっさりしたものだな」
「エヴァン、油断するな。あれだけの数を手加減して闘わないといけないんだぞ」
ターニャが指さす先は魔王城だった。魔王城の周りはおびただしい程のモンスターが飛んでおり、それは空一帯を覆うほどだ。その一部は各地に攻め入ろうとしており、中には新たに人間を連れ去っている鳥型モンスターの姿も見える。
「これじゃ、キリないな」
ぼやいているとドン、と大きな音を共に船が揺れる。音がした方を見ると火の手が上がっており、どうやら鳥型モンスターが吐いた火球が船にヒットしているようだ。
「俺が行く!」
「私も」
クレアも翼を展開して俺と共に空に舞い上がり、船に攻撃を加える鳥型モンスターを撃墜していく。顔はプテラノドンのような形になっているも、羽は限りなく鳥そのものだった。
攻撃を加える俺たちにまるでカラスのようにモンスターが群がるも、何とかクレアが風魔法で数を減らしていく。タカオも魔法で応対し、船に一匹でも近づかないようにモンスターを処理する。
一方、エヴァンとターニャは船に降りてきた人型モンスターの対応に追われていた。攻撃を避けては仮面を割る作業が続き、次々と船に解放された人間が積み上がっていく。
「お前、拳から血出てるじゃねえか」
エヴァンとターニャは背中合わせになる。仮面を付けたモンスターが二人を囲み、ジリジリと近づいていく。
「ふん、これぐらい……」
「これ、巻いとけよ」
エヴァンはそういいながら、ターニャにバンダナを手渡す。エヴァンからの差出に、ついターニャはほくそ笑みながら手に取って拳に巻いていく。
「ちょっと好きになってくれた?」
「どうだろうな。自分より強い人間しか興味ないからな」
「そりゃ当分、彼氏は無理だな」
「……終わったら殴る」
逃げるようにエヴァンは駆け出し、再びモンスターの隙を狙って仮面をピンポイントに攻撃していく。同時にターニャも攻撃を始め、こちらはまるで解体作業のようにバキバキと小粋な音が立つ。
クレアとタカオは相変わらず船の様子を見ながら応戦し、一匹でも船にモンスターを近づけないようにする。しかし、すべてを防ぐことはできず、人型モンスターが次々と船に乗り込んでいく。
「まずい! そろそろ戻るしかー」
「待ちなさい、タカオ。いまここで私たちが引けば、被害はもっとひどくなるわ!」
「だったら、クリエイトの力で船を」
「そんなことしたって、この大群の前じゃ焼け石に水よ」
「くそ、ここまで来て……」
ここはまるで煉獄なのか戦いに終わりが見えない。これはすでに闘いですら無く、目の前にあるプチプチをただ潰していく作業のように感じる。
仕事でも数に追われると質がどうしても低下するものだが、闘いですら物量戦になってくると、こうも敵を倒すことに躊躇が無くなってしまうものだろうか。
「おーい、エヴァンのダンナ! 援護に来ましたぜ」
モンスターを切り裂く戦闘マシーンに成り下がりそうになったとき、懐かしい男の声が海に響いた。




