第51話・終焉の序曲
「で、実際のところはどうするんだ?」
船を止めた場所まで戻る道中、エヴァンが今後についてぼやきはじめる。
「どうするって……。グリフィスさんが言ってた話は伝説だけど、それをなぞってみるしかないんじゃないか?」
「う~ん。トレジャーハンター的には心揺り動かされる話だが、あまり時間を掛けられる話でもないしなあ……。
てか、タカオさん。この大地の緑をよみがえらせるほどの魔法……。クリエイトだっけ? それ使えるんなら、方舟も作ってくれよ」
「無茶いうなよ……。それに、残念ながら俺の『クリエイト』の魔法はそこまで便利じゃないんだよ。強い思いが必要だし、具現化したいものもイメージできないと難しいしな……」
「なんだよ、戦闘中はあれだけ活躍する魔法なのに……。意外と使いづらいのね」
その通りだ。その通り過ぎることをキッパリ言われると、ムスリとしてしまうものだ。反論として魔王の居場所知らないだろ、と付け加える。タカオの言葉に納得したのか、エヴァンは大きなため息を付く。
「それでも、あまりのんびりはしていられませんよねえ……」
「まあ、二人の言うことは確かね」
タカオ達三人のやり取りを聞いた後、クレアは神妙な顔つきで相槌を入れる。
「今までは邪霊を使ってジワジワ責めていたのに、最後は邪霊を使ってこなかったでしょ?」
「そうですよね。この地では、エレノアが直接私たちを責めてきました」
「リューベックでさえ邪霊を使って私たちを葬り去ろうとしたのに、この地ではエレノアが邪霊を使って直接手を下そうとしてきた。奴さんが私たちの存在をそれなりに危惧しているからこその一手だと思うし、彼らの世界侵略の手は一刻も早く阻止すべきよ」
クレアの言葉に一同は頷き、とにかく行動を起こす必要性を確認する。アクアの話によるとデニスは転生した人間を集め、モンスター化を進めている。それも早く止めるためにも、魔王がいる場所を一刻も早く探す必要がある。
今後のことや現状についてクレアが話していると、目の前に海が見え始めターニャの船も視界に入ってくる。もう誰も病気になるなよ、と皮肉を言いながらエヴァンが出航準備を始める。
クレアがついにエヴァンへ蹴りを入れながら船に乗り、ターニャがそれを微笑ましそうに見ている。確かに船に乗る際は色々あったが、久々に潮風を楽しめると思うと気分も軽くなってくる。
「……! クレアさん、タカオさん! あそこ!」
ターニャの言葉に合わせ空の方を向く。すると、ガラスに入るような大きなヒビが空に出来ており、パリパリと音を立てながらどんどんヒビが広がっていく。
バリン、とけたたましい音と共に穴が空き、そこから濁流があふれ出すように巨大な鳥型モンスターが出現する。その上には誰か乗っているようにも見える。
タカオ以外のメンバーも唖然としている中、さらに穴から大きな城も出現する。RPGでよく見るような尖った塔が何本も付いており、堅牢な外壁で覆われている。浮くはずのない物体が空に浮かんでいるだけで異様さが漂い、足が動かなくなってしまう。
「クレア、もしかしてあれが」
「ええ。魔王の城でしょうね」
城が出てくるだけで空の色が青色から赤色に変わり、世界は一気に混沌を極めだす。さらに瘴気がグルグルと空に渦巻き始め、そこに魔王・デニスの顔が映し出される。
「こうして主らの前に顔を出すのはいつぶりだろうか。……さて、久々にこの世界へ訪れたのは他でもない。本格的に貴様らを支配下に置こうと思うてな。さあ、我を守る親衛隊たちよ! この世界に混沌の渦を起こすのだ」
デニスは演説が終え、瘴気が無くなると共に消滅する。エヴァンも急いで船に乗り込み、まるで逃げるように出航する。
「おいおいおい、あれが俺たちの探していた魔王城じゃねえのか?」
「ええ。探す手間は省けたけど、これだけ空にモンスターが出現した上に空に浮かんでいるとなると……」
「どうする、とりあえずリューベックに帰るか? あそこはこの世界で一番船に造詣のある町だから、何か情報を得られるかもしれないぜ」
「私もドワゾンに帰り、何か伝承がないか調べてみたいと思います」
「そうだな。じゃあエヴァン、舵をー」
進路を指示しようとしたとき、空から殺気が向けられているのがわかる。瞬時に察知したタカオ達は、三々五々に散って攻撃を避ける。空から強襲を加えてきたのは、ヒビからあふれ出した鳥型モンスターとそれに乗っている人型モンスターだった。
「タカオさん、あの鎧!」
ターニャの言葉を受けて、人型モンスターが着用している鎧に注目する。その鎧は邪霊ゴブリンが町の人に作らせていたものと同系統で、それぞれ違う仮面を被っていた。




