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第49話・実現される伝承

 無事に最後の邪霊を封印し、封印剣に四元素すべてが封印された。

 タカオは剣を眺めるも何の変哲もなく、ただいつものように封印した元素の色に合わせ、剣に刻まれた文字が発光しているだけだ。最後の元素を封印すれば何か変化が出てくるかと思っていた分、どこかがっかり感がある。



「やったな、タカオ」



 エヴァンが剣を掲げる俺の肩を抱き、グラグラと揺らしてくる。闘い終わった後だというのに、いつもこれだけ元気な彼が不思議でならない。



「タカオさん、ありがとうございます。あなたのお陰で、なかなか気持ちのいい素振りを経験することができました」



「あのな……」



 ターニャはしなをつくりながらフフッと笑みをこぼしている。彼女の戦闘力が高まるほどギャップがより広がりを見せ、俺とエヴァンは背筋をなぞられるような震えを覚えていた。



 邪霊の消滅によって次第に空は青くなり、肌にまとわりつくような空気もスルリと快適なものに変化していく。俺たちは顔を見合わせて達成感を噛みしめ合うと、空から両翼の生えた人間が降りてくるのが見える。それはクレアだった。



「クレア!」



 空から舞い降りる天使を迎えるように、タカオは手を差し伸べる。スッと抵抗なくその手に導かれながら、クレアは俺たちの元に帰ってくる。彼女の髪色は青色と緑色の両方が混じった状態になっており、おそらくエレノアと再び1つの身体に戻ったのだろう。



「クレアさん、やったんですね!」



「なんとかね」



「クレアちゃん、意外とやるんだねえ。髪色まで変えちゃって」



「あんた、次ちゃん付けで呼んだら風呪文くらわすわよ」



「エヴァン、こいつ本気でやるからな。しかも今は戦闘力半端ないからな」



「お~お~ どうしてうちの女性陣は強い子たちばかりなんかねぇ」



 エヴァンの軽口に笑っていると、教会の方から飛んでくる人影が見える。それは鳥人間であるグリフィスだった。タカオたちは彼に向かって手を振り、自分たちの所在をアピールする。彼は手を振り返しながらタカオ達の元に降り立ち、深いお辞儀をする。



「あなた方があの女を倒したのですね。本当にありがとうございます」



「いや、俺たちもあいつと闘わないといけなかったから……。次いでと言えば次いでだよ」



「それでも、感謝しても感謝し切れません。ただ、この何も無くなった大地を復活させるためには、少々骨が折れそうですが……」



 グリフィスの言葉に俺たちはつい視線を落とすも、クレアだけは違った。



「ほれ、タカオ。いつもみたいにやるよ」



「ほえ?」



「ほえ、じゃないわよ。あんたの持っている力は何?」



「いや、でも……。草木なんて動植物のクリエイトは今までも失敗してるし」



「思い出して、あなたのフォームの力」



 クレアは急に耳元に近づき、ヒソヒソとつぶやく。その声色や微妙なイントネーションの違いは、クレアのものとは違っていた。身体を離してクレアの顔をじっと見る。彼女の顔を見ていると、現実で会ったことない「アキ」の顔が浮かんでくる。



「タカオ?」



 エヴァンの声でやっと我に返ると、各メンバーはそれぞれクレアに先導される形で歩き始めていた。戦闘によって完全に崩れ去った廃墟から出発し、どんどん砂地を歩いていく。一定数歩くとクレアが立ちどまり、ここがいいわね、と地面を触りながらつぶやいた。



「ここは、命の大樹がそびえたっていた場所ですな」



「命の大樹って、この大陸の観光名所の一つになってるあれか?」



「ええ。観光としても有名ですが、この大地の源は命の大樹が根付いていることに理由があります。大樹はこの大地の水や土を循環させ、常に命の息吹を我々に与えてくれます。それが『治癒の大地』と呼ばれる所以になっているわけです」



 へぇとエヴァンとターニャが声を上げて説明に聞き入っている。そんな彼らを他所に、クレアは微笑みながらタカオに声を掛けてくる。



「さあ、タカオ。四つの元素の力を習得してからの初クリエイト、やってみましょうか」



「あ、ああ」



 彼女は「フォームの力を思い出せ」と言った。フォームは他者の思いを力にする能力。



 ーこの干上がった土地を再び緑ある大地に戻したい。



 クレアの思いとグリフィスの願いを受け、タカオは神経を集中させていく。クレアも翼を広げて水をくむように手を構えると、手の中で小さな風を巻き起こす。



「タカオ。小さな苗木でいいから、それを手に持っているのを想像して」



「あ、ああ」



 クレアの指示通り、手でお椀を作ってそこに苗木が置かれているのを想像する。すると、自然と頭の中に土が耕されるイメージが流れ出し、その土に水がしみこむ絵に変化していく。何か手に重さを感じると、そこには湿った土が置かれてあった。



 さらにクレアの生み出した風が混ざっていくと、土と水が程よく混ざり合い、その土から植物の芽がぴょっこりと出現する。まるで神の御業を目の当たりにしたように、グリフィスは感嘆の声を上げる。



「さ、タカオ。それを植えるわよ。そして、この大地に命が芽吹くように風を贈るの。この大地を風の魔法で癒すように」



 わかった、と返事しながら指定された場所に苗木を植える。そして、シールの剣を取り出し風の元素魔法を唱え、クレアも癒しの風呪文を詠唱し始める。癒やしの力を持つ風の元素の力を用い、クリエイトスキル「フォーム」で大地に「命の息吹」を届ける。



 さっきは苗木だって作れたんだ。クレアと、そして大地の復活を願うグリフィスがいればできる。このシルフェニア大陸に伝わる伝承を、みんなで実現するんだ!



「この大地にそびえ、生命を守りし大樹よ! 今一度我らが起こす風に吹かれ、この大地に緑を与えたまえ!」



 詠唱が終わると共にふわっと風が舞い上がり、緑の風が大地を駆け巡っていく。風が触れたところから次々と草木が蘇り、みるみる内に自然の香りが漂うになってくる。



「これは、なんという奇跡! クレアさんとタカオさん、あなた方は神様だったのですか」



 タカオもクレアも同時に見つめ合ってから答えた。



「いいえ、ただのクリエイターです」

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