第48話・邪霊ジズとの封印戦!
クレアがエレノアと共に空へ上昇するのを見送り、タカオは目の前にいる風の邪霊・ジズに視線を移していく。身体は大型のネコ科をさらに大きくしたような白い体つきで、足も鳥というよりも肉食動物に近い。背中と腰の辺りにそれぞれ羽が付いており、顔は鷲のようだ。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオン!」
その姿は邪霊というよりも精霊そのものというイメージだが、向こうは臨戦態勢バッチリという感じだ。ターニャもエヴァンもすでに武器を構えており、合図を出すのを待っている状態だ。
「さて、今回はどうするんです? ダンナ」
「ダンナなんて、妙な呼び方するなよ」
「でも、このパーティはタカオさんの作戦で持っているようなものですよ」
タカオは背中に注がれる期待に応えるように、ギュッと封印剣を握って魔法陣を展開する。
「それじゃ、行くぜ! 風の攻撃は俺に任せろ」
ゴーサインをきっかけに、二人は敵に向かって突撃し始める。ターニャが筋力を増強しながら地面を駆ける。しかし、ジズは背中に付いている大翼をばたつかせながら空中に浮かび、大きな風を巻き起こす。その風は人の身体を簡単に吹き飛ばそうとするも、タカオは二人の前に土の障壁を作る。
風が収まると再びジズに向かって走り出し、飛び立つジズに立ち向かったのはエヴァンだった。素早い一閃を加えようとするも、白い羽毛が逆立ってエメラルド色の刃になる。咄嗟に手を引くも、その切れ味はするどくエヴァンの手から血が垂れだす。
「おいおい。なんだよ、あれ!」
「これが、ジズの本当の姿」
毛が逆立ったジズの身体は所々がエメラルド色となり、頭にも猫のような耳が出来て、さらに猫のようなフォルムへと変化する。まだジズの側にいたターニャはそのまま待機しており、お互いに睨み合う。
先に攻撃したのはジズ。大きな身体を空中でひねりながら勢いをつけ、ターニャにその大きなクチバシで噛み付こうとする。
「ターニャ!」
援護魔法を唱えようとするも、それをエヴァンが制止する。なぜ、という言葉はゴン、という鈍い音でかき消される。ジズの方を見ると、その顔にはターニャのハンマーによるカウンターが成功している。しかし、そのカウンターにジズはひるむ様子を見せず、そのまま無理に攻撃をねじ込もうとする。
「やっぱりだめじゃねえか!」
急いで火の元素の魔法を唱え、注意を逸らす。その間にエヴァンは素早くターニャに近づき、フォローを入れていく。
「あの身体はやっかいだな。あれを壊すか、ダイレクトにダメージを与えられる攻撃力じゃないと」
「タカオ、あれを私にしろ!」
ターニャは早く、というジェスチャー付きで何かを要求する。
そうだ、俺には似合わなかった土の精霊のフォームチェンジ!
ここで使わなければ、どこで使う。
タカオは急いでターニャにフォームチェンジのクリエイト魔法を掛ける。彼女の周りが土で覆われ、まるで卵のような形になる。
そのてっぺんからボロボロと土が剥がれていくと、中からはツノが巨大化し、金色のガントレットと胸当てに身を包んだターニャが現れる。手に持っている武器も変化し、ハンマーの反対側にはカマが付いていた。
「すごい……。身体の底から力がみなぎってくる」
「すげぇな、こりゃ土のフォームチェンジはターニャ専用だな」
「エヴァン、お前いますっげえ失礼なこと言ってるからな!」
しかし、そう言われても仕方ない。土の精霊には性差別でもしているのか、と言いたくなるほどターニャにピッタリのフォームだ。
「よ、よし! ターニャ、その姿ならいけるだろ!」
「任せろ!」
ターニャはジズに向かって再び走り出していく。彼女に向かって邪霊は羽から刃の雨を降らせるも、ターニャが地面をハンマーで叩くと、家よりも大きな岩の壁を出現させる。刃はすべて壁に刺さるも、風の勢いでその壁を切り崩していく。
「ジズ、これでも喰らいやがれ!」
その攻撃を中断させるため、タカオはリヴァイアサンが使っていた圧縮水鉄砲を放つ。水に濡れた体毛は少し柔らかくなり、先ほどのように刃を立てることはできなくなっていた。
「ターニャ、今だ!」
タカオの合図とほぼ同時に、彼女はジズの頭上にジャンプ。
「これで、ラストぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
強烈な一撃はジズの頭を地面に埋め、その反動で身体まで反り返ってしまう。身体に浮き出ていたエメラルド色も消え去り、完全にジズは伸びてしまう。
タカオはそのタイミングを見計らい、元素を封印する魔法を展開する。ジズの身体は見る見るうちに風となり、すうとタカオ達の身体を癒しながら剣へ吸い込まれていった。




