第45話・クレアの決意
視界がどんどん開けてくると、タカオ達はボロボロの小屋に降り立ったようだ。隣にはクレアも立っており、あの不思議な世界からそろって帰還できたことに安堵する。後ろを見ると十字架と修道院風の恰好をした石像が飾られており、どうやら元は教会だったことがわかる。
「お目覚めになりましたか?」
急な声に俺はびくつき、つい剣の柄を握る。しかし、教会の入口から入って来たのは神父服を着た鳥人間だった。さらに、彼の後ろにはターニャとエヴァンもいた。
「クレアさん、もう大丈夫なんですか!」
「タカオ、てめえ一体どこに!」
二人はほぼ同じような台詞を同時に吐き出し、ターニャはクレアが倒れるぐらい抱き着き、エヴァンはタカオの肩や腕を触りながら、幽霊でないことを確認しているようだった。
「お、落ち着けって! 俺は生きてるから」
「私も大丈夫だから!」
タカオとクレアは二人をなだめながら、どうやってエレノアと戦った場所から逃げたのか聞いてみる。ターニャとエヴァンも気が付くとこの教会にたどり着いており、鳥人間・グリフィスに治療を受けたようだ。
「お二人とも、この教会近くの浜辺に打ち上げられていたのですよ。傷だらけでしたので、私がここまで運んで治療をしておりました」
おそらく番人の力によってパーティキャラクターとしての補正が掛かり、この教会を守るグリフィスに助けられたのだろう。はじめに会った番人自体はふざけたキャラだったが、アクアが用意しているAIだと考えれば流石と言わざるを得ない。
「助かったよ、グリフィス」
「いいえ、私はシルフェニア大陸で生活しているものとして当然のことをしたまで。ですが、あの女によって滅茶苦茶になるだけでなく、仲間まで……」
そうか、と言うも、それ以上の言葉が続かなかった。その沈黙を破るようにエヴァンが、突然タカオとクレアが教会に出現した理由を訪ねてくる。
タカオがどう説明しようかまごついていると、クレアがこのゲーム世界に関することを伏せながら、三人とは別の場所で闘っていたことを話す。そして、タカオはその中でフォームチェンジの力に目覚めて自分のことを助けてくれたと説明した。
しかし、あまりに突拍子もないのかターニャとエヴァンは納得した顔をしてくれない。実際に見せたほうが早いと思い、外に出てからタカオはフォームチェンジを披露する。どうせだから、とタカオは土の精霊のフォームチェンジを試してみる。
「これが、タカオの新しい力……」
土のフォームチェンジでは身体以上の長さを持つ大剣となり、身なりはターニャと同じように軽装で左手に大き目のガントレットが備わっている。大剣はアックスにも変形する仕様になっており、重そうに見えるも振るう分には問題なかった。
「剣は素晴らしいですが、なんていうか身なりはいつものタカオさんのほうがいいですね……」
確かに、タカオの身体は決して肉付きがいいとは言い難い。それに、前衛を務めるようなタイプでもない。土の精霊のフォームは、ターニャのほうが力を引き出せるかも……。
俺以外の人間にこのクリエイト魔法を使い、真価を発揮してくれるかどうかは定かではないが、そんな想像が頭をよぎった。
「とにかく、タカオさんが新しい力に目覚めたのはわかりました。これがあれば、エレノアにだって……」
「ええ。勝てると思うわ」
クレアは簡単に言ってのけるも、エヴァンはその自信がどこからやってくるのか問いただしてくる。クレアは以前よりも余裕のある態度で、作戦を立案したことを説明し始める。
「あんた達は風の攻撃を使うエレノアと闘ったのよね?」
「ああ。あいつは邪霊の力を自分の身体に取り入れたって言っていた」
「だったら、おそらくこの土地の精霊を邪霊化して、自分の力として使っているんでしょうね。あんたが精霊を封印して使っているのと要領は同じよ」
なるほど、とエヴァンをはじめタカオとターニャも頷く。
「だったら、まずはエレノアと風の邪霊を分離しましょう。フォームチェンジの力を得たタカオと、解呪の指輪を持っているエヴァンがいればできると思うわ」
「それから?」
「三人は力を合わせて邪霊の封印に当たって。私は一人でエレノアと闘う」
クレアは杖を握りしめながら、堂々と宣言する。タカオよりも先に忠告したのはターニャだった。
「そんな、どうしてそんな危険なことを!」
「……ごめん、今回は私のせいでみんなを危険な目に合せた。その罪滅ぼしじゃないけど、けじめを付けるべきだと思っているの」
「でも、クレア。それは危険すぎるんじゃー」
タカオの言葉を遮るように、クレアは自分の背中から片翼を出現させる。突然のクレアの変化に、フォームチェンジよりも二人のリアクションは大きかった。
「見ていたから知っていると思うけど、私はあいつに操られていた。そもそも私は、あいつの操り人形だったの」
クレアは自分が「アキ」だったという事実以外、すべてを懺悔するつもりだったようだ。
自分がエレノアの残り粕であること、その敵が自分の記憶や力を持っていること……。
話を聞いた二人は顔を伏せ、それ以上は何も言おうとしなかった。
「何も覚えていなかったといはいえ、あなた達を全滅の危機に追いやった。本当にごめんなさい」
「クレアさん……」
「でも、ケガの功名かこうして私にも妙な力が付いたわけ。だから今回だけは私の我がままを聞いてもらえない? さっきはけじめなんて恰好付けたけど、個人的にあいつをボコボコにしたいわけ」
クレアは屈託のない笑顔を見せる。その顔を見せられると、ターニャもそれ以上は何も言わなかった。タカオ達は自分たちの作戦を再度確認し、ゲームオーバー地点へ再度歩を進める。




