第38話・バグって死亡?
「ゲームの番人?」
タカオが復唱するとえっへん、と言わんばかりにお腹を前に突き出してくる。身体はコートで全身が包まれており、顔部分もまるですべてを吸い込むブラックホールのように暗かった。
その闇にうごめくように黄色い光が二つがぼんやりと浮かんでいるだけで、出で立ちや大きさから人間である可能性はないだろう。
「お前って、もしかして風の精霊か?」
「ぜんっぜん違うよ~」
ゲームの番人、と称するマスコットキャラクターのような生物は、プルプルと湯気を立てながら怒りを露わにしてくる。
「確かに僕は君が倒れていた神殿の石像に似てるけど、ちっがう! それよりわかってる? 君はこのゲームにおいてイレギュラーな存在なんだよ。バグを引き起こす最重要人物なわけ」
「はあ? なにマスコットみたいな恰好してそれっぽいことを言おうとしてるんだよ」
「うそじゃないんだもん! 僕はこの世界を裏で支えるシステムそのもので、開発者の一人であるアクアさんが特別に用意してくれたキャラクターなんだよ」
「システム? キャラクター?」
「そう。プレイヤーがこの世界に来た時にクリエイトのスキルを開眼するように促したり、新しい力解放の承認を認めたりー」
この世界にやってきたときや合成魔法を使い際、確かに声が聞こえていた。その声の主はこんな小さい番人だったというのか。女性の声だったのでいづれか美しい女神にでも会えるかと思っていたが、少し肩透かしを食らった気分だ。
「ほかにも、ゲームをプレイしている人のキャラクターが死んでしまうこともあるでしょ。そのとき敵キャラクターの時間を止めて、そのプレイヤーがリスタートできるようにするとか」
「なんとメタいことを……」
「ゲームオーバーになったプレイヤーを教会へ連れて行くのも僕たちの仕事なんだから。その配送料としてお金を半分ほど頂戴しているんだけれどー」
「あれ教会へのお布施じゃねえのかよ!」
「現実はシビアなんです。とまあ、僕たちはプレイヤーが快適にゲームをプレイするためのシステムそのものな訳ですが、開発者の水原アキさんも物好きなのか僕みたいなキャラクターにAI知能を与えてくれたみたいで」
シナリオ作家についてはある程度知っているものの、さすがに開発者については網羅していない。開発者の「水原アキ」と言われても、さすがに検討が付かない。考え事をしていると、また番人がプリプリと怒りを露わにする。
「ちょっと聞いてますか~! この僕が出てくるということは、ゲームオーバーしたときに自分の都合でリセットしたり卑猥な行動を取ったり、人の家のツボを壊し過ぎたときなど、問題行為があるときなんだよ!」
これまたメタなことを……。
「とにもかくにも、僕が君と話しているというのは最悪な状態なわけだよ。君はこの世界において異質な存在なんだからちょうしゅ、ちょうしゅだよ」
聴取される心当たりはあり過ぎる。それは、ゲーム世界に自分がやってきていること以外の何者でもない。おそらくこのゲームは、普通ならばオープニングがあってそこから名前登録などをするのだろう。しかし、タカオは生身のままこの世界に飛び込んでいる。存在自体がイレギュラー以外の何物でもない。
「待てよ! 俺以外に転生してきた人間って、もしかしてー」
「あなた、何を言っているの?」
「だから、俺以外にもこうした人間がー」
「何言っているんですか。あなた以外の人は基本的に元の世界へ帰ってもらっていますよ」
ほっと胸をなで下ろすも、あのドラゴンにむざむざ倒されたともあれば結構なトラウマになっているのではないだろうか。今でもあのツメや炎を思い出すと、ぶるっと身体が震えてしまうものだ。
「どうしたんですか、自分の犯した罪の重さに卒倒しそうですか?」
「そうじゃない! 俺以外の人間をどこにやった!」
「いえいえ、イレギュラーの君にいくつか訪ねることがあるんだけど」
「俺がこのゲームで少しおかしな存在というのはわかるが……。それよりもー」
「そのために必要なことだよ」
番人は先ほどまでのふざけた様子を一気にかき消す。フュッと一陣の風が吹き、踏み込んでいないとこけてしまいそうだった。
Q1 タカオさんが好きなゲームが何ですか?
俺の目の前に白い文字で、この世界にやってくる前に受けた質問内容が浮かび上がる。それ以上は言葉を発しようとせず、一気に機械じみた雰囲気を醸し出す。
「俺が好きなゲームは『クロスハーツ』と『かまゆでの夜』だ」
Q2 そのゲームのどこに惹かれましたか?
「シナリオだ。システムもさることながら、とにかくシナリオがいい」
Q3 シナリオのどのような点に惹かれましたか・
「人の感情の機微がきちんと描かれているんだ。それらは小説とは違い、さながら自分が体験しているような気分をより実感できた」
Q4 あなたはこのゲームからどのような影響を受けましたか?
「……俺も、俺もあのゲームみたいなシナリオを書いてみたいと思った。先のない日本企業や時間の浪費でしかない学校に金払って入るぐらいならば、なんて思ってたけど。現実はそう簡単じゃなかった。俺みたいな素人ライターに、誰も目もくれないんだよな」
Q5 ゲームに感化されたことを後悔していますか?
「どうだろうな。嫌いならこんな世界には来ていないと思う。でも、半分投げやりで自分の人生なんてどうでもいいっていう気持ちはあった。ただ、この世界は違った。やっぱり俺にとってゲームの世界は心地良いだけじゃなくて、前を歩くための光のような存在だと思った。
ただのゲームキャラクターっていうかもしれないけれど、自分にとって大事だと思う人なんて違うんだよ。それはスポーツ選手でもアイドルでも俳優でも同じだと思う。自分の価値観を変える存在が、俺にとってはたまたまゲームのキャラクターであり、シナリオだったなと、この世界にきて余計に思い始めている」
Q6 では、あなたが溺愛するゲームのシナリオを書いた作家は誰ですか?
「それは、デニス・ナカモトだ」




