第37話・滅びの風刃
炎の塊はエレノアにヒットし、爆発と共に煙が立ち上がる。クレアは再びバリアを張りながら空中へフワフワと浮かび上がりながら回避行動を取る。何らかのダメージを与えたかと思ったが、エレノアは無傷のまま煙の中から姿を現し、彼女の周りは風がまとっていた。
「便利なものだな、風の力というのは。私を守ってくれたりー」
エレノアが持っている剣をふっと振るだけで風が起こり、それは突風となって俺たちに襲い掛かってくる。
「簡単に突風も巻き起こせるし、それに!」
タカオに飛び掛かるエレノア。その攻撃を土の元素の魔法で防ごうとするも、エヴァンが避けろと叫んでくる。咄嗟に声を反応して横にジャンプすると、地面に向かって刀が振り下ろされる。その瞬間、一閃の風が地面を走り、まるで大陸を分断するような斬撃の跡がくっきりと残る。
「よく攻撃を見ろ! あいつが持っている武器は普通じゃねえぞ」
「エヴァン、よく見ようと見まいと勝敗は決しているのさ」
すっと刀を軽く動かしただけなのに、斬撃がエヴァン目掛けて飛んでいき、彼の身体を斬り付け血が空中に飛散する。
「エヴァンさん! てめえだけは許さねえ!」
やはり躊躇していたのか、ターニャはこのタイミングでタウルス族の力を解放させていく。再びエレノアが斬撃を飛ばしてくるも、ターニャはハンマーを地面に叩き付けて衝撃を生み出し打消していく。
その勢いのまま彼女は突撃をかますが、ひらりとかわされる上に、刃の餌食となってしまう。ハンマーの柄で攻撃を受け止めていたはずだが、風をまとった刃の前では真っ二つにされた。
ターニャはその攻撃を耐え、まるでゾンビのようにエレノアのほうに向き直り、掴み掛かろうと突撃する。エレノアは容赦なく攻撃を加えようとするので、俺は間に入って奴の攻撃を何とか受けきる。バチバチと元素同士が反発し合い、それだけで顔の皮膚が焼けてはがれそうだ。
「お前ごときが私を倒せるとでも?」
「倒せるかどうかじゃない、倒すんだよ」
「戯言を! 私でこれほど苦戦していて、魔王などに勝てるのかな」
エレノアは刀を払い切り、無理やりに俺の身体を吹き飛ばす。ヨタヨタと足元のバランスが崩れるも、後ろにいたターニャが何とか身体を受け止めてくれる。ターニャ、と声を掛けるが斬撃のダメージが効いているのか意識が判然としていないようだった。
「今まで別の邪霊に頼っているのが間違いだった。私自身がこの邪霊の力を使っていれば、これほど簡単にお前たちを葬り去ることができたわけだ」
「やっぱり、お前が!」
「魔王さまの命令に基づき、各地の元素を邪霊化すること。そしてこの世界を魔王さまのものにする。私の使命はそれだけだ」
「精霊を邪霊化して、一体何が目的なんだよ」
「お前が知る必要もないこと。そして、私もな……」
エレノアが刀を空目掛けて掲げると、クレアが魔法を唱えてトルネードを発生させる。その風は刀に吸い込まれていき、ドラゴンの牙よりも大きさへ変貌する。
「さよなら、タカオ」
両手で構えられた刀は、まるで神から下された罰のように舞い降りてくる。目の前が真っ白になり、クリエイトの魔法も感情も身体もあっけなく砕け散っていった。
***
死の世界、なんてあるのだろうか。そんなこと現実世界で考えるのは無意味だ。でも、ゲームの世界ではどうだろうか。
ゲームならばコンティニューポイントからはじまったり、セーブポイントからスタートするものだ。有名なゲームならば教会からはじまって主人公が棺桶を引きずっているものだが、この世界ではどうなってしまうのだろうか。というか、今どうなっているんだ!?
「ブツブツうるさい人だね~ 死んだくせにこんなザワザワする人はじめてだよ」
突然の声にハッと目覚めると、タカオの一気に視界が広がっていく。先ほどまでいた土地とは違い、空は澄み切っており、地面は緑に覆われて赤白黄色と童謡のように色とりどりの花々が咲き乱れている。
「なんだ、ここ……。まるで天国みたいな」
「天国じゃないけど、少なくとも普通の人間が息を吹き返す場所ではないよ」
フヨフヨと不思議な音が耳に付くので、タカオは音がするほうを見てみる。そこには、神殿の廃墟で見たのと同じような出で立ちの物体が浮かんでいた。しかし身体は小さく、サッカーボールを二つ重ねた程度の大きさしかない。
「うわぁ! おまえ、まさかお化け?」
「しっつれいな奴だなぁ。僕はゲームの番人だよ」




