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第35話・マリオネットシンドローム

 ターニャがクレアの側から片時も離れていない間、船は風の元素で溢れる「シルフェニア大陸」に到着した。エヴァンの掛け声を聞いたタカオはクレアを背負って外に出ると、大陸とはじめて対面する。すべてを癒す風の元素の大陸と聞いていたが、そのイメージとは全く違っていた。



「なんだよ、これ……」



 波止場から見えるシルフェニア大陸は、まるで荒野のようになっていた。何年も水を与えられていない肌のような土地はカサカサで、木はやせほそって丸坊主だ。まだ海辺はいいが、大陸の先に目を向けると砂漠化がはじまっている場所もあるのがわかる。



「エヴァン、この大陸ってー」



「ああ、こんな姿じゃなかったぜ。緑あふれる土地で、山もあった。いつも風が吹いてて、この土地に足を踏み入れるだけで元気になりそうな大陸として知られていた。いったい、何があったっていうんだ……」



「タカオさん。これって邪霊による影響でしょうか」



「たぶんな。でもよ、大陸ひとつ変えるなんて、どれだけ凶悪な邪霊なんだよ」



 エヴァンが上陸準備をすべて終え、タカオ達は枯れたシルフェニア大陸に降り立った。周りに人はおろか町さえ見当たらず、しばらく歩くしか無さそうだった。

 幸い大陸は雲に覆われているので暑さもなく、荒野を歩いていても体力的に問題は無かった。しかし、暗澹たる景色が俺たちの精神を削り、歩幅が小さくなっていく。



「タカオ、変わるぜ」



「いいよ、こいつは俺がおぶっていくよ」



「こんな状況なのに、熱いことで」



「オリビアを追い続けたあんたに言われたくないね」



 へへっと言いながら、ズレ落ちそうになるクレアの身体を背負い直す。女の子を背負って歩くことはおろか、人を背負ったまま歩くのすらはじめてだ。額から玉のような汗が流れ、干上がった地面に水分を取られていく。



「タカオさん、あの……。力仕事でしたら私の担当ですから」



「ターニャ……。でも、今回だけは」



「そう、ですか……」



 ターニャもエヴァンもそれ以上は何も言わなかった。たしかに、ターニャに頼めば俺はこんな苦労をすることはない。それに、適材適所でいえば彼女に任せるほうがいい。それでも俺はクレアを背負っていたかった。



 この世界に来てはじめて出会った人間で、元素についても教えてくれた。気難しいはずなのにズカズカと立ち入り、楽しそうな笑顔を自分に見せてくれた。

 そんな彼女に危険が迫っているのに、何もできない自分がくやしかった。タカオは自分を戒めるためにも、彼女を背負っていたかった。



「……ちょっと待て!」



 エヴァンが地面に触れ、何かを探り始める。



「どうしたんだ?」



「微妙だが、一定方向から地面が振動しているのがわかる」



「では、そちらに行けばー」



「ああ。何があるかわからないが、行ってみる価値はあるだろ」



 タカオは頷くと、エヴァンが振動を察知した方向へ歩き始める。そこまで時間を要することなく、タカオたちの目の前に廃墟と化した神殿が見えてくる。おそらくここだ、とエヴァンが声を上げると自然と駆け足になっていた。



 壊れた支柱や石畳の階段。これらを見れば何とか神殿とわかるも、石像は顔が壊れて悪魔のように見える。



「この石像、この土地の精霊か?」



「ああ。風の精霊だ」



「リヴァイアサンとかドラゴンに比べると、なんか普通というか、地味というか」



 顔が壊れているのは不気味だが、出で立ちは至って普通の人間と変わらなかった。石像はマントで全身を包み、顔もフードで隠している。その姿は精霊というよりも、まるで旅人のように見えた。



「ここで邪霊化した精霊が暴れたのか……」



「いいや、すでに精霊はいない」



 上空から声が聞こえたので、タカオ達は一斉に顔を上げる。そこには空中に浮かんでいるエレノアの姿があった。



「エレノア!」



「わざわざここまで、ご足労ありがたいことだ」



「てめえのために来たんじゃねえ! お前こそここで何をしているんだ」



 徐々に降りてくるエレノアに対し、ターニャとエヴァンは武器を構えて戦闘態勢に入っていく。エレノアの手には刀が握られており、刃の部分は瘴気を帯びている。鍔の部分は両刃の剣のような形になっており、中央には目玉が付いていてギロギロと動き続ける。



「お前以外は臨戦態勢バッチリだが、背中の人形が邪魔のようだな」



「うるせえ! クレアは人形なんかじゃない」



「それはどうかな?」



 エレノアが手をかざると、指先から糸のようなものが出てきてクレアに引っ付く。



「あ、あああああああああああっ!」



 クレアが糸に導かれるように空に浮かび上がると共に、絶叫を上げ始める。彼女の身体に張り付いていた苦労文字がさらに肌を多いはじめ、肌色はおろか目や口が消えてマネキンのような出で立ちになってしまう。



 叫び声が止まったかと思うと、クレアは宙づりにされたマリオネットのように首や手足をぶらぶらさせて、エレノアの側でふわふわと浮いている。



「さあ、私の人形であるクレア。仕事だよ」



 エレノアの声を合図に、目の辺りが信号のように赤く点灯した。

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