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第34話・奇病、発症

 階段を降りて船室に向かい、ベッドが置いてある部屋のドアをノックする。クレアが寝ていれば何か声がしてきそうだが、何の反応も無かった。よほど酔ってしまっているのだろうかと思い入るぞ、と一言断ってからドアノブを回した。鍵は掛かっておらず、中の様子を見ながらそっとドアを開ける。



 少し開けると、彼女の白くすうと伸びている足が見えてくる。しかし、その足はベッドのシーツを乱し、何度も膝を左へ右へ動かしているように見える。



「クレア!」


 急いでドアを開けると、船酔いで青ざめているレベルの表情ではなかった。何度も声を掛けても返事は無く、顔の周りは黒い文字のようなものが這っている。手でその文字を払おうとするも、それに触れることはできずウジウジと動き回る。



 タカオは剣を抜き、リューベックで封印した水の元素の魔法を展開する。水の元素は「浄化」を司る力。しかも、剣に封印されているのは、精霊リヴァイアサン。この力を使えば、クレアにまとわりついているこの文字だって……。



「あらゆる生命の源である水よ、クレアにまとわりつく不浄な病魔を退けよ。キュレイト」



 クレアの身体が青白い光に包まれ、黒い文字が肌からはがれそうになる。やった、と思った瞬間にパリンという音と共に光が辺りに弾け飛んでしまう。



「タカオさん、クレアさんはー。どうしたんです、それ!」



 タカオの帰りが遅くて心配したのか、ターニャも部屋にやってきた。しかし、クレアの様子を見た途端に走り出し、彼女の肩を何度もゆすり始める。



「ターニャ、あまり身体は動かさないほうがいい。クレアがどんな状態かわからないし」



「そ、そうですね……。すみません、気が動転してしまいまして」



「ターニャはこの病気、どこかで見聞きしたことはないか?」



「いいえ。このような病気については一度も見たことがありません」



「……くそ!」



「と、とにかく。エヴァンさんなら何か知っているかもしれません。それに、船の上では何もできないので、新しい大陸でどうにか対処するしかないかと」



 何もできない。それがこんなにも歯がゆいことだなんてタカオは知らなかった。クレアの看病はターニャに任せ、エヴァンの元へ向かうことにした。



              ***



「エヴァン!」



「どうした、航海は至って順調だぜ」



「クレアが妙な病気に掛かったんだ」



「なんだよ、ただの船酔いじゃやなかったのか。症状は?」



「全身に黒い文字みたいなものが這っていて……。なあ、なにか知らないか?」



 エヴァンは唸りながら考えてみたものの、そのような病気については何も知らない様子だった。



「すまない、あちこちと周っているが、そんな症状は一度も聞いたことがないな」



「エヴァンでも知らないか……。どうすりゃいいんだよ」



「落ち着けよ、タカオ」



「だって、お前ー」



「目的地のシルフェニア大陸なら、治療法だってたぶん見つかる」



「そんな、無責任な!」



「よく考えろ、クレアが使っている魔法は基本的に何だ?」



「クレアの魔法? あいつの魔法は回復と風魔法だろって……。あっ」



 そうか、というとエヴァンが正解、とでも言いたげな表情と指さしのジェスチャーを見せてくる。



「そうだ、風の元素はあらゆる傷を癒すと共に、悪しきものを吹き飛ばす気高さを持っている。そんなシルフェニア大陸は風の元素に溢れる土地で、身体の治療を望む人がこぞって集まる場所だ。もうしばらくすれば大陸に着くから、それまでしっかりクレアちゃんを見てやりな」



 うん、と頷いてからすぐにクレアの元へ戻っていく。



 -死ぬわけない。



 何度も自分に言い聞かせるけれど、胸騒ぎが止まらず警鐘を鳴らし続け、自然と足がせかせかと動いてしまう。

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