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第32話・新大陸への水先案内人

 町総出の宴を楽しんだ次の日、リューベックはさっそく港町としての機能を復活させようとしていた。ヴァイキングや町人たちが船出の準備をはじめ、昨晩とは違った活き活きした表情を見せている。ゆっくりとベッドから身体を離し、タカオは次の目的地に向かうため着替え始めた。



 宿屋のエントランスに行くとクレアとターニャは準備を済ませ、すぐにでも出発できる様子だった。おはようございます、といつもの調子でターニャが挨拶してくれる。アルコール・インとはテンションも表情も違い過ぎていて、笑わないようにするので精一杯で挨拶も怪しくなる。



「なんですか、タカオさん。出会い頭に笑うなんて失礼ですよ」



「いや、その……。ターニャ、昨日のことは覚えてないのか?」



「昨日? ええ、リヴァイアサンを倒して皆さんで酒盛りをー」



「その酒盛りの内容は?」



「ああ、ごめんなさい! 私、お酒が入ると記憶を保てないタイプのようでして……。お酒の席を一緒にした人の中には、次の日から妙に怖がったり優しくなったりする人が多いのですが。笑われたのは初めてです」



 おそらく、ターニャにのされたヴァイキングたちは、今日から彼女を見れば極道ばりの挨拶でもはじめるだろう。早速ヴァイキングらしい人が宿屋に入ってくると、姉さんおはようございます、とターニャに向けてバカ丁寧な挨拶を披露してくれた。



「クレアもターニャも準備は?」



「あんたが遅すぎるのよ」



「あれだけ戦闘を経験すれば、三日ぐらいは眠っていたいところだけどな」



「これだから、引きー。あっ」



 クレアはいつものように罵ろうとするも、言葉を途中で切って視線を逸らしてくる。



「ふん! 今後はターニャにでも絞ってもらって、体力をちゃんと付けておくべきね」



 行くわよ、と言いながらクレアは急ぎ足で宿屋を後にする。それに続いてターニャも出ていくも、明らかに反応の違うクレアに少々困惑する。なんだこれ、まさか昨日ちょっと手をつないだイベントを引きずっているのか?



「……ちくしょう、ちょっとかわいいじゃないか……」



 心で毒づきながら、宿屋を後にすることにした。




                     ***



 クレアによると船はヴァイキングの人たちがメンテナンスを行い、食料も積み込んでくれるサービス付だと聞いた。さっそくドッグに向かうと、ディクソンさんから譲り受けた船が波止場に停泊しており、いつでも出航できるようになっていた。



「タカオさん、それにクレアさん。そしてあねさん、おはようございます!」



 ジョニーまでターニャのことは「あねさん」扱いだった。もしかして、昨晩ですべてのヴァイキングをなぎ倒したのではないだろうか。末恐ろしいのはお酒なのか、この怪力なのかわからなくなってくる。自分を「あねさん」と呼ぶ彼らに疑問符を浮かべる彼女をよそに、タカオはジョニーに返事をする。



「もう船は出せるのか?」



「ええ、いつでもいいですよ! それよりも、あの進めない状態ってまだ解けないんですか?」



「大丈夫ですよ。俺たちが船で近づいてクリエイトの魔法を使えば、海も元に戻るはずです」



「それは良かった! で、舵は誰が取るんです?」



 あ、と俺たちは同時に声を上げると共に顔を見合わせる。船旅に航海士しかり船員は必要不可欠なはずなのに、そのことについて誰も考えていなかった。何とも間抜けな冒険者一行だな、と俺は大きなため息を付いてしまう。



「おいおい、ジョニー。それは俺がいただいた船だぜ」



 後ろから馴染みのある声が届いてくる。振り返ると、やはりそこにはエヴァンがいた。



「あ、エヴァンのダンナ。いただいたって、この船の所有者はまだドワゾンの町のー」



「元海賊がそんなこと気にしますかい。俺のモノは俺のモノ、お前らのものも俺のもの」



「あんた、まだそんなふざけたことを言ってるわけ!」



「相変わらずクレアちゃんは元気だねえ」



「ちゃん付けで呼ぶな!」



 エヴァンは俺たちと会ったときのように飄々とした態度を見せる。



「タカオ、行き先はどこだい?」



「えっと……。次は風の元素を封印するために大陸を渡る必要があるんだけど」



「だったら、シルフィニア大陸に行くわけか」



「知ってるのか、エヴァン!」



「いや~偶然だねえ。そこには珍しいお宝があるらしいから、トレジャーハンター復帰戦として向かおうとおもっていたのさ」



「……なあ、エヴァン」



「なんだよ」



「トレジャーハンター家業のついででいいから、この船で連れて行ってくれよ」



 タカオの提案にクレアもターニャも驚きはしなかった。



「この船は流石に渡せないけど、あんたが舵を取ってくれるなら安心できる」



「私としては、今回の邪霊討伐のお礼として父に掛け合ってもいいぐらいですよ。本当にあの船が欲しければ、ですけれど」



 ターニャの言葉に、エヴァンは少し面食らっている様子だった。クレアだけはふん、と鼻を鳴らして腕組をしている。



「ったく、最初から私たちに付いてくるつもりだったんじゃないの? ほんと、素直じゃないわね」



「ク、クレア! そういうのはっきり言うなよ」



「私をちゃん付けにしなければ、もうちょっと優しく歓迎したんだけどね」



 クレアの態度に、ついエヴァンも声を出して笑ってしまう。それにつられて笑みをこぼすと共に、タカオはエヴァンに手を差し出す。



「俺たちの旅は危険だ。それでもいいなら、ぜひあんたの力を貸して欲しいんだ」



 答えはわかっていた。エヴァンは指輪が光る手で、がっしりと差し出された手をつかみ取る。

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