第29話・酒に酔うタウルス美人
リヴァイアサンとの闘いを終え、タカオ達はヴァイキングや人魚たちが奏でる凱旋曲と共に港へ帰還した。波止場には避難していた住人たちも待ってくれており、それはそれは盛大なもてなしを受けた。
町の宿屋兼酒場は旅人一行・ヴァイキング・人魚の貸し切り状態となり、各々が飲み食いしながらそれぞれに武勇伝を語り合う。宿屋の前にも特別に席が設けられ、海にいる人魚と一緒に飲食を共にすることができた。
人間に興味を持った人魚に対しては、ヴァイキングが用意した桶に入れて対処している。陸でそれぞれボディランゲージや食事をを通して交流することなんて、町人やヴァイキング、そして人魚だって想像していなかったのだろう。
しかし、町人の中にはリヴァイアサンの消滅により漁業衰退を憂う人もいた。リヴァイアサンは災害そのものとも言えるが、それだけ元素が豊富なので恩恵にもあずかりやすかったのだろう。
そんな今後を憂う人たちにクレアは新しい精霊を迎えるための作法や今後についてレクチャーするなど、神官らしいフォロー業務をこなしていた。
あのリヴァイアサンも元素の一部と考えれば元素自体が消えたわけでもないし、今なら人魚との距離も近くなっている。この町の将来はそこまで悲観的になることもないはずだ、とタカオは密かに思ったりしている。
「タ・カ・オさん」
全体の様子を眺めていると後頭部がぷよん、と柔らかいものに包まれた。タカオはこの感覚に覚えがある。これは、ターニャとはじめて出会ったときの……。
「にゃに一人で『みんな楽しそうだな』的な雰囲気出してるんですか~? このお祭りの主役はあなたなんですから、ちゃんと参加しにゃいとダメですよ~」
「た、ターニャ! お前、酔ってるのか?」
「よってにゃんていませんよ、世界がグルグル回っているだけです」
「それを酔っていると言うんだ!」
ターニャを振り払おうとするも、自慢の腕力で俺の身体を完全にロックしてくる。その様子にヴァイキングたちは「よ、さすが今回の立役者」や「酒飲むよりも赤くなってるんじゃないのか」と冗談交じりに冷やかしてくる。
「あんたら、助けてくれよ! こいつのバカを超越した絶望的怪力は見ただろ! 離れ……ろ」
ヴァイキング達は「そんなこといって、ホントはくっ付いていたんだろ?」と言いながら、ついには指笛まで鳴り出す。現実世界ならイライラして、冷ややかに対処してこの場を去っていただろう。
でも、今はそこまで嫌な気分じゃない。ヴァイキング達は別に俺をのけ者にしたいわけではないし、ターニャだってつい空気に当てられやっていることだ。これぐらい無礼講という精神で……。って待てよ!
「お前、まだ酒飲んでいい歳じゃないんじゃないのか!」
「はい~? 鍛冶師の町でそんなこと気にする人間、いるわけないじゃないですか」
この体育会系女子め!
「タカオさん、まさかお酒のんでにゃいんですか?」
「そ、そりゃな。一応、ほら……。元いた世界は色々とうるさいんだ。青少年がアルコールを摂取することなんてあれば、正義を振りかざしたい暇人どもが一斉にクレームをー」
「わたし、しーらにゃい」
ターニャは手に持っていたジョッキを俺に口元に押し付けてくる。アルコールの匂いが鼻を刺し、苦みのある液体が口の中に入っていく。
「はい、あなたも大人のなかまいり~」
酒がタカオの口を付いただけでヴァイキング達は歓声を上げ、ターニャは勢いにませて私に腕相撲を挑む猛者はいないか、とさらに場を盛り上げていく。
ちょっと口に酒が付いただけだが、何とも手厳しいデビュー戦になったものだ。それでも無理にあの酒すべてを飲ませない辺りは、評価しておいてやるか。
ターニャがヴァイキングと次々となぎ倒していく姿を眺めていると、その場にクレアがいないことに気が付いた。酒に当てられた頭も覚ましたいと思い、夜風にあたりながら彼女を探してみることにした。




