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第28話・ラストデュエット

「……クレア、このまま闘って勝算あると思うか?」



「私はね、はじめから勝てる見込みは少ないと思っていたわ」



 二人で状況判断をしている中、ターニャがフラフラになりながら船上に戻ってくる。体力と腕力は我がパーティで一番であるはずの彼女が膝を付き、何よりも大事にしているハンマーを杖代わりにして息も絶え絶えになっている。



「ターニャ、大丈夫か?」



「なんのこれしき、と言いたいが……。今回はさすがに厳しいな」



 まだツノが完全に生えているのに弱音を吐いている。俺は憎々し気にリヴァイアサンを睨みつける。まるで勝利を確信している軍師のような落ち着きを見せており、まるで水のヴェールは前哨戦だったと言いたげだ。まるで攻略法を知っているだけでは越えられないアクションゲームのボスみたいな敵だ。



「ねえタカオ。もう一回あの杭を出すことはできないの」



「あのときは、まだリヴァイアサンが停止していたからできたんだ。今からもう一回となれば魔力も足りないし、効果があるとも思えない」



 クレアはその解答がわかっていたかのか、落胆の色は見せなかった。それでも質問をしてきたのは、それ以上の打開策を思い付いていない証拠でもある。



「……ターニャ、何か言った?」



「いいえ、私はなにも。……あれ」



 二人は一斉に空をキョロキョロと眺め始める。まるで死ぬ前兆のような行動にブルッと肌が震え、クレアとターニャの名前をタカオは必死に呼ぶ。



「静かに! あんた、この歌聞こえない?」



 クレアに言われ、タカオは恐る恐る耳を澄ましてみる。意味を理解はできない人魚の歌と砲撃音、そしてリヴァイアサンが波を立てる音で海域は一杯だった。何も感じ取れないと思った瞬間、ふっと耳の中に人語によって奏でられる歌が流れ込んできた。



「おい、あそこ見ろ!」



 ターニャが指さす方向を振り向く。そこには、エヴァンと人魚がシャボン玉の中で手をつなぎ、空を飛んでいる姿があった。



                     ***



地上から見る海は青く澄んでいるのに

一度飛び込むと人の心のように暗く冷たい


ならば私は人魚でいい

誰とも触れ合わない人魚がいい


上辺だけ取り繕って傷付くならば

はじめから何もないほうがいい


何も持たない自由な生活

期待もないけど痛みもない


徐々に身体から体温が消え

自分の冷たさに歯を鳴らす


暗い海底に光が差し込む

忘れていたぬくもりを放つ手


導かれるまま飛び出すなら今

もう離したくないこのぬくもり


差し出された手を離さないで

両手でただ「私」を抱きしめて



                     ***



 エヴァンと人魚はメロディを口ずさみながら戦闘区域を飛び回っている。歌詞のないメロディだけが流れているはずなのに、勝手に頭の中に歌詞が浮かんでくる。これが正しい歌詞なのかわからないが、クレアとターニャの頭にも何か浮かんでいるのか口を動かしていた。



 メロディを聞いた人魚たちは息を吹き返したように歌い始め、その声量は先ほどとは比にならない力強さを持っている。ただ音が大きいというわけではなく、歌が体に直に流れ込むことで細胞レベルに活力を与えているイメージだ。



 タカオだけでなくクレアやターニャ、ヴァイキングたちも歌によって全身に力が蘇っていく。反してリヴァイアサンは明らかに歌を嫌がっており、身体をくねらせながら吠え声を上げている。

 海域一帯を回遊したエヴァンと人魚は、タカオ達がいる船に一度降り立つ。しかし、降り立った人魚を見ると尻尾ではなく人の脚に変化していた。だが、目の前にいるのは人語をしゃべっていたあの人魚だ。



「タカオ、攻撃するなら今だぜ!」



「えっ!? あ、ああ」



「感じてるだろ、身体の奥底から湧いてくる力を」



 タカオは人魚のことには触れずああ、と答える。



「俺は人魚……。いや、オリビアと歌い続ける」



「ちゃんと歌えるのか?」



「大丈夫よ」



 オリビア、と呼ばれた元人魚の女性はエヴァンの代わりに答えた。



「今なら私、人魚と人をつなぐことができると思うから」



「だとさ、タカオ。今回のコンサートにアンコールは無いからな」



 エヴァンがそれだけ言うと二人はシャボン玉に包まれ空に戻っていく。ターニャは元気になったのをいいことに、エヴァンとオリビアのやり取りを見て乙女モードに入ろうとしていた。さすがに戦闘中だぞ、とツッコミを入れておく。



「なんともまぁ、先ほどまでと違って緊張感ないわね」



「お前だって、わかってるんだろ?」



「ええ。頭の中に自然と歌が流れているだけなのに、無限に魔力が湧いてくる。これも魔言語の力かしら」



「いや、違うな」



 タカオははっきりと否定する。


「エヴァンとオリビアが起こした奇跡さ!」



 タカオが剣を構え直すと同時に、リヴァイアサンも咆哮を上げる。それをスタート合図にターニャは力を解放し、船の板が壊れるほど踏み込んでリヴァイアサン向かってジャンプする。標的の前にたどり着くや否や、ハンマーを横顔目掛けてスイングする。



 ターニャの打撃はクリティカルヒットし、リヴァイアサンは初めて身体を海面に付ける形となった。その様子にヴァイキング達は歓声を上げ、彼らもエヴァンとオリビアに合わせて歌を口ずさんでいく。



 しかし、リヴァイアサンは危険を感じたのか海に潜って態勢を立て直そうとする。



「逃がさないわよ!」



 クレアは船上で呪文を唱えはじめるも、それはいつもの詠唱と違ってリズムがあり、まるで歌っているようにみえる。詠唱と共にリヴァイアサンが潜り込んだあたりに魔法陣が展開され、そこからトルネードが巻き起こった。



 トルネードは海をえぐるように回転し始め、海に大きな穴を作り上げてしまう。海が完全に巻き上がるとリヴァイアサンの尻尾が見え始め、ついにその巨体がトルネードによって空に打ち上げられる。



 衝撃用意、というヴァイキングの声に合わせて船が動くと共に、人魚も開放された力によって船の前に魔法障壁を作り上げる。準備ができたタイミングでリヴァイアサンが海に叩きつけられ、海は大きく揺れと波を作り出した。しかし、ヴァイキングと人魚のコンビネーションもあって被害はほぼ0だ。



「タカオ、ラストは譲ってあげるわ!」



 よし、といいながら自分の頭の中に浮かぶ術式を唱え始める。しかし、詠唱途中にノイズが走り、思うように呪文が使えない。



 ーそんなシステム上の魔法だけ使っていて、お前は恥ずかしくないのか?



 エレノアの言葉が頭をよぎり集中力を奪っていく。



 しかし、今回は逃げる訳にはいかない!

 逃げられる訳がない!



 これがゲームだろうと現実だろうと、自分の一撃が仲間だけでなく、ヴァイキングや人魚の生死にも影響してくる。もっといえば、リヴァイアサンを野放しにすればリューベックだけでなく世界中の町が危機に瀕することになる!



 俺は全力で想像力を働かせ、協力な魔法を創造クリエイトしていく。



 今唱えようとしている呪文がシステムにないなら、俺がこの世界を書き換えてやる! 

 本当にクリエイトの力があるならば、新しい魔法の1つや2つ作ってやる!

 今この瞬間だけでいい、一生分の奇跡をここで燃やし尽くしてやる!



「燃えし巨石はすい星のごとき力を宿し、あらゆる生物を殲滅する力となれ!」



 ーシステム変更、確認。合体魔法の存在を承認。



 メロディに合わせて妙な声が頭の中で響いた。だが今は考えている暇がない。今なら考え出した合成魔法を放つことができそうだ。



 封印剣は火と土の魔法陣を同時に描き出し、それらが折り重なると空が雲で包まれていく。



「今こそ罪ある存在を殲滅するために降らん、メテオフレイム!」



 呪文を唱え終えると共に、空が轟々とうなりを上げると共に赤く光り出す。その瞬間、船と同じ程度の大きさの巨石が赤々と燃えながら、いくつも空から降り注ぎリヴァイアサンの身体に次々とめり込んでいく。巨石はリヴァイアサンの身体を焦がし、ヒットする度にうめき声が海に響いていく。



 攻撃が終わって空が晴れると、その巨体がゆっくりと倒れ海に沈んでいく。



「今よ、封印して!」



 クレアの声に答えるように、封印剣をリヴァイアサンのほうにかざし封印の呪文を唱える。リヴァイアサンの元に魔法陣が現れ、その体が水に変化しながら封印剣に吸い込まれていく。完全にリヴァイアサンの姿が消えると、砲撃音や歌だけでなく、波の音さえも消えたような静寂さがあたりを包んだ。



「……勝ち鬨を上げろ、たった今、俺たちの勝利が決定した!」



 エヴァンの掛け声を合図に、人魚も人間も関係なく手を合わせ勝利を分かち合った。

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