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第27話・負けイベントの向こう側

「ぷはぁ! オリビア、オリビアはどこだ!」



 リヴァイアサンの尻尾を使った攻撃の余波で、エヴァンと人魚は身体から振り落とされ、そのまま海に放り出される。エヴァンはすぐに海上へ出ることができたが、泳ぎが得意なはずの人魚が見当たらない。焦った彼は「オリビア」と名前を散らかすように叫びながら人魚を探し始めた。



「くそ、二回も死なせてたまるかよ!」



 エヴァンは動きが緩慢なリヴァイアサンを横目に、海に潜って辺りを見渡してみる。すると、気を失っているのか、どんどん海中へ落ちていく人魚を発見した。



 ーオリビア!



 エヴァンは彼女を見つけるとすぐに近づき、身体を抱きかかえて再び浮上することに成功する。リヴァイアサンは尻尾を海に叩きつけただけでは飽き足らず、船に向かって食らいつこうと身体をひねらせる。

 激しい攻撃を前にしても人魚が歌を歌い続け、シャボン玉を作ったりリヴァイアサンの力を削ったりして、被害を最小限に食い止めようとしている。



「うおおおおおおおおおお!」



 ターニャの雄叫びがエヴァンのいるところまで響き渡ってくる。シャボン玉に包まれた身体は機敏に敵の攻撃を回避し、隙を見つけてはハンマーで顔を殴打していく。

 しかし、杭にインパクトを与えたときほどの衝撃は与えられず、リヴァイアサンの口から発する高水圧水鉄砲ハイドロポンプの反撃を食らっていた。



タカオも呪文でターニャをカバーしつつ、自身も攻撃魔法で応戦している。それでもリヴァイアサンがひるむ様子はなく、防戦一方の状況がひっくり返りそうにはなかった。



「くそ、火の土も通りが悪い! これ負けイベントじゃないのかよ」



「訳わかんないこと言わず、とっとと攻撃と援護をする!」



 クレアはこの海域全体を覆うほどの回復魔法を展開しており、とてもタカオとターニャのフォローができるような状態では見えない。確かにこのままではジリ貧で、タカオが言うところの「負けイベント」とやらになってしまうだろう。



 人魚はまだ目覚める様子を見せないが、エヴァンは彼らと合流するためにリヴァイアサンへ向かって泳ぎ始める。海賊時代なら確実にとんずら決めていたのにな、とガラになく自分の情けない過去が頭の中でグルグル回転し始める。



 ーあんた、それでも本当に海賊のつもり? 根性ないわね。



 隣にいる人魚がオリビアとしてよみがえり、本当に喋ったと勘違いするほど鮮明に声が届いてくる。あのときの俺は本当に情けなかったな。

 トレジャーハンターになる夢も無くし、ただその日暮らしの悪銭を稼ぐために海賊をしていた。夜には酒場に行き、酔ってはヴァイキングとケンカの日々。はみ出し者にはお似合いの毎日だった。



 ーあんたなら私を襲う度胸も無いだろうし、ちょっと調査のために船を出してよ。



 そんな自分にあいつは生意気なことを言ってくるばかりか、船を出せと要求してきた。でも、一緒に行動している内にわかってきた。彼女も変人扱いされているはみ出し者だったことを。あいつはそれでも、たった一人でも信念を貫き通そうとした。



 ーねえ、あの歌を歌って。



「歌?」



 エヴァンは本当はオリビアと語っているようになってしまい、つい聞き返してしまう。



 ーあの歌。辛いときに二人で歌ってたやつ。



「そんなの歌って、何になるんだよ?」



「大丈夫よ」



 それはまるで、長年待ち焦がれた種がついに芽吹いたような瞬間。エヴァンが抱えている人魚が、オリビアの声で語りかけてきた。



「みんなに聞いてもらうためにね、私もちょっとだけ頑張ってたんだから」

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