第26話・リヴァイアサンとの闘い、開幕!
エヴァンの掛け声によって火のついたヴァイキング達は、まるで連鎖するように歌い始める。
野郎ども、元気を出せ
我らの宿敵は目の前だ
野郎ども、奮い立て
俺たちゃ世界一のヴァイキング
野郎ども、死ぬんじゃねえ
帰りを待ってる人がいる
「この歌は……」
「水夫たちの歌ですね」
「知ってるのか、ターニャ」
「仕事をする際、お互いの呼吸を合したり全体の指揮を高めるときに歌われるものです。水夫だけでなく農家の人や炭鉱、そして私たち鍛冶師にもこうした歌があります」
「そうなんだ」
「タカオさんの世界には、こうした歌ってないんですか?」
自分の住んでいた世界にだって歌はある。でも、知っている歌と今聞いた歌はまるで別物のように感じる。単純な歌詞なので簡単に口ずさむことができ、一緒に歌っているだけなのに腹の底が打ち立てられてそわそわしてくる。
今聞いているものが「歌」であるならば、俺が元の世界で聞いていたのは「雑音」だったかもしれない。そう思ってしまうほど身体に力がみなぎり、まるで魔法に掛けられたようだ。
ヴァイキングの歌が鳴り響く中、周りが薄い霧に包まれていく。そこには巨大なリヴァイアサンの姿があり、まるでタカオ達が来るのを待ち伏せているように静かだった。近くまで来ると表面にうっすらと水を纏っているようがわかる。おそらくあれが水のヴェールだ。
「よし、それじゃ作戦開始だ! エヴァン、いいか?」
「オッケーだ。野郎ども、リヴァイアサンに向かってバリスタ発射用意!」
それぞれの船に取り付けられているバリスタに、鉄製の大きなヤリが装てんされていく。エヴァンが全体の船の様子を確認すると共に、海面に浮かんでいる人魚たちにも目を配る。その中の一匹がエヴァンに合図を送り、こくりと頷く。
「よーし! バリスタ発射!」
エヴァンの掛け声をきっかけに、各船から鉄製のヤリが飛び出していく。その大半がリヴァイアサンの身体に刺さることなく、まるで滝に飲まれるように海中へ落ちていく。
それと同時に俺たち四人は船から飛び降りていく。その最中に人魚が魔言語によって身体をシャボン玉で包み込み、タカオ達四人は海面を滑るように移動する。
船から打ち出された鉄製のヤリは大半が落下しているも、数本は身体に引っかかっており、タカオは首元に刺さっている一本を見つけた。
「よし、ターニャ! あの首元にあるヤリを目指してくれ!」
すでに力を解放していたターニャは頷き、そのヤリ目掛けてジャンプする。そのタイミングで封印剣を空にかざし、クリエイトの魔法を唱えた。
「精霊ゴブリンよ、今我に物質を変質させる力を貸したまえ!」
先ほど指定したヤリに対して、俺はクリエイトの魔法を唱えた。ヤリが光に包まれると、徐々に大きくなると共に、先端がネジのようにドリル状になった杭へと変わっていく。何とか電柱程度の大きさに変質させるも、自重によってグラつき始め落ちそうになる。
「ターニャ、その杭を思い切り叩け!」
指示に対してターニャは雄叫び声を上げ、ハンマーを杭に向かって振りかざす。金属同士がぶつかる音がそこら中に響き渡り、リヴァイアサンの身体も衝撃に耐えられずぐらついた。
余りの衝撃に杭のほうが壊れないか心配になったが、その辺りは流石職人。杭を壊すことなく、水のヴェールへ杭を喰い込ませる。
「よし! 次はクレアだぜ!」
「久々に私も攻撃魔法をお披露目することになるわね!」
気合十分といった様子で、クレアは杖を宙に浮かせて詠唱を始める。杖を中心に魔法陣が出現し、クレアは神経を集中させていく。
「風の爆発力を舐めてんじゃないわよ! ブラスト・ストーム!」
クレアの杖が緑色に輝き、ボンッという爆発音で耳が詰まったような感覚になる。同時にらせん状の風が杭目掛けて吹き荒れ、周りの船も風の影響を受けてグラグラと動く。
風の力で杭は徐々にグルグル回り始め、回転に巻き込まれた部分から水のヴェールが失われていく。リヴァイアサンは初めて鳴き声を上げ、効果を上げているように見えた。
風が止まると、杭の辺りだけヴェールが無くなっていた。しかし、周りの霧の水分を吸い込んでいるのか、すぐに水が張り直されそうになる。
「エヴァン、ラスト頼むぜ!」
すでにエヴァンはオリビアが転生した人魚と共に、リヴァイアサンの元まで近づいていた。クレアの魔法が止まったのと同時に、二人は一緒にシャボンに入って身体を駆け上がる。
彼らはヴェールが薄くなっている場所にすぐたどり着くと、エヴァンが合図せずとも人魚は歌い始めていた。すると、彼の持つ剣の刀身がビリビリと電気を帯びていく。
「いやっほううううう!」
エヴァンはヴェールが剥がれている部分に刃を立て、そこからウォータースライダーを勢いよく降りるように、リヴァイアサンの体表面を駆け回っていく。電気を帯びた刃はビリビリと衣類を破くようにヴェールを切り捨てていき、どんどん取れていくのがわかる。
「やったぜ、やっぱ水系のモンスターは電気が弱点だよな」
これはタカオの完全な予測でしかなかった。もしこの世界がゲームに忠実であれば、モンスターにも何らかの弱点があるはずだ。それに基づき、水系ならば電気が弱点だろうという法則から導き出した作戦だった。魔言語で電気を生み出せないとこの作戦は失敗に終わっていたが、何とかなった。
「あとは人魚のみんな、よろしく頼むぜ」
タカオとクレア、ターニャは一度船に戻ってから人魚に合図を出す。言葉が伝わったのかわからないが、人魚は一斉に歌い始めてくれた。
彼女たちの魔言語による演奏が始まり、独特な声とメロディで満ち溢れる。徐々にリヴァイアサンは弱っていくかと思ったが目を黄色く発光させ、雄叫びを上げて人魚たちの歌を一掃していく。
「どういうことだよ、ヴェールが取れた状態なら歌は効くんじゃないのかよ」
「タカオ、早く何かに捕まって!」
クレアの声に反応した頃には、リヴァイアサンは尻尾を天に向かって大きく伸ばしていた。鞭のようにしならせたかと思うと、海面向かってその尻尾を何の躊躇もなく振り下ろす。尻尾による物理的衝撃は船を巻き込み、さらに衝撃と波を生み出してリヴァイアサン討伐隊一同飲み込んだ。




