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第21話・宿敵との決闘(表2)

 エレノアが指を鳴らすと、今度は海から二匹の人魚が現れる。彼女たちは操られているのか、うめき声をあげているようだった。



 何をする、と言い終わる前に 人魚の足元に赤いクリエイト系の魔法陣が現れ、赤黒い光に飲まれていく。断末魔の叫びが始待ったかと思うと、すぐに光が消えていく。すると、目の前にはエレノアの横に並んでいるヘビ女と同じ姿になった人魚がいた。



「魔王さまの呪いの力を使えば、人魚をヘビ女風に変えるだってできる。お前にこんな芸当はできないだろう。三流クリエイターの貴様では」



「お前、まさかそのモンスターを生み出すためだけに人魚を拉致してー」



「もしそうだとすれば、どうだというんだ?」



 タカオの手は震えていた。目の前にいるのは人間だ。ゲームだろうと人間の姿をしたキャラクターだ。それでも、自分の意のままに生物を操ろうとするエレノアに殺意を覚えた。


 

 あいつは現実世界で嫌いな人間と同じ人種だ。力の誇示と正当性を証明するためならば、他人がどうなろうと考えない類。自らの保身のためならば、他人の人生を食い散らかす害虫!



 吠え声を上げながらエレノアに向かって走り出し、剣をやみくもに振り回す。しかし、エレノアの前にヘビ女の持つ剣に阻まれる。剣を受け止められたところに、エレノアが蹴りが入って身体を吹き飛ばされる。せき込む度にあばらがメキメキと痛むような感覚があり、何とか身体を起こすので精一杯だ。



「ヘビ女ども! あの身動きが取れない人間どもを血祭に上げな」



 命令された四匹のヘビ女たちはジリジリとクレアとターニャに近づいていく。俺はエレノアを無視して、息を切らしながらクレアたちの元へ走っていく。二人に近づいたヘビ女は剣を振り上げ、止めを刺す準備を整える。

 クレア、ターニャと叫ぶと同時につんのめり、顔が砂浜に衝突する。後ろを見るとエレノアの呪文によって生まれたツルが、俺の脚を縛り上げていた。



「無力な自分を受け入れ、女一人も助けられないことを悔いるがいい」



 いつもそうだ。最後には強い者に潰され、数に押され、「タカオ」という人間はどこにもいなくなる。そのままなし崩し的に妥協を続け、後は坂道を下るだけの時間が待っている。

 今も「全滅」というゲームオーバーに向かっている。現実と変わらない。ゲーム世界ならこんな思いはしないで済むと思っていたのに、もっと楽しい冒険ができると思っていたのに……。



 自分にはエレノアみたいな力はない。そもそも、何かに立ち向かうだけの勇気もない。誰かと話すのが怖いのも、結局は誰かと話すことで虐げられる気持ちになるからだ。確かに三流だ、クリエイターとして、主人公として、人間として……。

 


 こんな思いをするなら、はじめからプレイしなければよかった。



 目の前で仲間に危険がさらされる中、俺は目をつぶってクレアに降り掛かる凶刃をなかったことにしようとする。ゲームオーバーになったら、どうなるんだろう。教会からやり直せるのだろうか。でもこのゲームふざけているから、たぶんそんなことないだろうな……。



 ーとっとと助けなさいよ、ダメクリエイター!



 目をつぶれば何もかも忘れられる。なかったことにできる。現実世界ではそうだった。なのに、目をつぶるタカオの耳にクレアの声が反響する。目を開けてクレアの方を見るとバリアに守られ、ヘビ女の猛攻を凌いでいた。しかし、意識が回復しているようには見えなかった。



 ーあんた、私を最後まで見捨てずに助けたわよね? あんときの根性はどこいったのよ!



 この声がどこから聞こえているのかわからない。でも、タカオはクレアとはじめて出会ったときのことを思い出していた。そういえば、ドット絵のあいつを見て偉そうなことを言ったな。

 この世界のことを何も知らないのに、なんであんな偉そうなことを言ったんだろう。わからない。わからないけど、あいつにダメ呼ばわりされたまま死にたくないし、あいつが死ねば言い返すことだってできない!



「タカオさん!」



 今度は後ろから声が聞こえる。首だけ動かして海の方を見ると、エヴァンが助けた人魚が海から顔を出していた。



「タカオさん、私の歌でバックアップします。その間に、早く!」



 波の音に合わせた歌声が浜辺を包み込んでいく。その歌を聞いているヘビ女たちは耳を塞ぎ、身体をよじらせている。ヘビ女とは反対にターニャの身体からは靄が晴れていき、痺れも取れたのか身体を動かし始める。



「うおおおおお!」



 ターニャは身体が動かせるようになると同時に力を解放し、自分たちの近くにいる4匹のヘビ女たちを次々と海へ投げ飛ばしていく。



「タカオ、何ぼさったとしている! はやく立ち上がれ」



 復活したターニャも俺に声を掛けてくれる。ここには自分を肯定する人がいれば、否定する人もいる。逃げようとしているのに、それでも手を差し出してくれる仲間がいる。ぜんまい仕掛けでごまかしていた心臓に、トクトクと血液が流れ込んで全身がたぎっていく。



「誰が……。ダメクリエイターだ!」



 立ち上がりながら炎の魔法を唱えると、自分の脚部に絡みついた植物を灰に変える。呆気に取られる布巻きの女に近づき、ついに一閃を浴びせる。

 そのとき、顔を覆う布の表面をなぞり、ハラリと布切れが砂浜に落ちていく。もう一撃加えようとするも、一瞬見えたその顔に次の一打を与えようとする手が止まってしまう。



「お前、なんで……」



 エレノアはタカオの言葉には何も答えず、海のほうを眺めている。すると、海から禍々しい黒い光が溢れ出しはじめた。



「……潮時だな」



 エレノアはそれだけ言うと、呪文を唱えはじめる。待て、というも足の火傷がひどく、追いかけようとするもバランスを崩してしまう。



「私が手を下す必要もない! リヴァイアサンの餌食となれ!」



 それだけ言い残すと、エレノアの体は魔法陣と共にふっと消えてしまった。



「タカオさん、しっかりしてください!」



 布で顔を隠した女が消えると、人魚が水辺まで近寄ってくる。ターニャはまだ立ち上がれないクレアを抱きかかえ、人魚と共に様子を見始める。火傷が痛んで立ち上がるのが難しいが、ターニャが投げ飛ばした人魚が気になる。なんとか足をひきずりながら、タカオもみんなの元へ向かった。



「タカオさん、彼女たちなら大丈夫です。私の歌の力が効いたみたいです」



「人魚が持つ歌の力か……。モンスターの動きまで止められるのか」



「人魚の歌というよりは、魔言語の力ですね」



「魔言語。そういえば、エレノアもそんなことを言っていたな」



「魔言語はね、昔に滅んだと言われる特殊な魔法の一種よ」



 ターニャによって運ばれてきたクレアも目を覚まし、俺たちに「魔力が込められた特別な言葉で、言葉自体に魔法の効果がある」とざっくり説明してきた。

 その言葉があるから人魚は元素の調律やリヴァイアサンの封印ができる訳だが、エレノアに呪われた人魚まで影響を与えるところを見ると、かなり強大であることがわかる。



「それよりも、あの海は何だっていうの?」



「ああ。さっきの戦闘中に、急に光り出して」



「もしかして、あれはリヴァイアサン復活の光じゃ」



 人魚が喋ったのとほぼ同じタイミングで波が高くなっていき、彼女は目をつぶって何かを察知しているようだった。



「……え!」



「どうした?」



「あなた達はリューベックに行ってて!」



 それだけいうと人魚は再び海に潜り、すぐさま海が光った場所目掛けて泳いで行った。

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