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第20話・宿敵との決闘(表1)

 ターニャに引きずられながら、タカオは洞窟から出ることになった。周りをみるとエヴァンが言っていた通り浜辺に出ることができ、指定された小屋もすぐに見つけることができた。先ほどの戦闘の疲れもあり、すぐ中に入って交代制で休息を取ることにした。



 みんなが一巡して仮眠を取る頃には、日が沈んで日をまたいでいた。パチパチと目を覚ますと、ターニャがうれしそうにエヴァンと人魚のラブ・ロマンスの妄想にふけり、それを半目を開けたクレアに語っているところだった。



「ターニャ、まだそんな話してるのかよ」



 ゆっくりと身体を起こしながら、タカオはターニャに挨拶をする。



「だって、とてもロマンチックじゃないですか! コミュニケーションが取れない人魚の言語を研究していたオリビアさん自身が人魚となり、恋い焦がれた男性の元に戻ってくる。そして今、秘密の部屋で彼らは追憶に花咲かせていると思うと……」



 はあ、とピンク色の吐息をターニャは口からこぼす。まるでドラマを見ているおばさんだなと思うも、それを言うと投げられたリ叩かれたりしそうなので、何とか口を抑えた。



「まあ、元オリビアさんの人魚とエヴァンは良いとして。元々理解していない存在同士が、無理に理解し合う必要ってあるのか?」



「あんた、そんなひねくれものだから引きリエイターになるのよ」



「なんだよ、引きリエイターって! 新しい職業みたいになってるからな」



「タカオさん、少しは人間関係に夢持ってもいいんじゃないですか? あのお二人だって、とにかく二人で話したかったんだと思います」



 クレアの態度はともかく、二人が言いたいことは何となくわかる。でも、話したって何も変わらないことの方が多い。無理に話し合うことで状態は悪化していくことが多いし、結局はお互いの主張を奪い合いをするだけで、最終的には金魚みたいに口をパクパクさせながら息も絶え絶えになるだけなのに。



 ーお前は勉強だけしていればいい。



 ー大丈夫、大学に行けばきちんと将来も見えてくるわ。



 そんなの全部嘘だ。でも、俺がどれだけ嘘だと否定しても揉め合いになるだけで、話して理解し合うことなんてできなかった。次第に話すことが面倒になって、できるだけ他人と関わることを辞めた。その結果、誰もタカオを相手しないようになり、同じくタカオも誰かに関心を持つことが無くなった。



 気が付けば一人で生活していた。一人になれば雑音が聞こえなくなり、フリーの仕事ならばパソコンを通じてやり取りするだけでいい。生活するには事欠かず、うるさい声は聞こえてこない理想の生活。でも、三か月も経たないうちに、ギシギシと機械音が軋むような音が聞こえ始めた。



「でも、ちょっとエヴァンが到着するには遅いわね」



「盛り上がっているんじゃありませんか?」



「様子見に行ったほうがいいんじゃない?」



 そうですね、と言いながらターニャがドアノブに手を掛け外に出ようとする。その瞬間、彼女の全身を黒い靄が包んだ。



「ターニャ! おい、しっかりしろ」



 慌ててクレアが回復呪文を掛けるも、回復する様子を見せない。



「ぜ、全身がしびれて、うまく身体が動きません……」



「この魔法、いったい何なの?」



 更なる魔法の気配をタカオは感じ取り、ターニャを抱えたまま炎の元素による魔法・アカイヌで小屋の壁を壊して海側に逃げる。逃げた瞬間に小屋は突風に包まれ、跡形もなく無くなってしまう。



「残念ながら、それは魔法というよりも古の魔言語による力だ」



 女の声が聞こえるので、タカオとクレアはそちらに注視する。そこには目から下部分を布で隠し、フード付きのマントを羽織った女がいた。



「あんた、あの船で見かけた!」



「こいつが、エレノアって奴か……」



「名前を知ってくれているとは光栄だよ、タカオ」



「お前、俺の名前を知っているのか」



 タカオの疑問に答えることもなく、不敵な笑い声を上げながら近づいてくる。



「ああ。、お前がクレアと旅していることも、剣を使って邪霊を封印していることも」



「お前、なんでこの剣を知っているんだ?」



「理由なんてどうだっていいだろう。まあ、言うなればクレアのおかげというところか」



 急なご指名にクレアは困惑の表情を見せた。普段ならばすぐに噛みつく彼女だが、さすがに何も返すことができずにいた。



「クレア、あんたは私のことを覚えていないのか。それとも、思い出せていないのか」



「あんた、さっきから何いってんのよ! 私はあんたのことなんて何も知らないんだから」



「私は知っているよ。お前が記憶を持っていないことも、その秘密も」



「どうしてそんなことまで」



 タカオの質問には答えず、エレノアはクレアに向かって手をかざす。手が光り出すとクレアの足元に魔法陣が現れ、俺がクリエイトの力を使うときに発生するものと同じものだった。だが色は赤黒く、そこから発生する赤いツタが彼女の身体を拘束する。



 何度もクレアの名前を叫ぶも、一考に返事がない。クレア、ともう一度大きな声を掛けても彼女は正気を取り戻さず、どんどん顔が青ざめていた。彼女を助けるためにはエレノアを倒すしかないと思い、タカオは封印剣を鞘から抜き出す。



「流石は召喚された勇者さまってところか。剣を抜く勇気はあるみたいだな」



「お前には聞かなきゃいけないこともたくさんある。クリエイトの魔法を使えることについて特にな」



「……なかなか弁が立つようだが、物語の主人公はもっと寡黙であるべきだと私は思うぞ」



 反論しようとするも、エレノアは細身の剣を手に取ってタカオの懐にいきなり潜り込んでくる。素早く剣を立てて彼女の攻撃を受け止める。それでもエレノアは剣を押し込み、受け止めている刃はギリギリと音を立てながら火花を散らす。



「ほう、冒険で少しは力を付けたか。現実世界でのほほんと生きていた男にしては、なかなかやるな」



 なんとか受け止めているが、実は限界ギリギリだ。少しでも気を抜けばすぐに押されて体勢を崩し、エレノアに止めを刺される可能性だってある。彼女は自分の事情を知っているようだが、それを聞く余裕は全くないし、機能停止しているクレアとターニャのフォローにも行けない。



「どれ、少しだけ余興でも楽しむか」



 エレノアがパチンと指を鳴らすと、海からザバザバとモンスターが現れた。



 海から出てきたモンスターに気を取られていると、エレノアがグイと力を入れて俺を押し倒す。尻もちを付いてしまった隙を逃すことなく、エレノアは次の攻撃を加えてくる。瞬時に土の攻撃呪文・ロックブラストを唱え、相手が魔法を弾いている間にタカオは一度距離を取る。



「こざかしい真似を」



「立派な戦術だぜ、魔法も」



「お前は何も知らない」



 エレノアの言葉に反応するように、シュルシュルと舌を出しながらヘビ女は彼女の横に並ぶ。姿は人魚っぽいが目は赤くぎらつき、尻尾も爬虫類のように変貌していた。さらに手には剣と盾を持っており、まるでエレノアの守護者のようだ。



「そんなシステム上の魔法だけ使っていて、お前は恥ずかしくないのか?」



「はあ? 苦し紛れに何言ってー」



「本当のクリエイトの力とは、こういうことを言うのだ!」

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