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第19話・まるでおとぎ話のように

「どうして、お前がこの場所を知っているんだ?」



 タカオ達がいなくなった後、エヴァンは人魚に話しかけた。



「……わからないわ。私が私として覚醒したとき、この場所に来ていて……。他の人にばれずらいし、落ち着くから。ここにはよく来ていたわ」



「そうか」



 エヴァンも人魚もそれ以上言葉を発しようとしなかった。エヴァンは考えていた。この場所を知っているのであれば、もしかしたら少しはオリビアのことを知っているのではないかなと。

 


 この部屋はエヴァンとオリビアだけが知っている秘密の部屋。この部屋エヴァンは人魚のことについて多くのことをオリビアから学び、元素の調律をしていること、リヴァイアサンを封印していること、それ以外にも人魚についてあらゆることを嫌というほど聞かされた。



「あなたは、その……。オリビアさんとは」



「野暮なこと聞くなよ」



「ごめんなさい! ……私、そういうのわからないから」



「まるで生まれたの赤ん坊みたいなこと言うんだな」



「からかわないで。オリビアさんの記憶や、人魚の体験したことが頭の中でごっちゃごちゃになって、私だって自分が誰かわからなくなることがあるんですから」



「そりゃ申し訳ないな。じゃあ、俺が昔話でもして気持ちをなだめようか?」



「そうやって子供扱いして」



 エヴァンはその台詞を聞いて、思わずフッと声を漏らしてしまう。その台詞は、出会ったばかりのオリビアをからかったときによく聞いた台詞と同じだった。彼女が頬を膨らましているのをよそに、エヴァンは昔話を始める。



「あるところに、いつも地上を夢見ている人魚がいました。ある日、難破した船から王子が海に掘り出されてしまい、地上を夢見る人魚が王子を助け出します。

 その王子に人魚は恋をしますが、尾っぽがついたままでは地上に向かうことができません。そこで、人魚は海底の奥深くに眠る『うたかた草』を口にします。

 その草は食べると人魚の願いを一つ叶えますが、うたかた草を食べたものは三日以内に泡になって消えてしまいます。それでも人魚は草を口にして王子の元へ訪れますが、話す言葉が違うので思いを伝ることができませんでした。

 結局王子は別の女性と結婚することになり、人魚は悲しみにくれたまま海に戻り、泡となって消えてしまいます」



「……かなしいお話ね」



「そうだな。どうせ人間と人魚は分かり合えない。そんな現実を突きつけるようなお話だ」



「……そうじゃなくて」



「なんだよ?」



「王子も人魚も、もっとお互いに話そうとすればよかったのに。どうして言葉が通じないだけで、お互いに話すことを辞めちゃったのでしょうか」



「さあな。王子も人魚のことを覚えていなかったんじゃないか?」



「そんなことはお話の中では語られていないじゃないですか。もし、ちゃんと伝えようとしていたら、何かは伝わって王子様も何か思い出したかもしれません」



「そんなタラレバを語ったところでー」



「それでも! 私たち人魚だって人間との対話を考えていれば、乱獲されずに済んだかもしれない。別に人の言葉を話せなくてもいいわ。

 とにかく危険が迫っていることをアピールすべきだったと思うんです。話しが通じないと初めから諦め、人間に自分たちの危機を伝えようとする意志さえなかったのは問題だと思うんです。もし、意思だけでもあればオリビアさんもー」



「人魚だけの問題じゃねえよ」



 エヴァンは声を上げて人魚の言葉を切ってしまう。



「俺だって、あんたらのことを理解しようなんてしなかった。オリビアがあれだけ『人魚とだって話せる』と言われたのに、俺は信じてやれなかった。本当は人魚がボニーの乱獲について合図を出していたかもしれないのに、俺は何もしなかった。そのせいで、オリビアもー」



 それ以上は言葉にならず、エヴァンはその場にあったイスに腰かけてしまう。それでも人魚はその場を去らず、エヴァンの名を呼んだ。



「よかったら、なんですけれど。オリビアさんのことを聞かせてくれませんか? 私はもっと、彼女のことを知りたいんです。彼女が私たちの言語について調べようとしていたこと、あなたのことを思っていること……。

 それ以外のことを知りたいんです。彼女のように誰かと対話することを続けたいんです。子供の話に付き合う気持ちで構いません。私に今のあなたを放っておくことなんて、できないから」


 人魚はうなだれるエヴァンにそれでも話し続けた。彼は少し考えた後、何が話したいと言葉を続けた。人魚は水際ギリギリまでエヴァンに近づき、彼にオリビアのことについて質問を始めた。

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