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第18話・探し人は恋人に似た人魚

 人魚たちによって海中に連れられ、しばらく海中回遊を楽しむことになった。見たこともないような魚がシャボン玉越しに眺めることができ、タカオは一種のアトラクションでも楽しむ気持ちになる。

 タカオ以上にターニャは目を輝かせて乙女モード全開になっているも、クレアとエヴァンの二人は不安が張り付いているように表情を変えなかった。



「もう少しです」



 エヴァンが助けた人魚が指さす方向は、海底にも関わらず青白く発光しており、アクアリウムのように幻想的な雰囲気を漂わせている。

 人魚がその発光している場所で止まると、そこは海底の最深部のようだった。先ほど発光していた場所は白色や青色のサンゴが生えており、その枝の所々がクリスマスで使うイルミネーションのように発光していた。



「ここは水の元素が最も濃い場所と言われています」



「ええ……。まるで海そのものね」



 人魚の言葉にクレアが答える。しかし、彼女だけでなくタカオ自身も濃度の高い元素を感じている。おそらくだが、元素を封印することで力の感応能力が高まってきているのだろうと想像した。

 クレアはキョロキョロしながらどうして私たちをここに、と質問をし始めた。すると、エヴァンが助け出した人魚だけが残り、それ以外はどこかに行ってしまった。



「実は、私は元々人魚ではありません。この近海で死んでしまった人間です」



 クレアは誰よりも声を上げて驚き、その声が海に響き渡りそうだった。



「私の身体の元になっている方は人魚の独特な歌やコミュニケーションについて研究していたようで、よく海に出ていました。

 私たちは人間と意思疎通ができなくても彼女については認識があり、手振り身振りでお互い心を通わせていました。ですが、彼女が海に出て研究をしている際、彼女は事故にあって命を落としてしまいます」



「その女は、オリビアっていう名前じゃないか?」



 エヴァンは刺すように人魚へ質問を飛ばす。



「……ええ、彼女の名前はオリビアさん。オリビアさんは沖合で溺れてしまって海底深くまで沈み、偶然にもこの場所まで降り立ちました」



「ここに、彼女が……」



「ええ。オリビアさんは誰よりも早く人魚が乱獲されている事実を知り、同時に海が荒れ始めていることを察知していました。

 この海底に降り立った際にも、最後までオリビアさんは『エヴァンに伝えなきゃ』と言っていました。そこで私たちは、エヴァンという人にオリビアさんの遺言を伝えるため秘法を用いることにしました」



「じゃあ、お前はもしかしてー」



 人魚はエヴァがすべてを言い終わる前に、首を横に振った。



「この秘法は対象の人と人魚が融合することで寿命を延ばすことができます。しかし、人格は元の人間とは別のものになる上、脚も無くなり尾ひれが付いてしまいます。

 私はオリビア、そして彼女の名前を唯一知っていた人魚がこの役目を買ってくれたことで、私という新しい人魚が誕生しました。……いえ、すでに人語をを話せる人魚なんて、人魚でさえないかもしれませんが」



 エヴァンは唇を噛みながら、受け入れざるを得ない現実を飲み込もうとしている。人魚も彼を夢に出てくる思い人でも見るように見つめている。



「ボニーは本当に人魚を乱獲していたんだな?」



 しばらくの沈黙の後、穴から無理矢理ほじくり出すようにエヴァンが言葉を発する。



「はい。そして、人魚がこの海から少なくなるということは、海に封印される海竜リヴァイアサン復活を意味します。私たちの数は日に日に少なくなっており、封印が解ける日も間近に迫っていることを伝える必要があったんです」



「リヴァイアサンですって!」



 クレアが再び大きな声を上げる。現実世界でもリヴァイアサンという名前はよく聞いていたが、この世界ではどのような存在なのだろうか。詳しそうなクレアにタカオは説明を求めた。



「リヴァイアサンは伝説の海竜よ。一度現れると一つの町が壊滅するまで暴れ、尾っぽで海を叩くだけで大波ができると言われているの」



 彼女の言う通りです、といいながら人魚が話を続けていく。



「海竜・リヴァイアサンは水の元素から生まれており、まさに自然の力の象徴なの。その力は海に多大な恩恵を生み出すと共に、自然界への影響も強過ぎるきらいがありました。そこで、私たち人魚が元素の力を抑制すると共に、海竜を封印する役割を担っているのです」



「もしかして、さっき船であったボニーは人魚を乱獲することでリヴァイアサンを復活させようとしているのか? でも、海で仕事している人間なら自殺行為じゃー」



「たぶんだけど、私があった妙な女が絡んでいるんでしょうね」



 クレアは船でエヴァンと行動していた際、顔を布で隠した女・エレノアと遭遇したことを告げる。さらにエヴァンが人魚を助け出そうとしたき、自分を攻撃してきたのも布の女であったことを告白した。



「エレノアは私が話せることを見抜き、『人間には合わせない』と言って拉致監禁に踏み切ったようです。私に人魚乱獲やリヴァイアサンの件を漏らされたくないことと考えると、彼女はやはり今回の件について深く掛かっていると思います」



「なるほどな。ボニーとエレノアは協力関係にあったんだろうけど、どんな利害関係があるんだろうな?」



「あいつの頭にあるのは金もうけのことだけさ」



 エヴァンが口を曲げ、まるで俗物でも皮肉るように言い始めた。



「ボニーが商会のトップになってから、何事も結果重視で町の発展を第一に考えるようになった。その影響でどんどん漁場を広げていき、町の人も生活が豊かになっていった。だからボニーのことを崇拝している人間も多いんだぜ、元海賊にも関わらずにな」



 ここまでの話を聞きながら、ボニーとエレノアにどのような利害関係があるのか考えてみる。しかし、まだ見落としていることがあるのか、どれだけピースを確認してみても事件の全貌は見えてこなかった。



「私のお伝えしたいことは、とりあえず聞いていただきました。よろしければ、私はあなた達と共に今回の件を解決したいと思っているのですが……」



 今回の件が海を渡れない呪いとどのように係わっているかわからない。だが、見過ごせる問題でもなかった。タカオは協力する意思を見せると、クレアやターニャも同じように合図を送っていく。しかし、エヴァンはまだ整理がつかないのか、いつもの軽口も全く出てこなかった。



「……とりあえず、あなた方を地上にお送りします」



 そういうと人魚はひらりと尾ひれをなびかせ、俺たちを先導し始めた。



                     ***



 水中世界から脱すると、そこは洞窟のようだった。エヴァン辺りをキョロキョロと見渡すばかりで、残りの二人だけが事情を知っているような様子である。



 洞窟内にも関わらず小さいテーブルとイスが二つ、そして本棚が置かれてあった。この洞窟にある小さな生け簀のような場所から、この洞窟にたどり着くことができたようだ。



「この場所は?」



「私が見つけておいた秘密の場所です。隠れ家としては使いやすいなと思っていまして。たぶんですが、そこにある穴を通っていけば別の道に出て、歩いていけば外に出られるかと思います」



「おいおい、そんな無責任な情報で」



「ああ、小さいドアから進めば大きな洞窟に出る。その洞窟を通れば、リューベックから近い入り江に出ることができる」



「知ってるのか、エヴァン?」



 ああ、と短く答えてそれ以上は何も言おうとしなかった。



「外に出れば浜辺になっていて、そこには俺が隠れ家として使っていた小屋がある。浜辺近くを歩いてれば見つかると思うから、そこへ先に行っててくれないか?」



 タカオがそれ以上に話し掛けようとするも、クレアががスッと脇腹にエルボーを入れてくる。体勢を崩された後、ターニャに引きずられる形でその空間を後にすることになった。

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