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第16話・船上の戦い

 エヴァンが進む先には小型船や、俺たちが乗っている船と同じぐらいの大型船が一か所に集まっている。遠目でも二桁以上の船が集まっており、ボニーがリューベックで大きな力を有しているのがわかる。



「さて、そこの素敵なお嬢さんはともかく。坊主とお子様も闘えるんだろうな?」



 タカオとクレアは声を揃えて当たり前だろ、と答える。見事にハモッてしまうのでお互いにフン、と鼻を鳴らす。しかし、その行動もエヴァンにただからかわれるだけだ。



「なるほど、技術はともかく息だけはピッタリのようだ。それじゃ、いくぜ!」



 エヴァンの掛け声に合わせるように、一隻の船が進路を変えてこちらに向かってくる。その旗にはリューベックの町の象徴なのか、竜のような紋章が帆に描かれている。その様子を見て、エヴァンは船室に戻ったかと思うと、すぐに縄を持って外に出てきた。



「エヴァン! また私の邪魔をしにきたのか」



 船の方から女の声がする。堂々としており、人を威圧することができそうな声だ。船の側面がぶつかるぐらいに近づくと、ついにボニーがタカオたちの前に姿を現した。上体だけを包む短いマントに見を包み、髪は後ろに括っている。目元がきつく「姉御」という言葉が似合うような女だった。



「邪魔ねえ。少し前までは、いつもあんたが俺の仕事を邪魔していたように思うけどな」



「あんたは今でも卑しい海賊かもしれないが、今や私はリューベック商会のトップでね。色々とビジネスを考えないといけない立場で、自由に身を任せる海賊家業と違って忙しいんだ。何か用事があるなら、今ここですべてお聞かせ願おう。客人の船まで引っ張りだすのだ、余程の用事なのだろ?」



「お偉いさんともなれば引き連れないといけない船も多くて大変そうだねえ。でもその船使って、あんたやばいことやってんだろ?」



「やばいこと? そんな抽象的なことを言いにわざわざここまで来たのか?」



「じゃあはっきり言ってやるよ。あんた、この海域の人魚を船に積んで何をする気だい?」



 エヴァンは操舵スペースからボニーの船に向けて、先ほど部屋の中から取り出してきた縄を投げ飛ばす。その先には鉤が付いており、ボニーの船のマストにカチッと引っかかる。



「エヴァン、きさま!」



「あんたが町のお偉いさんになったんなら、俺は海賊らしくあんたが持っているものを奪い返すぜ」



 ボニーはすぐに追え、と部下に命令を下し自分もエヴァンを追いかけ始める。ターニャも船に飛び乗って護衛たちをハンマーで弾き飛ばし、タカオも元素の力を使った魔法を唱える



「新しい呪文のお披露目だ! ロックブラスト」



 封印剣が土色に光ると共に魔法陣が現れる。そこから石が雨のように飛び出し、船員たちをどんどん倒していく。クレアも遅れてボニーの船に乗り、人魚誘拐の事実を確かめるためエヴァンの後を追いかけていく。



「タカオ、今回は私たちが陽動の役割になりそうだな」



「あいつ、ちゃっかりエヴァンの元に行ったからな」



 作戦を立てていたわけではないが、しっかりと二手に分かれたのだから作戦としてはありだろう。ただ、大勢の護衛を前にタカオの脚はガクブル状態必至だ。打って変わってターニャはすでに興奮状態に入っており、ツノも少し伸び出している。



「タカオ、背中は任せるぞ」



 できれば前衛はターニャに任せたいところだが、この状況ではそうも言っていられない。弱腰を悟ったのか、護衛の船員たちは大きく曲がった刃を取り出してタカオ目掛けて襲い掛かってくる。ターニャにつられて雄叫びを上げながら、タカオも攻撃呪文で応戦をはじめた。



                  ***



 エヴァンは船にあった階段を降り、いくつかの部屋を調べていく。しかし、どの部屋も船員が脱ぎ剥ぎした衣類や生活用品があるだけで、どれも目をふさぎたくなるばかりだった。

 自分の降りた空間には何もないと感じ始めていたが、奥に南京錠のある部屋があった。エヴァンは得意の開錠術を使ってドアを開く。



 キイ、と嫌な音を立てながらドアは開く。すると、そこには鎖によって釣り上げられた人魚がいた。



「オリビア!」



 思わず人魚の名前を呼びながら鎖を取り、何度もオリビアと呼びかける。しかし、後ろから敵の気配を感じ取り、咄嗟に人魚を抱いてひらりとドア側に回避する。敵は布で顔全体を隠している上、フード付きのマントを被っていた。



「あんたは……」



 エヴァンの言葉には何も答えず、無言のまま魔法を唱え始める。敵の魔法は風魔法で、回避し切れないエヴァンはモロに魔法を受けて吹き飛ばされてしまう。



「ちょっとあんた! この部屋で何してるのよ」



 外に吹き飛ばされると、偶然にもクレアがそこに居たようだ。なんとか声を出そうとするも、先ほど受けた魔法のダメージが大きくてうまくしゃべれない。その間にも、ゆっくりと謎の敵が二人の前に立ちふさがる。



「ほう、ここでお前に会うとはな。なかなか面白い展開になってきたものだ」



 見覚えのない人。人といっても布で顔を隠しているのでわからないが、声で女だと言うのはわかる。しかし、彼女はまるでクレアのことを知っているように話しかけてくる。



「誰よあんた……。私はあんたのことなんて知らないわよ」



「お前が知ることではない。では、あのやっかいな剣を持つ男もここにいるのだろうな」



「タカオには近づけさせないわ!」



 クレアは反論するも、彼女の魔力との差にがく然としている。彼女の身体から放たれる魔力から簡単に計ることができるし、エヴァンの傷を見れば尋常でない力の持ち主だと想像もできる。



「お前、自分の魔力で私にかなうわけないとわかっているだろ?」



「それでも、私が召喚した彼だけは……。タカオだけは殺させない!」



「クレアちゃん……」



「ちゃん呼びしない!」



 女はクレアの態度を見ても余裕を見せるどころか、高笑いをしている。



「いいだろう。では、まずお前からー」



 女がクレアに切りかかろうとしたとき、船が急に大きく揺れ出した。女も急な揺れに対処できず、体勢を崩してしまう。



「エレノア!」



「なんだ、ボニー」



「船に穴が開けられていた! 今は退却するぞ」



 エレノア、と呼ばれた女は声に出さないが意外な展開に瞳孔を開く。



「へっ、やっと気付いたのか。まあ、ばれないぐらいの穴にしておいたしな」



「お前、私たちの船に何かしたのか!」



「あんたらの計画を知って、俺が何もしないわけないでしょ。今日出る予定の船すべてに穴をあけておいて、水に濡れると少しずつ溶け出すノリで塞いでおいたのさ。たぶん、小型船なんかは転覆してるじゃないかな?」



 エヴァンの誇らしげな種明かしに、ボニーは苦虫を潰したような表情を見せる。彼女はエレノアに一度今は引くときだ、と念を押すように進言する。



「こんな場所でお前たちを始末せずとも良いか……。だが、次は無いと思え」



 エレノアはボニーと共にその場を去っていく。クレアもエヴァンに回復魔法を唱え、何とかその場から動けるだけの体力に戻す。



「たぶん外でも二人が待ってるはずだ。急ごうぜ」



 クレアはエヴァンの声に頷き、階段を上がって甲板に戻っていった。


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