第14話・町に着いた冒険者に休みなし
馬車から降り、タカオ達は町人からリューベックまでの距離を聞いてみた。町人の話ではリューベックまで歩いて一日半ほど掛かるようだったが、とりあえず進めるときに進んでおこうという話になった。ターニャが用意してくれていた地図を確認しながら、その日の内にリューベック目指して歩き始めた。
リューベックを目指す途中、魔物と遭遇することもあったがターニャの加勢によって戦闘はかなり楽になってきた。前衛に立ってターニャが攻撃を繰り出し、それをクレアが補助魔法で補助する。
俺は元素を使った攻撃魔法を次々と考えつき火炎魔法「ゴシップファイヤー」や土魔法「コブラ・ロック」など……。こうしたふざけた魔法も本当に発動するあたり、かなり遊び心があると感じる。
もちろん、ふざけたものばかりだとクレアに怒られるので戦闘で使えるものも生み出し、倒し切れなかった魔物に止めを刺す。完璧だ、何も言うことがない。
町の人の言う通り、一日でリューベックに辿り着くことはできなかった。そこで、道中で見つけた洞穴でキャンプすることを決るも、そこでターニャから質問攻めを受けているところであった。
「タカオさんの世界ってどんなところですか?」
「私たちみたいに色々な種族がいるんですか?」
「みんなクリエイトの力が使えるんですか?」
まるで女子高生のように色々と聞いてくるターニャ。職人の町で暮らしており、町長の娘ということで硬いイメージがあったが、一歩外に出るとやはり乙女な女の子か、という感じである。テキパキと答えると共に、気になっていることも自分から聞いてみた。
「俺も聞きたいんだが。この世界では神様って絶対というか、目に見えたりしてたのか?」
「ええ。むしろタカオさんの世界では、神様って見えないんですか?」
ターニャはカルチャーショックを受けたのか、目をパチクリさせる。今まで魔法なり精霊なりで、ゲーム世界に来ていることを俺も実感していた。しかし、お互いの世界に共通するもので差異を感じると、より自分とは違う世界であることを肌身に感じてしまう。
「それじゃターニャも、神が魔王になった姿を見てたりするわけか」
「はい。いきなり空が暗くなって、空が裂けたかと思うと元神と名乗る魔王が現れて……。ぜんぜん雰囲気は違うのですが、その出で立ちは私たちが見てきた神様そのものだったので」
やはりこの世界の住人であるクレアやターニャ達にとってはショッキングな出来事だったのだろう。それでも打倒魔王の旅に付いてくることを決心するのだから、やはり強靭な精神力を持っているなと思わされる。
「ターニャ、本当に悪いな。こんな危険な旅に同行させて」
「いいんですよ。どうせあの町で手をこまねいていても、いずれは魔王が攻めてくるわけですから。神様に何かおかしいことが起きているのであれば、それを解決するほうが賢明です」
「そういってもらえると助かるかな。なあ、クレアだってー」
いつもならば話に参加するクレア。しかし、すでに身体を丸めて眠りに付こうとしていた。やはり馬車の辺りからクレアの様子がおかしい。過去について少し触れただけなのに、クレアは動揺しているように見える。よほど聞かれたくないことでもあるのだろうか……。
でも、ここで無理に聞いても話しそうにないし、睡眠を妨げるのも悪い気がした。彼女を起こそうとするターニャを制し、食事と会話をほどほどにして眠ることにした。
***
洞窟でキャンプした次の日、朝から歩き始めると無事にリューベックにたどり着くことができた。リューベックの入口は高台にあり、そこから海に向かって段々畑のように家々が立ち並んでいた。
一番下のフロアには港があり、町の入口からは港に停泊している船と共に海が一望でき、まるで観光地のような町だなと思った。
「わー、すごく綺麗ですね!」
「ターニャはここ、初めてなのか?」
「はい。私はもっぱら町で仕事していましたし、行くとすればクレアさんの神殿くらいですね」
「そうなのか。クレアはどうなんだ?」
「ええ。私だって神殿から基本離れることは無かったわ」
神殿は、か。ターニャが言っていたような農村ではなく、あくまでもクレアは「神殿」から離れたことが無いといった。タカオは引っかかるものを覚えながら、とりあえず港に行ってディクソンさんの船を借りることにした。
しかし、港に行くと誰も人がおらず、船を利用する客はおろか船乗りも見当たらなかった。異常を察したタカオ達は、近くにいた人に事情を聞いてみることにした。顔に傷のあるザ・船乗りな人だが、今は誰も船を出さないと言い出す。
「どういうことだ? こんなに船があって誰も船を出さないなんて」
「この町は船と海が好きなヴァイキングが集まる町さ。でもな、今は船を出しても海の向こう側にいけないのさ」
「向こう側に行けない? どういうことだ」
「そのままの意味さ。海で別の大陸へ行こうとするも、変な霧のせいでグルグルするだけで、一向に前に進めないのさ。まるで透明な壁があるみたいにな。まったく、これじゃ俺たちもおまんまの食い上げだぜ」
男の話を聞いて、タカオ達は顔を示し合わせた。おそらく、前に進めなくなっているのは邪霊の呪いによるものだ。
「ねえ、私たちそうした世界中の怪しい事件を解きながら旅してるんだけど。よかったら、近くまで行って調査したいから船を出してくれないかしら?」
クレアの申し出にも、傷のある船乗りは素直に応じることはなかった。
「ダメだダメだ、今はボニー商会が海の謎を解くための調査をしているところだ。そもそも船自体が無いし、客人の船を勝手に出すことなんてできないぜ」
「私の船はこの町のドッグに預けているものです。船の所有者が出したいと言えば、出していただけると思いますが?」
ターニャはディクソンから預かった手紙を船乗りに見せ付ける。その書面を見てゲッとわかりやすいぐらいいやな顔をしたが、それでも船乗りは手紙を突っぱねた。
「それでもだめだ。ボニー様がいない今、勝手な判断を俺が下して海に出すことはできん」
「なによ! 船乗りのくせに気の小さい男ね」
クレアが騒ぎを大きくしそうになるので、ターニャとタカオは急いで彼女の口を防いだ。船乗りもうるさいクレアに睨みながら、ふんと大きくふんぞり返る。
「言っておくけどな、俺たちはただの船乗りじゃないぜ。ヴァイキングだからな! この町を歩きたいなら、その辺りも気を付けておきな」
それだけ言うと、男はすたすたとその場を去ってしまった。
「ったく。何なのよ、ヴァイキングだかダイキングだか知らないけれど。どっちにしても肝っ玉の小さい男に変わりないじゃない」
「まあまあ、クレアさん。騒ぎを起こしては、私たちの身動きが取りづらくなるだけですし」
「なあ、それよりもヴァイキングってなんだ?」
「ヴァイキングとは、海の交易を主な生業としている人たちのことですね。リューベックには大きな交易商もいて、商品やお金のやり取りには欠かせない方です。私の町にも交易商がいて、この町のヴァイキングの方々はほこりを持って仕事をされていると話していました」
ターニャは物を作っている町出身ということもあってか、交易の町であるリューベックについても詳しいようだ。
それにしても、いきなり大きな問題にぶち当たってしまったものだ。作戦の練り直しと今晩の宿も確保しなければならないと思い、タカオは宿を探すことを提案しようとする。だが、その思惑はターニャの珍しい奇声に阻まれる。
「どうしたんだよ、ターニャ」
ワナワナと指を指しながらあれ、と海の方を指さす。彼女が指さす先は波止場のあるドッグで、そこから勇壮な船が堂々と帆を張って出航していた。
「なんだよ、あんな大きな貨物船を出してるじゃないか。クレアの言葉じゃないけど、ほんと小さい男だったんだな」
「ち、ち、違います! あれ、私の父の船です!」
二人は同時になにい、と大きな声を上げて走り出した。