第13話・クレアとターニャの昔話
ついに三人編成のパーティとなり、いよいよRPGらしい展開になってきた。迷いこんだゲームがどのようなジャンルなのかもよくわかっていないが、このゲームを実際にプレイしても、こんな滅茶苦茶な冒険活劇が画面越しに展開されているとは想像できなかっただろう。
ドワゾンの町を出る際、リューベック方向に向けて物資を運ぶ馬車がちょうど出る予定になっていた。その馬車は途中にある町で止まるが、移動のついでにその町まで送迎してくれることになった。タカオ達は言葉に甘え、荷物を積んだ馬車に乗ってドワゾンの町を出発した。
馬車に乗るのははじめてで、想像よりも揺れることはなかった。馬車に付いてある小さい窓からゆっくりと景色が変わる余裕もあり、タカオはつい旅情を楽しんでしまった。
「あんたものんきねぇ、ほんと」
「せっかくの異世界なんだ。楽しんでおいて損はないだろ」
「ちょっと二体目の元素を簡単に封印にしたからって、調子に乗っていませんか? そういうときに足元すくわれて、コロッとやられちゃったりするんだから」
「だったら何だって言うんだよ」
「あれはターニャの力のおかげで、簡単に封印できたんですからね~」
「さも自分の力が役に立ちました的なノリで言ってんじゃねぇよ」
キーキーと言い争いをしていると、ターニャがやんわりと間を取りなす。ターニャとクレアは昔から付き合いがあるみたいだが、タカオからすればつい最近出会ったばかりの二人。現実世界なら、こんな簡単に人と仲良くなるなんてありえない。
こんな風に人に興味を持ち、会話することだって、タカオにとっては不思議な体験だった。しかも女の子に。女の子に興味が無いとかではなく、単純に人付き合いが苦手な自分にとっては、これは大きな変化だなと思っている。今でもこうして、自然と二人に話しかけていることも。
「そういえば、クレアとターニャは昔から仲が良かったんだよな」
「ええ。小さいときから私はよく神殿に向かい、クレアさんを遊んでおりました」
「へ~何して遊んでたんだ」
「そうですね~クレアさん、私たち何して遊ぶことが多かったでしょうか?」
クレアはターニャに質問されるも、すぐに答えようとしなかった。何でもスパスパと答えるクレアがえっと、とモジモジするのは初めて見たかもしれない。
「あんた、いっつも私に愚痴ってたからさ。なんかその記憶しかないわ」
「もう、いじわるですねぇ。一緒に楽しく散歩したり、歌ったり、魔法のことを教えてもらいましたよ」
「あ、ああ。そんなこともあったっけなあ~」
ターニャの答えを聞いても、クレアはどこか歯切れが悪かった。クレアは答えようとしないのではなくて、まるで初めから答えを持っていないように見える。
よく考えれば、この世界にやってきてはじめて出会ったのはクレアなのに、彼女のパーソナルなことについて知らないことが多かった。
出身地や年齢、神官としての役割など、聞くべきことをあえてスルーしてきたような気さえする。旅を楽に進行できる間、もう少しクレアのことを聞いておこうとタカオは思った。
「クレア、お前はあの神殿で暮らしていたのか?」
「あ、あたし?」
「そうだよ。ターニャはあんだけ大きな町に暮らしていて、お前はどこにも暮らしていないなんてのはおかしいだろ」
「え、えっと……」
「クレアさんは、あの神殿近くにある農村に暮らしていたんです。ですが、あの神殿に居ついたドラゴンによって滅茶苦茶にされてしまったとか……。しかも呪いによって、あの近くの土地は草木が育たたない呪いに掛かっているとお聞きしています」
「そっ、そうなのよ! いや~参ったな~」
自分が封印したドラゴン。あのときはとにかく生きるのに必死で、呪いのことまで気が回らなかった。てっきりあのドラゴンは、クレアにドット絵の呪いを掛けたものかと思っていた。しかし、あの呪いがドラゴンのものでないとすれば、一体誰が……。
それに、呪いを解けるクリエイト能力。クレアのときはドラゴンを封印する前に発動したが、ドワゾンではゴブリンを倒した後でないと発動しなかった。元素を元にした魔法は問題なく使えているが、呪いを解く方面の力は不安定極まりない。
「じゃあ、元素を封印したら町に戻って復興を手伝わないとな。今なら俺のクリエイトの力も上がっているし」
「……そうね」
クレアは自分が育った村のことなのに、関心が無い様子だった。いつもキャンキャンうるさくて、元素に関することならなんでも知っており、ダメリエイターとバカにしてくる貧乳神官。それがタカオの知っているクレアだ。だが、調子に乗っているとも取れる発言にも彼女は乗ってこなかった。
疑問が大きくなる中、馬車が目的地に着いた。クレアは逃げるように馬車を降り、リューベックへの行き方を町で確認しようと提案した。はい、と答えるターニャに合わせタカオも返事をしておいた。