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第12話・新しい仲間

 いつの間にか眠っていたのか、目覚めるとベッドの上だった。着用していた防具も外れていて、寝間着姿に変わっていた。この町に来るまでずっと転生した姿のままだったので、いきなり帰って来た日常感にどこか馴染めない自分がいた。



 隣から大きな声が聞こえると思って見ると、クレアが大きな口を開けてがーがーと寝息を立てているだけだった。俺は自分がこの場に来ることまでを思い出す。

 たしか、ドワゾンの町を復興させ、宴に参加し、さらにディクソンさんにターニャが起きたことを報告して……。この後の記憶があいまいになっているが、誰かがこの部屋まで連れてきてくれたのだろうか。



「失礼します」



 女性の声がドア越しに届き、どうぞとタカオは答える。ドアがゆっくりと開くと、そこにはメイド服を着たタウルス族の女性が立っていた。丁寧にお辞儀をしてから、彼女はワゴンで朝食を室内に通す。



「お目覚めはいかがですか?」


 

「それはとても素晴らしいだけど。それよりも、ここは?」



「ここはディクソンの家です」



「え! 俺たち、町長の家に泊まってたのかよ」



「よろしいんですよ。ディクソンからも丁重にもてなすよう言われております」



「それならいいんだけど。でも、どうしてこの家に?」



「はい。元々ディクソンはあなた方を家に招く予定だったようですが、ターニャ様とお会いした後にあなた方を呼びに行こうとすると、家の前でお二人とも眠っていたようです」



 そうだったのか……。確かに、家をクリエイトした後はクタクタで、その後も宴の熱狂に任せてテンションだけで切り抜けた記憶しかない。



「こちら朝食を用意しておりますので、ゆっくり召し上がりください。その後、準備が出来ましたら、ディクソンのほうがぜひお会いしたいとのことです」



 それだけ言うと、メイドは部屋を後にした。さすが鍛冶師の町の朝食。というよりも、この世界に来てまともな食事なんて初めてではないだろうか。ベーコンたっぷりの目玉焼きに魚の塩焼き、米、フルーツ、スープ……。



 まるでホテルの朝食メニューじゃないか。俺はクレアを起こし、久々のご飯を存分に堪能した。



                     ***



「まったく、お前を起こしたのは失敗だよ」



 朝食を済ませたタカオ達は、着替えてからディクソンの部屋に向かっていた。



「なによ、ちょっとベーコン多く食べられたぐらいで……。小さい男ね」



「朝のベーコンを多めに食べるなんて、それほど重い罪はないだろ!」



「朝からうるさいわねぇ。せっかくゴブリンを封印した後、目覚めたクリエイトを使えるようになったから少しは見直そうと思ったのに。やっぱあんたは三流ね」



「あんなに肉食べるのに胸が育たない貧乳神官に言われたかないね」



 キャンキャンと言い争いをしているとぎやかなものだ、と声を掛けられてしまう。声のほうを向くと、そこにはディクソンさんがいた。



「すみません、部屋の前で騒がしくしてしまって」



「いいんじゃよ。それよりも、中に入ってくれたまえ」


 彼に促されるまま、ディクソンさんの部屋に入っていく。部屋の中は応接用のソファとデスク、そして本棚だけがあった。ディクソンさんらしい、必要なものだけ用意する機能的な部屋だなと思った。ディクソンはデスクに座る前に、タカオとクレアに深いお辞儀をする。



「今回の件、本当にありがとう。どれだけ感謝しても足りないぐらいだ」



「そんな! 俺たちはやらなきゃいけないことをやっただけなんで」



「それでもだ。君たちがこの町を救ったことに変わりはないよ。それに」



 ディクソンさんは顔を上げ、タカオの肩を軽く叩く。



「君のおかげで、ターニャとも話ができたよ」



 タカオにとっては、何よりも言葉が一番うれしかった。なぜかと言われると難しいけれど、二人の親子関係の修復のほうが、この世界を救うことよりも重要なことのように思えた。

 はい、とだけ答えるとディクソンさんも柔らかい笑顔を見せた。



「さて、これから君たちはどうするんだい?」



「次は、えっと……。クレア、次はどの元素を封印するんだ?」



「そうね。風の元素は海を渡らないといけないから、次行くとすれば船が借りられるリューベックかしら。あの町付近は水の元素の力も強いことで知られているから、魔王もその力を利用して邪霊を生み出してると思うし」



「そうか。では、わしらが使っている船があるから、それを使って海を渡るといい。この書状があれば船が借りられる。持っていきなさい」



 ディクソンさんは船の貸し出し許可の書状を用意してくれていたようだ。感謝の言葉をディクソンさんに告げ、そろそろ町を出ると告げた。



「待ちなさい。君たちにはまだ持って行ってもらいたいものがあるんだ」



 これ以上何があるのかとタカオは思うも、ディクソンさんは入ってきなさい、とドアに向かって声を掛ける。音を立てながらドアが開くと、そこにはターニャが立っていた。



「ターニャ!」



 クレアが驚いた声を上げるも、彼女はにこっと微笑んでから部屋に入ってくる。



「何を隠そう、君たちの旅にターニャを同行させてほしいんじゃ」



「でも、ターニャには町を継ぐ役目があるし。それに、この旅は危険ですよ」



 クレアの言葉にそれをターニャに言うか、と失礼なことを考えてしまう。だが、ディクソンさんもタカオと同じく、その心配は杞憂という顔付きをしていた。



「戦闘はともかく、旅の危険はこの子も理解しておるはずだ。それに、これはターニャの意思でもある」



「でも、いいですかディクソンさん?」



「いいですよ。タカオさん、クレアさん」



 ターニャは一歩踏み出し、胸に手を当てて高らかに宣言する。



「今回の件で、呪いがどれだけ世界に影響を及ぼし、危険な状態なのかわかりました。それを知って、じっとなんてしていられません。それに、世界を周って知見を広げることも重要だと思っていたので、ぜひ私を旅に同行させていただきたいのです」



 タカオはクレアは顔を見合わせる。その顔を見れば、相談なんてしなくても返答は決まっていることがわかった。ターニャの怪力があれば戦力としても申し分ないし、旅のメンバーが増えるのはゲームとしてはお約束だ。



「わかった、それじゃ改めて。よろしくな、ターニャ!」



 タカオの言葉にターニャは弾けた笑顔を見せ、クレアの包容を以てパーティに歓迎した。

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