第11話・似た者同士
「お父様、ご無事だったんですね!」
ターニャは部屋に入って来た父・ディクソンを抱きしめようとするが、彼は丁重にその申し出を断った。先ほどタカオにしてしまったことを思い出し、少し照れながらベッドに腰かけた。
「この度は、本当にありがとう。この町を救ってくれて」
「いえ、当然のことをしたまで。そんな気にしないでください」
「それに、お前には本当に辛い思いをさせてしまったようだ。無茶ばかりさせてしまって、すまない」
「いいえ、私は町長の娘。すべては務めです」
そうか、といいながら父はイスを用意してそこに腰かける。
町の外は未だにお祭り騒ぎなのか、沈黙が支配する部屋に町人の声が届いてくる。父はイスに座ってからもどこかそわそわしており、ターニャと目を合わせようとしない。ターニャ自身も久々に会う父と何を話していいのかわからず、モジモジするばかりでなぜか言葉が出てこない。
「そ、そうだ。テッシンはどうなりましたか?」
とにかく何か話さないと! そう思って口を付いたのが、テッシンのことだった。
「あ、ああ。あやつか。テッシンならば今回の騒動で自分のことを悔い改め、修行の旅に出るそうだ。再びお前の前に現れたとき、きちんと謝罪できるだけの人間になるまで、この町に帰ってくるつもりはないそうだ」
「そうですか……」
「ちゃんと会っておきたかったか?」
「いえ。私も、彼と今あって冷静に話ができるか……。わからなかったので、良かったです」
「そういうな。お前はー」
「? どうしました」
お前は、と言いかけて父はまた黙ってしまった。父はなぜか黙ってしまうと共に、肩を落として落胆の色を見せる。
-私もテッシンのように心の修行しないと……。
つい、ターニャは内心で呟いてしまう。
「ほんと、タカオさんとクレアさんにはどれだけ感謝しても足りませんね」
とにかく話題を変えたいターニャは、次はタカオさんをこの沈黙に投げ入れることにした。
「……そうだな。お前には悪いが、先に宴は開いてしまったぞ。町人たちも、どうしても彼らに感謝したかったようでな」
「仕方ありません。それに、私がいても」
「なぜおまえは、そうやって自分を責めるのだ」
ターニャは父の言葉にハッとなって、バツが悪くなってしまう。うつむきながら父の姿を見ると、彼もまた自分を叱責するように残念そうな顔をしている。しかし、父は何かを思い出したのかほくそ笑んだ。
「どうしました?」
「いや、ゴブリンを倒した際、タカオに怒られたのだよ。娘を危険な目にあわし、挙句に厳しくしつけた自分を責めないで欲しいとな。彼は不思議な青年だよ」
「……ええ。そういえば、彼らは?」
「ふふっ。この町の復興と宴に全力を尽くし、最後にわしの元までターニャが目覚めたことを知らせに来たところで、ついに電池が切れたようじゃ。家でぐっすり眠ってもらっておるよ」
「もしかして、タカオさんは私が目覚めるまで付き添ってくれていたんですね……」
「いい仲間を持ったな、ターニャよ」
「はい」
「お前にはタカオやクレアのように、信頼してくれる人間と絆を結ぶことができるんじゃ。じゃから、その……。お前は何も自分を責めんでいい。この町の人間も、お前のことは認めておる。お前はわしの、自慢の娘だ」
自慢の娘。
その言葉をターニャはつい繰り返しそうになる。今まで父が私のことを褒めてくれたことなんてなかった。自分のやっていることが正しいのか、正しくないのか。情けない話、肯定された経験のないターニャはそれさえも決める自信を持てなかった。
父は柄にもない言葉を突いてしまったことが恥ずかしいのか、鼻の頭を掻いている。身体が熱くなり、我慢できず父に体当たりをかましてしまう。壁に思い切り父をぶつけてしまい、一瞬息が詰まってしまううめき声が聞こえる。
でも、それでも父にしがみつかずにいられなかった。泣き顔だけは見られたくないように、顔を伏せたまま泣き続けた。父は大きな手で、自分の背中と頭を何度も撫でてくれた。
やっと、自分を縛っていた「自分」という呪縛から解放されていく。
-今日だけは甘えよう。
ターニャは全身の力を抜き、久々に父の身体に身をゆだねた。




