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第10話・剣が切り開いた未来

 ゴブリンを封印し終わると、剣の紋章が土色に発色する。やったぞ、と声を上げるとクレアがダッシュで近づいてくる。ついにクレアがヒロイン枠になったか、とタカオは受け入れ態勢を作る。しかし、彼女はターニャと叫びながら、さっそうと自分の横を通り過ぎていく。



 クレアが走っていった方を見ると、あれだけ元気に暴れていたターニャが倒れていた。タカオも急いで剣をしまい込み、ターニャの元に近づく。クレアが何度も彼女に呼びかけるも、一向に反応が無い様子だった。慌てたクレアが回復魔法を唱え始めるので、とりあえず呼吸の有無を確かめる。



「バカ! ターニャはまだ死んでねえし、息だってちゃんとしてるよ。おそらく、さっきの戦闘で力を使い過ぎたんだろう」



「その青年の言う通りじゃ」



 急に届いてくるしゃがれた声に、俺とクレアは思わず身構える。祭壇にあった玉座のほうを見ると、そこには胸元まで白い髭を生やし、うっすらと頭にツノが生えている老人がいた。



「ありがとう、さっきのゴブリンとの闘い。ハンマーの姿であったがしかたと見届けさせてもらったぞ」



「ハンマーになってたって、もしかして」



「さよう。この子から聞いていると思うが、わしがドワゾンの町長であるディクソン。そして、ターニャの父親じゃ」



 想像していた以上に年を召している出で立ちだが、それだけ人よりも濃い人生を歩んできたのだろう。助かってよかったです、とタカオは短く答える。



「それよりも、ターニャ……。ターニャが!」



「安心せい。我らタウルス族が力を解放すると、普通よりも大きなエネルギーを使うんじゃ。力を解放してあれだけ暴れたんじゃから、しばらく起きんじゃろうて」



 そっか、とクレアは水を漂うクラゲのようにへにゃへにゃとその場にへたり込んでしまう。先ほどの戦闘の疲れもあるだろうが、それよりもターニャの体調が気がかりで仕方なかったという感じだ。



「しかし、わしはターニャに酷なことをしてしまったようじゃ」



「どういうことですか?」


「町は信仰によって差別や諍いが絶えないというのに、わしはターニャの才能に惚れ込み、勝手に理想を押し付けてしまった。その結果、小さい頃から鍛冶師としての技術を叩き込み、さらに次期町長としての教養も付るため厳しく当たった。

 だが、それはわしの願望で、ターニャが望んだことではない。しかも邪霊となったゴブリンに付け込まれ、町の人からの裏切りという深い傷を負わせてしまった。わしは、決していい親とは言えんな」



「……あまり、自分を責めないほうがいいと思います」



 タカオの言葉に、ディクソンさんはなぜじゃ、と神妙な顔つきで問う。



「俺、ターニャのことが羨ましかったんです。どんなに辛いことがあっても、ひたむきに自分の信じた道を突き進んでいく姿が。自分では弱いとか言ってましたけど、自分の信じていた町の人からこんな手痛いことされたら、普通は逃げてると思います。あなたがちゃんと教育してなかったらこそ、ターニャは町のために行動したんだと思います」



 そう言いながら、ゴブリンを封印した剣をタカオは見せる。



「あなたはハンマーになっていたから知らないと思いますけど、この剣はターニャさんが作ってくれたそうです」



「なんと! ここまで見事な剣を、娘が……」



「この剣があるお陰で俺たちはここまで来れたし、剣を作ろうなんて言わなかったら、たぶん俺はこの世界に来てないです。ディクソンさん、絶対に自分のしたことに後悔しないでください。だから……」



 少し恥ずかしくなって言葉を切るが、ここで止めてもおかしくなる。咳払いをしてから、つっかえていた言葉を丁寧に取り出していく。



「ターニャが起きたとき、目一杯褒めてあげてください」



 タカオの言葉を聞くと同時に、ディクソンさんは目を伏せて嗚咽を漏らし始めた。ああ、ああと応答の意思を何度も示しながら。



「あんた、たまにはいいこと言うじゃない」



 クレアが俺の元に近づき、脇腹を付きながらニヤニヤしている。相変わらずヒロインとは思えない奴だな、こいつは。



「……元の世界で、教師のバイトしてたからな。偉そうなこというのには慣れてるんだよ」



「へぇ~ そんなもんですかねえ」



 うるせえ、と言いたかったが、その言葉をタカオはひっこめる。その代わりに、小ばかにしてきたクレアの頬をつねりながら話しかける。



「クレア、俺たちにはまだ仕事があるぜ」



「ふぇえ、ほぉれいじょおにゃにがにゃるの?」



 ディクソンさんも町で休んで欲しいと願い出てくる。正直、今すぐにでもベッドにダイブしたかった。だが、ベッドを置ける家をクリエイトする仕事がタカオには残っていた。



                    ***



「ゴブリン!」



 ターニャは目覚めると共に臨戦態勢を取り始める。しかし、想像以上に足元が不安定で、彼女は体勢を崩してしまう。

 タカオは大きな物音にパチリと目を覚ます。ぼんやりと部屋の雰囲気を眺めると、自分の落ちたベッドを凝視するターニャの姿を見つけた。



「タカオ、これは一体……」



「おう、やっと起きたか」



「それよりも、ゴブリンは? それに、私たちはなぜ家の中にいるのだ? もしかして、これはゴブリンの策略か! あいつ、どこまで汚い手を」



 再び怒りのボルテージを上げそうになったターニャ―を、まるで荒ぶる牛でもなだめるように落ち着かせる。とりあえず窓を開けて涼みな、と促す。釈然としないターニャだが、外気に触れたいこともあって何気なく窓を開けてみた。



「……うそ」



 ターニャが窓を開くと、そこには元通りになったドワゾンの町並みが広がっていた。夜でも火を落とさないように活動している鍛冶場からは煙が立ち、飲み屋では仕事終わりの人たちが酒を飲みかわしている。町中や鍛冶場には女性の姿も見え、以前よりも距離が近くなったように見える。



「タカオ、これは」



「あんたが目覚めたとき、まだ町が戻ってないなんて興ざめだろ? それに、ターニャはたっぷり三日も眠ってたから、無理なく作業ができたよ」



 タカオ、と言いながらターニャは思い切り抱き着いてくる。ありがとう、と何度も言いながら謝意を告げる姿はまるで幼い子供のようで、心の底から町を守りたかったことが伝わってくる。同時に、彼女の無意識な腕力も身体全身に伝わり、あばらがいってしまいそうになる。



「ターニャ、死ぬから! まじで放して!」



「あ、ああ。すみません、つい嬉しくて」



「いや。そこまで喜んでもらえたんなら、俺もがんばった甲斐があったもんだよ」



「じゃあここは、病院ですか?」



「そうだぜ。じゃあ、あんたの親父さんを呼んでくるよ。あんたがいつ目を覚ますのか、気が気じゃなかったみたいだぜ」



 そういってタカオは部屋を出て、ディクソンさんに彼女が目覚めたことを伝えに走った。

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