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第25話 謎解き

「あなたはネットワークから母親を追い出した。しかしあなたには姉妹があったはずです。あなたはあなたを産んだ人間の母親が本当の母親の胎内から取り出して食べた魔物の赤ん坊の生まれ変わりです。あなたの本当の母親の胎内にはあと3人の胎児がいた。その3人とは、あなたが産んだ3人の娘たちでしょう?」

 緑海は頬杖をついて面白そうに聞いている。紅倉は続ける。

「あなたは人間の母体を借りて生まれた魔物です。あなたの妹たちはあなたを母体としてこの世に転生してきた、よりこの世に適合した完全体として。しかし最初に生まれた葉子さんは魔物と人間のバランスがまだ上手く取れていなかった。なによりあなたが人間として人間の男性と心から愛し合って生まれた人間の娘だったからです。だからあなたの母親はより完全で安定した肉体に娘たちを転生させるためにあなたが完全体になるために選んだ父親の種を使って娘たちを生ませた。おかげで下の二人の娘たちはより魔物として安定した人間になった。下の二人こそがあなたの母親の目指した人間の肉体に生まれ変わった魔物の完成形です。・・・・」

「どうしたの?」

「・・あなたは、どうしたいのです?」

 紅倉は泣き出したいような顔をして緑海を見つめた。緑海は口許を微笑ませながら、目はひどくすさんで暗く沈んでいる。

「さあ? どうしようかしら?」

「あなたは、いつ自分の正体を知りました?」

「さあ? いつかしら? つい最近のような気もするし、ずうっと前から知っていたような気もするし」

「あなたが結婚生活を邪魔され異常な状況下で4人もの娘たちを生む羽目になったのは家の事情もさることながら、あなたの母親がそう仕向けたのが主たる原因です。あなたの母親は娘たちを送り出した後自分もこの世に転生して来るつもりであなた方と精神のネットワークを維持していました。あなたは・・、母親に精神をコントロールされて娘たちを生み、破滅的な人生を強いられたのです。

 しかしあなたの母親は自分のことだけ考えてあなたを犠牲にしているつもりはありませんでした。人生や、愛に対する価値観がまるで違うのです。ですが、人間の肉体を持っているあなたにとって、母親はやはり魔物以外の何ものでもありませんでした。あなたは、辛かったでしょう?」

 緑海はじっと暗い目をしている。もう口許に微笑みもない。

「あなたは魔物として生まれましたが、成体になるときに父親から遺伝子をコピーし、人間として大人になりました。あなたは自分で魔物ではなく人間を選んだのです。しかしネットワークを接続した母親はあなたが純粋な人間になることを許さなかった。そのためあなたの精神は常に不安定な状態を強いられた。あなたは母親を憎んだ。復讐してやろうと思った。

 一方で母親も、・・彼女はもともとああいう生き物なのです。人間たちにバケモノとさげすまれようと、彼女からすれば人間の方こそ精神的にも社会的にも幼稚な未開の種族です。その侮蔑には怒りを感じたでしょう・・。そう、あのビデオ映画です。自分の姿を見せ物にしてバケモノと嘲り、笑い物にした、くだらない娯楽です。彼女は許し難く思いました。そして娘のあなたも、魔物の精神を拒否して、常にイライラと刺々しい精神状態にあった。母親は、理解できなかったでしょう。母親はあれでも娘のあなたを愛していたのです、彼女なりの価値観で。

 彼女は人間を憎むようになった。全て人間の未熟さが原因だと決めつけた。そして、自分たち家族のために、自分の本来の世界、魔界の出現を願った。

 そして人間たちも魔界に近い精神を持つようになり、両者の距離はグッと近くなった。彼女はこの機会を逃さなかった。

 母親が願ったのは魔界です。

 あなたが願っているのはなんですか?」

「そうね、何もかも全部ぶっ壊しちゃう事かしら? 日本中を覆う石油に火をつけてやろうかしら?」

「あなたが望む物は最初から決まっています。娘、葉子さんです」

「・・・・・・・」

「あなたが自分が魔物であることを知ったのはごく最近、この数日中のことです。葉子さんが消え、異常な事件が続き、あなたは内心不安で、改めて疑問を感じていました。何故自分たちはこんなに変なのだろう?と。あなたはその答えを自分の中に見つけました。

 フウン、・・・そうですか、やはり岳戸さんと接触したときですか。岳戸さんにあなたも気付かなかったあなたの正体をあぶり出された・・。まったく罪な人です。

 魔物の能力に目覚めたあなたは元凶である母親を追った。彼女は魔界出現の呼び水、巫女となるべき娘たちを求めて日本中を飛び回り、ネットワークを構築している最中だった。つまり本体を離れて生き霊の状態だったのですね。

 フウン、・・そうか、そのためですね、葉子さんを必要としたのは。母娘のネットワークを離れて外部に新たなネットワークを構築するためには肉体的により強固なアンテナが必要だった。だからあのような形で葉子さんを自分の手元に呼び寄せ、合体し、利用した。

 あの夜のことを解説しましょうか。

 一週間前、番組放送中に起きた出来事です。


 まず、葉子さんは自分がかつてあの家に行ってお化けビデオを撮影したことをすっかり忘れていました。何故かというと、母親、あなたではなくあなたの母親のことです、に忌まわしい記憶を禁じられたのです。その後母親は葉子さんの精神への介入を強めていき、彼女をコントロールするようになった。きっと葉子さんには記憶にない行動がたくさんあったと思いますが、それは母親が葉子さんの脳を乗っ取って行った行動です。母親は、だんだん自分の言うことを聞かなくなってきたあなたの代わりに、葉子さんに自分の現世への生まれ変わりになるべき肉体を生ませる気でいたのではないでしょうか?

 彼女は葉子さんを通じて現世の情報を集め、状況の整った半年ほど前から計画を準備していった。彼女にとって思いがけずあのビデオが計画に役立ちました。そして一週間前、テレビの生放送を利用してとうとう計画が実行された。彼女はインターネットであらかじめ印を付けておいた女性の下へ生き霊を飛ばすため、アンテナとして葉子さんを呼び寄せた。

 わたしはあの放送を見て、生放送中にあの家に現れた葉子さん、戸の陰から部屋を覗き込んだり、崩れた階段の下から目を覗かせたりしたのを見て、それが死霊なのか生き霊なのか、それとも生きた実体なのか、判断が付きませんでしたが、それは母親が葉子さんの肉体を通じてテレビ電波を強烈に・・ハッキングというんですか?強力に電波に介入していたからなのです。実際は、葉子さんは放送が始まった頃地下室の母親の元へ呼び寄せられ、先ほど説明されたような無惨な、魔物に頭を飲み込まれて逆立ちしている、という姿になっていました。母親にしてみれば自分の娘を再び胎内に戻したという認識だったのでしょう。彼女の生きるという意味合いはわたしたちと相当ずれているのです。

 ちなみに、地下室へ下りる階段はあの家の崩れた階段の下の地面にありました。何故それを警察が発見できなかったかというと、あの異常繁殖したハマナスのせいです。前夜の内は何もなかった地面が、わずか一夜のうちにすっかりハマナスの根と茎に覆われ、まさかその下に階段が埋まっているなどさすがに優秀な警察の鑑識さんも思い及ばなかったのです。

 放送後の深夜、スタッフの青木雄二さんがあの家に忍び込みました。青木さんはあのお化けビデオを撮影した張本人です。彼は押し入れの奥の隠し部屋に気付いていました。が、秘密癖の強い彼はそのことを誰にも言いませんでした。特別な秘密としていつか誰かに自慢してやるために大事にとって置いたのです。そのチャンスが巡ってきました。彼も番組中に現れた葉子さんの行動を不可解に思い、その謎を解いてやろうと思いました。彼は一人あの家に忍び込み、押し入れからとなりの隠し部屋に入り、そこへ、母親に操られ、完全に怪物となり果てた葉子さんが地下室から上ってきて、秘密の知られることを恐れて、殺されました。

 ここで一つ問題なのは、その頃、深夜2時頃、母親は生き霊となって変身病の第1の犠牲者の体内にいました。その後も母親は継続的に女性たちの肉体に渡り歩いていました。その間にもビデオの関係者たちを巡って事件は起きていました。そちらはそちらで主体となる悪霊が別に存在していたのですが、そのバックに魔界の存在がありました。実際に魔物が現れたこともありますし、魔物の力を持った何者かが能動的に手助けしていたはずです。一度はたまたま女性から別の女性に渡り歩く途中で母親が事後処理に介入してきましたが、その他の事件では、おそらく、魔物の力を使っていたのは葉子さんだと思われます。この点からいかに葉子さんが母親のネットワークに深く取り込まれていたか想像できます。


 緑海さん、あなたの話に戻りましょう。

 岳戸さんに心を覗かれ自分の正体を知ったあなたはネットワークを辿って母親を追跡し、彼女が何をしたか、彼女が娘葉子さんを奪い、命を奪った事を知った。あなたは激しく怒った。心が張り裂けそうに悲しみ、愛する娘を殺した母親を憎んだ。その怒り、憎しみはネットワークを通じて母親にも伝わった。

 彼女は一つ大きなミスを犯しました。下の二人の娘たちです。彼女たちは人間の体を持った魔物として完璧に安定した存在です。母親は彼女たちをあなたよりずっと魔物に近い存在として容易に仲間に取り込めると安心しきっていた。ところが、二人は肉体的な母である緑海さんとのつながりの方が遙かに強かった。精神世界である魔界の者である母親には、肉体的な結びつきの強固さが理解できていなかったのです。

 二人も、まずまず好意を持っていた姉を殺した母親を嫌い、緑海さんの協力要請に素直に従った。彼女たちはもはや魔物ではないのです、言うなれば、新しい人類なのです。彼女たちはあなたにそっくりな美しい容姿をしています。魔物である魂の母親など、彼女たちにはただのバケモノでしかないのです。特に姉妹の結びつきは強く、二人のタッグはネットワークにおいて強力に支配を強めていきました。

 母親は焦りました。まさか自分が娘たちから攻撃されるなど思いもしなかったのです。考え、保身のための策を取りました。葉子さんを人質にしたのです。葉子さんの肉体は死んでも、魂はネットワークの中に生きています。あなたはますます怒り、母親への憎しみを新たにしました。

 あなたは母親を滅ぼし、葉子さんを取り戻すために行動しました。これは半分成功し、半分失敗しました。あなたは母親の計画を乗っ取り、岳戸さんと彼女に取り憑いている強力な怨霊を利用し、魔界の扉をこじ開けさせた。

 現世と魔界が溶け合う一点で、あなたは死した葉子さんの肉体を現世に甦らせようとした。あなたは既に乗っ取った母親の魔物の肉体とあなたの胎内をつなげ、魔界が現世に実体化する現象を利用して自分の胎内に葉子さんの肉体を甦らせようとした。でもそれは半分しか上手く行かなかった。なかなか計算通りには実体化現象が進まなかったのと、あなたの人間の肉体の限界のせいです。

 今あなたのお腹の中には、魔物が飲み込んだ葉子さんの頭だけが入っています」

 スタジオがヒイッ・・と凍り付いた。

 緑海は大事そうに自分の喪服のお腹を撫でて微笑んだ。

「そうね、ちょっと無理があったわね。でも、あの子を醜い魔物として魔界に生まれ変わらせるよりはましよ。わたしはあの子を取り戻す。そのためにはなんでもする。この世だろうと魔界だろうと、必要なら全部滅ぼしてでも」

 決意を秘めて目が異様に光を発した。さすがの紅倉も恐ろしそうに眉をひそめた。

「そのためには、決定的に欠けているものがありますね?」

「そうね。肉体はなんとか大事な頭だけ確保したけれど、魂が入っていないわ」

「葉子さんの魂は見つかりませんか?」

「残念ながら。あのバカ女をいいところまで追いつめてはいるんだけど、人間の脳って案外やっかいな要塞になるのよね。下手に入り込んでこっちが閉じこめられて潰されたらたまらないし。でも、葉子は連れていないようなのよね。一体どこに隠したのかしら?」

「もし、」

 紅倉は静かな目で言った。

「もし葉子さんの魂を取り戻すことができたら、この事態を納めるために協力していただけますか?」

 何故か芙蓉が紅倉を恐い目で見た。緑海はニッコリ笑って言う。

「ええ、それはもう。葉子ちゃんさえ取り戻せたら、わたしは欲しいものなんて何もないわ」

「約束ですよ。では、わたしがあなた方のネットワークに入ってあなたのお母さんと直接対決しましょう」

「先生駄目です!」

 芙蓉が強く止めた。

「危険すぎます。先生の霊力は肉体に宿ったものです。肉体を離れて魂が剥き出しになれば、おそらく、先生は強くありません」

 紅倉は弟子芙蓉に寂しそうに微笑んだ。

「そうね。多分魂そのものはあなたの方が強固でしょうね」

「先生は、優しすぎます。激しい感情を剥き出しにして攻撃的になっている怨霊がウヨウヨしているネットワーク世界になんて、絶対先生を行かせられません!」

「でもね、美貴ちゃん」

 紅倉は芙蓉の手を取って両手で包み込んだ。

「やっぱりわたしがやるしかないのよ。あなたには無理。他の誰にもね。今や魔界の現世への浸食は誰かの思惑がどうのという段階ではなくなっているわ。もはや純粋な化学変化の状態に近いわ。それ自体人間の力では、魔界の力でも、止めることはできない。はっきりと二つの世界は違うのだと両方に示せる者が必要なのよ。それは、彼女、緑海さんをおいて他にはないわ」

 緑海はニッコリ笑って傍観者になっている。芙蓉は彼女を忌々しそうに睨んだ。紅倉が「美貴ちゃん」と呼びかけた。

「サポートをお願いね」

 芙蓉は紅倉を悲痛な目で見つめた。

「わたしが何かできるでしょうか?」

「いつも通りよ」

 紅倉は弟子を安心させるように包み込んだ手を優しく撫でた。

「こうしてわたしの手を握ってわたしのことを思っていてくれればいいわ。そうすればわたしは自分の肉体を見失わず、霊力の供給を受け続けられる。きっと、ここへ帰ってこられるわ」

「本当に? 本当に帰ってきてくれますか?」

 紅倉はとろけるように優しく芙蓉に微笑んだ。

「ええ。あのね、わたしがあなたを弟子に選んだのは・・、やっぱりいいわ。ないしょ」

「教えてください。気になります」

「だーめ。帰ってきてからね」

「約束ですよ」

「はい。約束します」

 手を握り合って見つめ合う二人。

 あのー・・と遠慮がちに司会者。

「紅倉先生。そろそろ時間の方が・・」

 時刻は8時30分になろうとしている。

「そう長くは掛かりません。霊魂同士の戦いですからね、それ自体は一瞬で済みます。10分ほどでしょうか?」

「そうですか。では視聴者の皆さんにはここでCMをご覧いただきます」


 CM中。調整ブース。

 三津木ディレクターはスタジオディレクターに紅倉にインカムを渡させて彼女と話した。

「先生。本当に大丈夫ですか?」

『はい。・・と言いたいところですが、さすがに今回は分かりません。でも、仕方ありません』

「そこまでしてくれなくても・・とも言えませんか。すみません、先生にばかり」

『いえ。ああ、岳戸さんは気を失っているだけですから、・・面倒なのでそのまま気絶させておいてください』

「そうします」

『等々力さんの方はどうです?』

「ええ、地元クルーといっしょに学校の取材に出ています。表向きは避難の様子を伝えるということで」

『あの人もタフですね。必要のないことを願いますが、いざというときは彼に頼みます』

「伝えてあります。ご安心ください」

『こっちもギリギリの人員ですからね、クライマックスです、頑張りましょう』

「はい」

『わたし、しゃべり過ぎちゃいましたね。時間は、大丈夫かしら?』

「大丈夫です。その点は任せてください」

『ごめんなさいね』

「とんでもない。じゃ、そろそろ、お願いします」

『はい』

「先生。ありがとうございます」

『頑張りましょう』

 CMはたっぷり4分間流す。スポンサーとの契約を破って後半はほとんどCMを流していない。上から放送内容をなんとかしろとさんざん圧力をかけられているが、無視した。苦情の電話が殺到しているそうだが、知ったことか。三津木はかってに放送時間の延長を決めている。テロップを流してしまえばもう中止もできまい。

 三津木は今回限りで首になる覚悟を決めている。今回の事件の要因に自分の責任もかなり含まれる。それに今起こっていることを思えば、自分の首を掛けるなんてまるでどうといったことはない。それより申し訳ないのはやはり紅倉美姫に対してだ。彼女は何故このような運命を持って生まれてこなければならなかったのか・・・。

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