第23話 「緊急検証! 幽霊少女は誰だ!?」
『皆さん今晩は。金曜スペシャル特別緊急企画、
緊急検証、ビデオの少女の正体は!? 今日本中で何が起こっているのか!?
紅倉美姫VS岳戸由宇、二人の美人霊能者が徹底解明!
司会の熊野宏です。
今日本中が騒然としています。おとといから始まった石油噴出騒動。今現在避難所でこの番組をご覧になっている方も大勢いらっしゃると思います。今日もテレビでは朝からこの事態の科学的な解明が試みられていますが、残念ながら明確な原因を探り出せずにいます。被害は現在進行形でじわじわ広がり続けています。社会的、国際的な危機的状況も進行しています。一刻も早い原因解明と事態の収拾が求められています。
こういうことを言っては叱られるかもしれませんが、この天変地異を多くの方がこう思っていらっしゃるでしょう、これは神の怒りである、または、悪の魔王の降臨である、と。いずれにしろ人知を超えた事態が進行しているのです。この人類の危機に対抗しうる我々人類に残された最後の希望、
さっそくお迎えしたいと思います。
これまで数々の怪奇現象を鋭い霊能力で解決してこられたお二人、美人霊能力者としてもお馴染みのこのお二人です、
岳戸由宇さん、
紅倉美姫さんのお二人です』
女性アシスタントの案内で岳戸由宇と紅倉美姫が登場する。派手な演出はない。スタジオセットも敢えて前回と同じ物を使っている。紅倉美姫には芙蓉美貴が寄り添って手を引き、席に着かせる。自分も紅倉の斜め後ろに座る。岳戸と紅倉は丸テーブルに向かい合って座っている。セットの真ん中。前から見ると後方の司会者やゲストが隠れてしまうが、これも敢えて、今回は完全にこの二人が主役で、二人の対決という形で番組を進行させる。
岳戸由宇は紫のジプシーのような衣装。相変わらずきつめのメークだが、今回はそれがぴったりはまっている。
紅倉美姫は白のパンツに白のゆったり柔らかなシャツ。相変わらず化粧っけは丸でないが、ナチュラルでありながら人間離れした美しさだ。アシスタントの芙蓉美貴は黒のスーツ姿で、こちらもトップモデル並の美貌だ。岳戸は不敵な笑みを浮かべてまっすぐ紅倉を見つめている。紅倉相手にいつにない余裕だ。一方の紅倉は珍しく緊張して幾分こわばった表情をしている。
『岳戸先生、紅倉先生、よろしくお願いします。
まず大枠の確認をしたいのですが、今起こっている石油噴出騒動、そして現在まで21人の被害が確認されている若い女性の変身病。この二つは関係しているのでしょうか?
まず岳戸先生、いかがでしょう?』
『その通りです。2つの事件は密接に関わっています。これは異世界、・・紅倉先生の言葉を借りるなら魔界からの侵略攻撃なのです』
『魔界からの侵略ですか? それは紅倉先生もそうお考えなのですか?』
『はい』
『・・分かりました。ではその二つの事件は、まさに先週この時間に放送しました少女霊ビデオを発端としたものなのでしょうか?』
岳戸が答える。
『そうです。しかしあのビデオはきっかけに過ぎません。魔界からの侵攻はそれまでに周到に準備されたものだったのです』
『紅倉先生はいかがお考えでしょう?』
『わたしの見方はちょっと違います。一連の事件は偶発的なものだったと思います。それを招いてしまう状況が出来上がってしまっていたということだと思います』
『なるほど。魔界からの侵略という点では一致していますがお二人の見方には微妙な違いがあるようです。
事件はここまで実に複雑怪奇な展開を見せてきました。番組第一部ではまず事件の発端となりました先週の番組、「本当にあった少女霊ビデオ」、この番組に発生した謎について検証したいと思います』
CM。
CM明け。タイトル「少女はいったい誰だったのか!?番組AD殺人事件の真相は!?」
「さてここから事件の発端となったいわゆる少女霊ビデオと、当番組ADが殺害された事件から順を追って事件の推移を検証していこうという構成を準備していたわけですが、紅倉先生からそれについて提案があるということですね?」
「はい。せっかく準備していただいた段取りを壊してしまって申し訳ないのですが、今現在の状況から逆に事件を辿っていった方が分かり易いと思うのです。わたしたちがいったい何を敵として相手にしているのか、その正体を知らなくてはこれらの事件がさっぱり理解できないと思うのです」
「なるほど。たしかに我々には今いったい何が起こっているのか事態がまるで理解できないでいます。いいでしょう、実はこれだけの事件をわずか2時間の番組で検証できるものなのか、肝心の結論が尻切れトンボに終わるのではないかと心配していたのです。結論を教えていただければありがたいです」
紅倉が正面の岳戸を気にして言う。
「岳戸先生、それでよろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんよ。では、先生、お教え願いますか?先生のおっしゃる魔界とは、どういうものなのです?」
紅倉は頷き岳戸に向かって話し出す。カメラは紅倉の背後から、岳戸の背後から、交互に二人の表情を撮し出す。
「魔界とは、一言で言えば人間以前の世界です。
人間が誕生する以前にもこの地球には長い長い生物の歴史がありました。はるか以前に滅び、今は土の中の化石にしか記憶されていないそれらの生物にも、わたしたち人間と同じ生きている時間があり、生活があり、心があったはずです。それらの生きていた時間、心といったものは、今現在完全に失われてしまったのでしょうか?
わたしや岳戸先生は霊能力者と呼ばれる存在です。霊能力とは、ふつうの人間の五感ではキャッチし得ないものをキャッチし、見たり、聞いたり、感じたり、五感に置き換えることのできる能力です。わたしたち霊能力者からすれば、そういう世界、いわゆる霊の世界とは、在るのが常識なのです。普通の人にはそれが見えないというだけのことなのです。
霊の世界とは、いわゆるお化けです。幽霊や、魂や、あの世、死後の世界のことです。それが見えない人にも、文化的な知識としてそういう存在を想像はできるでしょう。信じる人もいるでしょうし、信じない人もいるでしょう。いずれにしてもその想像するところはだいたい共通しているでしょう。つまり、霊の世界も、わたしたち人間の世界だということです。
では、もし仮に、わたしたち人間が何らかの原因で一人残らず死に絶えてしまったら、霊の世界はどうなるのでしょう?
霊を信じる人は、死後の世界もあの世に存在して、霊、魂は永遠に続くと、そう思っているのではありませんか? だからどの宗教でも天の国の永遠を詠い、死後神の下に召されるようにこの世での正しい生き方を説き、信じる者は神の下の永遠を思い自らの生き方を律しているのではないでしょうか?
では、わたしたち人間が滅び去った後、新しく文明を持つ生物が現れたとして、彼らは、わたしたちの霊を見ることがあるでしょうか? 彼らの目指す永遠なる天の国は、わたしたちの思い描く永遠の天の国と、同じ世界なのでしょうか?
わたしは、違うと思います。
わたしは、人間の幽霊は数限りなく見てきましたし、犬や猫、猿や馬の幽霊なども多く見ました。でも、マンモスや類人猿、恐竜の幽霊など見たことがありません。過去無数に存在したはずの彼らの霊を、わたしは見たことがないのです。彼らには霊となるべき魂がなかったのでしょうか? わたしは違うと思います。彼らにも魂は宿り、彼らなりの死後の世界が存在したと、思います。
わたしは人間以外の動物の霊もたくさん見てきました。しかし、
一寸の虫にも五分の魂という言葉がありますね? ことわざとしての意味はともかく、そこには全ての生き物には魂が宿っているという世界観が込められているはずです。しかしどうでしょう? 一寸って、3センチくらいですか? 3センチの虫に人間とまったく同じ魂が宿るものでしょうか? ゴキブリに人間と同じ魂が宿っているなんて、考えたくありませんよね?
人間には人間の、動物には動物の、虫には虫の、それぞれの魂があるのだと思います。それぞれは魂の種類が違うのです。だからキツネ憑きと呼ばれる動物霊が憑依した人間は人間の行動が取れず、さりとて動物としてもおかしなかっこうになってしまいます。それぞれの魂と肉体に互換性はないのです。
そうして考えてみれば、はるか過去に滅び去った生き物の霊や、彼らの死後の世界が、現在生きているわたしたちにキャッチできないのも道理でしょう。彼らの魂とわたしたちの魂はまったく互換性がなく、彼らの霊界とわたしたちの霊界は完全に断絶しているのです。
と、言っておいてなんですが、実は、まったく接点がないわけでもないのです。
話が飛躍しますがこの国には神がいます。
あらひとがみ様のことではありませんよ。神、としか言い様のない物のことです。
日本人は古来神との関わりの深い生活をしてきて、土地的にも神との交わりの多い国でした。仏教到来以前の日本オリジナルの土地神への信仰はもちろん、政治ももともと神との交流によって行われていました。外敵を討ち滅ぼす神風などもそれら土地神の助力を頼んだものでしょう。
現在わたしたちはふだんの生活の中でそれら神を意識することはありません。多くの人間が迷信として軽蔑し、その存在を無視しています。ですが、古来の知識を伝承し、彼ら神々の力を利用しようと試みる人々は、一部ではありますが、厳然と存在し、彼らは、国の中心に位置しています。長い歴史を見て、この国の運の良さは、実は、それら神と彼ら神の力を味方に付けようと秘術を以て活動している人々の努力に依るところが大きいのです。
が、それも一つのエピソードに過ぎず、残念ながら彼らも今度の事件を食い止めることはできませんでした。なにしろ相手はその神そのものなのですから、仕方ありません。
そうです、神とは、つまり、魔界の物に他ならないのです。
神、とはわたしたちの生きる現世と魔界が交わった点に生ずる異次元のパワーです。それは軋轢であり、きしみであり、歪みであり、本来目に見えない物です。が、たまたまそれが物の形や、生き物の姿として現世に現れることがあります。神社のご神体がそうであり、昔から妖怪と呼ばれる奇妙な姿をした生き物がそれです。それらは人知を超えた不思議な力であり、理解しがたい奇妙な存在です。現世のわたしたちの尺度で測れないのが道理、もともとわたしたちの世界とは相容れない魔界の物なのですから。日本とは、古来よりそうした魔界との接点と交流の多い不思議な土地なのです。
ところで、魔界が既に滅んでしまった旧世界の霊界、あの世であることは理解してもらえたと思いますが、旧世界のあの世とは、どこにあるのでしょう?
それにはまずわたしたちの死後の世界観を考えなければなりません。一般の人たちはあの世はどこにあると考えているでしょう? この地球上にあるのでしょうか? 空の雲の上にあるのでしょうか? それとも地球を飛び出した宇宙にあるのでしょうか? まあ具体的にどこかという結論はさておき、イメージ的には遠い場所と考えているのではないでしょうか? そこで宇宙という一つの答えが出てくるわけですが、考えてください、宇宙、つまり地球の外という概念は人類誕生から今日までの長い歴史の中のほんの最近のことではありませんか? 地動説以前にも天という概念はあったわけですからあの世がこの地上を離れた空のかなたの高いところという考えはあったでしょうが、では、人類以前の生き物の死後の世界はどうだったのでしょう?
人類以前の文字も文明も持たない生き物が、天、地球の彼方の外の場所という概念を持っていたとは思えません。もっと言ってしまえば、彼らに死後の世界という物が存在するという考えそのものがあったかどうか怪しいものです。
では彼らにやはり霊界がなかったのかというと、それも違うと思います。魂という物が存在する以上、そしてそれが永遠である以上、意識しようとするまいと、魂自体は死後もどこかに存在しなければなりません。天という概念を持たない魂が行き着くところ、それは結局、自分たちが生きて、見て、感じていた、この場所にしかないのではありませんか?つまり、彼らの死後の世界は、自分たちの生きていた現世と、まったく重なり合っていたのです。
今生きている現世のわたしたちが天国が自分たちの生きているまさにこの場所に重なり合って存在しているなんて、ふつう考えないのではありませんか?
わたしなりの死後の世界、天国のある場所についての結論を言いましょう。わたしたちの天国はどんどんどんどんこの地球を離れて宇宙の彼方を目指して移動しているのです。天国という物を作っているのは、他でもない、わたしたちの魂そのものなのです。わたしたちの魂の集合体、それがすなわち天国なのです。
この考えの正否は取りあえず置いておいてください。今問題なのはわたしたちの天国は天、空の彼方にあるが、魔界、彼らの死後の世界は場所的にはまったくわたしたちの今生きているこの世界と重なり合っているということです。
魔界はここに在ります。
霊の存在になっている彼らをわたしたちはお互いに意識し得ないというだけのことなのです。
彼らの世界は、目に見えない、この世に存在しないだけで、実はとてつもなく巨大な物に成長しているのです。なにしろ魂は永遠で、彼らの現世は既に失われ、新たな肉体に転生することができないのですから。ほんのちょっとの接点にわたしたちが神と恐れる巨大なパワーが生じていることでもその強大さが分かるでしょう。もし、彼ら魔界がこの現世に存在として出現し、重なり合っていったら、わたしたちの世界に勝ち目はありません。わたしたちの現世は、確実に滅びます」
CM。
CM明け。司会者。
「紅倉先生のたいへんな力説でした。たいへんな説で、わたしたちにはにわかに信じがたい話なのですが、魔界というのはそれほどのパワーを持っているのですか?」
「はい。彼らの魂はわたしたち人類の魂よりはるかに長い時間を過ごしているのです。その霊界もより強力な物へと成長しています」
「つまり、進化しているということですか?」
「そうです。肉体を失って文明を築く能力はありませんが代わりに生き物としては驚くべき独自の進化を遂げています。わたしたち現存の生物からすれば革命的というべき劇的な意識改革です。肉体の存在ではありませんからね、常に観念の改革がその姿となって現れるのです」
「それで、それが現在起こっていることとどう結びつくのでしょう?」
「ああ、すみません、喋りすぎました。
そうですね、彼らは大昔の存在なのです、彼らのかつての肉体が現在の現世でどうなっているかというと?」
「化石、ですか?」
「それがもっと時間が経つとどうなります?」
「石油!ですか?」
「そうです。圧力によって化学変化を起こし、どろどろに溶けて、今現在は石油の姿になっています。地底深く眠っていた石油が地表に噴き出しているのは魔界が現世での姿を取り戻そうとしている活動なのです」
「しかし先生、我々はふだんから石油を採掘し、燃料や工業原料として様々に利用していますよ?」
「問題は魂の在りかなのです。別に魔界は石油の中に存在しているのではありません。霊界としてわたしたちの現世とまったく隔絶しているから安定してこの土地に存在してこられたのです。彼らは今、その均衡を壊し、今、自分たちが再び現世の主となろうとしています」
「ううむ・・、恐ろしい事態が進行しているのですね。しかしいったい何故そんなことが起こってしまったのでしょう?」
「それです」
紅倉美姫はじっと岳戸由宇を見つめた。退屈そうにあくびさえしそうにしていた岳戸は紅倉の強い視線を受けて面白そうにニッとした。受けて立とうという。二人の対決が本格的に始まる。




