プロローグ 心霊ビデオ撮影
夏休み特別企画「霊能力者紅倉美姫」オリジナルバージョンです。
キャラクターが気に入って「紅倉美姫」は中編をいくつか書いていますがもともとシリーズの予定はなく、この作品は特に後半かなり無茶苦茶な展開になっています。
改めて読んでみましたらやはりかなり危ないネタがあるで15禁、子どもはダメ!ということでごめんなさい。
2006年8月29日〜12月31日作品。
テレビやビデオで「恐怖映像特集」ってあるよね。ホームビデオに何かおかしなものが映ってたり、心霊スポットって呼ばれているところで本当に何か映っちゃったり。
で、それを狙って撮ろうとした連中の話なんだ。
高校の映画研究同好会の連中でね。
インターネットで地元の心霊スポットを調べて、ある一件の空き家で撮影することにした。
海岸沿いの雑木林の中に建つ小さな一軒家なんだけど、この二階の窓で少女の霊が何度も目撃されているんだそうだ。
実際行ってみると、まさに廃屋でぼろぼろで、裏側の壁がハンマーで叩き割られたみたいに崩れていて中に入ることができた。中も荒れ放題で、有名な心霊スポットだから何人も入り込んでいるらしくあちこちスプレーやマジックでイタズラ書きがされている。
「◯◯参上!」とか
「おまえはもう呪われている!」とか。
連中は崩れた階段を何とか上って二階の例の部屋に行ってビデオカメラをセットした。
夕方の6時と、夜中の0時と、深夜の2時にそれぞれ20分間カメラが回るようにタイマーをセットして。
彼らが心霊ビデオを撮ろうと思ったのは弱小同好会の名前を上げようと言うのと、やっぱりテレビ局かビデオ会社に売り込んでやろうと言う金のためと、二つ目的があったんだけど、けっこう本気で考えていて、どうやったら霊を確実にカメラに収められるか作戦を考えていったんだ。
一番考えられるのはわざと霊を怒らせるようなことをしておびき出すって手なんだけど、
それは怖い。
メンバーは五人なんだけど、一人女の子がいてね、そういうのは嫌だって別の手を考えてね。
逆に、霊の喜ぶことをしてやって、快くカメラの前に出てきてもらおうと言う作戦でね。
ネットで調べたところその女の子の幽霊は、中学生で、孤独な少女で、バレリーナのオルゴールと熊のぬいぐるみが大好きってことなんだ。
それぞれうわさ話の中でストーリーがあるんだけど、まあそれはいいだろう。
それでバレリーナのクルクル踊るオルゴールと、大きな熊のぬいぐるみと用意して持っていったんだ。オルゴールの方はタイマーを改造して時間になるとふたが開くように工夫してね。
他の箇所はぼろぼろでらくがきだらけなんだけど、その部屋はきれいなもので、六畳の畳の部屋なんだけど、さすがに壁のらくがきも小さなものがちょこちょこあるだけで、やっぱりさすがに祟りが怖いんだろうね。
がらんとなんにもなくて、押入があって、これを開けるのは勇気がいったけど、なんにもなくてね。
隅に三脚立ててカメラを据えて、ワイドレンズでできるだけ広く部屋が映るようにして、タイマーをセットして家を出たんだ。
夏休み中の話なんだけど、女の子だけ帰って、男どもは雑木林と松の防砂林の丘の向こうが海だからね、キャンプ気分でビールなんか飲みながら(未成年は飲んじゃいけないんだぞ!)、変なのが入り込んでカメラを持っていったりしないように交代で家の様子を見に行って、一夜を明かしたんだ。
朝日が昇って、家の二階の部屋に行ってみると、カメラとオルゴールはあるんだけど、何故か熊のぬいぐるみは消えていた。たしかにオルゴールといっしょに部屋の中央に置いたはずなんだけどね、不思議だね。
これは本当に霊が持っていったんじゃないか?って興奮して、カメラと機材を持ち帰ったんだ。
オルゴールは霊へのプレゼントとしてそのまま置いておいたんだけど、不思議なのはね、これも何故か中で何か引っかかったみたいにふたが開かないんだ。けっこう高いやつだったんだけど、怖くて持って帰れないよね。
さて、視聴覚室のテレビにつないでみんなで見てみるとね、
まずは午後6時からの20分間。
日没は7時過ぎだから外はまだ明るいんだけど、窓は南向きだからね、ちょっと光量が足りなくてノイズが出ちゃってる。霊の出やすい環境とビデオで撮影できる明るさと考えてこの時間を選んだんだけどね。
ビデオが回りだして5分後にオルゴールのふたが開いて10分間音楽が鳴って中のバレリーナがクルクル踊る。
みんな息を詰めてじーっとテレビに見入ってる。
なんの変化もなくて駄目かと半分くらい諦めて、オルゴールが鳴り出して5分ほど経ったところで、
「あ、これなに!?」
って一人が指さして、なんだなんだと巻き戻してみると、天井の方からふうっと丸い小さな薄い白い光が降ってきて、オルゴールの周りをふわふわ漂ってるんだ。
オーブ、英語で言う人魂だね、それなんだよ。
ああ、ところで僕もオーブの映った写真撮ったことがあるんだよ。しかも画面いっぱい大量に。
土合駅って知ってる?日本一のモグラ駅なんだけど。ホームが大清水トンネルの中にあって、地上の改札口まで階段を486段、70メートルも登らないとならない地下駅なんだよ。
しょっちゅう通過はしてたんだけど、一度下りてみたことがあってね。記念にデジカメで写真撮ったら、映ってたんだよ、オーブが、画面いっぱい無数に。
なーんてね、たぶん違うよ。電車が通過してすぐフラッシュ焚いて撮ったからね、空気中に散った水分にフラッシュが反射しただけだろう。びっくりしたけどね。
でも、あれだけのトンネルの中だからね、ひょっとして本当に本物のオーブが映っているかもしれないね。
おっといけない、話を戻そう。
やったー、映ってる!
って、大騒ぎでね。
本物の心霊ビデオだ!
これは評判になるぞ!
いくらぐらいで売れるかなあ?
って、もう大喜びで。
ねえねえ、なんか踊ってるみたいじゃない? きっと気に入って喜んでくれてるのよ!
なんて、その女の子メンバーも目をウルウルさせちゃってね。たしかにオルゴールの周りをふわふわ漂って、踊っているようにも見えるんだよね。
ずいぶん長く、オルゴールが止まるまで5分くらい映っていてね、それだけの時間一つの同じオーブが映り続けている映像というのもないんじゃないかな?
ひょっとしてこれって本当にすごい映像なんじゃないか?って今度は黙り込んじゃってね。
オルゴールが止まって、・・タイマーでふたが閉まるように仕掛けをしておいたからね、オーブは戸惑ったみたいに一瞬止まって、すーっと消えていってね。
ああ、行っちゃった、もっと長く鳴っているようにしておいた方が良かったねえ、なんて言ってたんだけど、
しばらくして、また変なものが映ったんだ。
白い煙みたいなものなんだけど、なんだろうなと思って見ていると、だんだん人の形に見えてくるんだ。
来たあっ!・・・って背筋がゾッとしてね、
人魂どころじゃない、完全な幽霊だ!
って。
もやもやしてはっきりしないんだけど、たしかに中学生くらいの女の子に見えるんだよね。部屋の入り口に立ってこっちを向いてるんだけど、顔まではさすがに分からない。
それが歩いて、オルゴールの隣に置いた熊のぬいぐるみのところに来て、かがんで抱きかかえようとして手を伸ばしたんだ。
つかんだ、と思ったところでブツンと映像が切れちゃってね。20分、時間切れ。
なあんだよお、こんなすっごいいいところでえ!
って、がっかりして、ええいこの怒りをどこにぶつけてやろうか?ってな感じなんだけど、
すぐ次の映像が始まってね。
赤外線モードの緑がかった灰色の画面。
と思ったら、一人がいきなりビデオ止めちゃってね。
おい、何すんだよお!?って他の奴らは怒るんだけど、その止めた男子、
「おい、今俺すっごい嫌なのを見たような気がするんだけど・・・」
って、深刻そうな顔をしてるんだよ。
そしたらまた他の一人が、
「実はさあ、俺も・・。なあ、おまえら気が付かなかったか?」
って言うんだよ。なんだよ?って訊くと、その男子、ビデオを少し巻き戻して、
夕方の映像の終わりのところなんだ。
「ほら、見ろ!」
って。
言われて見ると、他の連中もゾッとしてね。
幽霊の女の子の顔が映像の切れる寸前はっきりこっちを見てるんだ。
ゾーッとしてね。
別にカメラは隠してないから、気付いて当然なんだけど、幽霊にはっきり見られるって、やっぱり怖いだろう?
表情はもやもやで全然分からないんだけどね。
で、次の暗視モードの映像が始まって、夜中の0時からの20分だね、そしたら女の子が、キャッ、て悲鳴上げて、
「首!・・・」
って、震える手で指さして。
千切れて転がってるんだよ、熊のぬいぐるみの首が。
中の綿が飛び出てあちこちに散らばっていてね。
乱暴に振り回して、床に叩きつけたって感じでクタって寝てるんだ。
また、ゾーッとしてね。
どうしよう、どうしよう、女の子怒らせちゃった!・・
ってメンバーの女の子はすっかり怯えて泣いちゃってね。他のメンバーが、落ち着け、とにかく続きを見よう、って。
何事もなく5分過ぎて、オルゴールのふたが開いて音楽が流れ出したんだ。
だいじょうぶだよ。な、さっきはオルゴールは気に入ってたみたいじゃないか、って女の子を励ましてね。
でもオーブも女の子の霊も現れなくてね、
じーっと緊張して食い入るみたいに画面を見てたんだけど、パタンってふたが閉まって、音楽が止んで、
はあー・・・・・・・、ってため息をついてね。
出なかったね、って頷き合ったんだけど、
急に画面が白くなってね、
突然至近距離で横からぬっと何かがカメラの前に現れたんだ。
完全に不意を付かれてみんなギャッて腰を抜かしそうになってね。
ピントがジージー合い辛そうにして、なんとかその眼前のものをとらえたんだ。
ぎゃー・・・・・・・・・・・・・・・・っ!
って今度こそみんな悲鳴を上げてね。
はっきり映ってるんだよ、幽霊の女の子の顔が。
ただし、それはもう人間の顔をしてないんだ。
完全に人間以外の生き物になっているんだ。
死んでるのに生き物って言うのも変だけど、とにかく、完全に人間じゃないんだ。
例えて言うなら、
思い切りリアルな「ムンクの叫び」だよ。
笑えないよ。
本物だよ。
白い丸い顔に、
真っ黒い目玉が開いてるんだ。
黒目だけの巨大な目玉が、カッと開いてこっちを睨んでいるんだよ。
鼻は凹凸がなく小さな縦の穴が二つ開いていて、
小さな口が魚みたいに丸く開いているんだけど、中に細かい歯がびっしり生えているんだよ、尖った針みたいなのがね。
顎はなくてなめらかに首につながっていて、
濡れたみたいな真っ黒なおかっぱの髪の毛が被さっているんだ。
まるきり異次元の生き物だよ。
これは、腰を抜かすよ、マジで。
みんなあわあわ言って、画面から逃げるようにして、それでも怖すぎて画面から目は離せない。
丸い口がパクパク言って何か言ってるみたいなんだ。
なんだろう? 何言ってるんだろう?って耳を澄ませていると、なんにも触ってないのにテレビから聞こえるサー・・ッて言う音がどんどん大きくなっていって、何か声らしいものがかすかに聞こえたかと思ったら、いきなり耳をつんざく大音量で、
「ナニ撮ッテンダヨオッ!」
ってビリビリに割れた声で言って、ボンッ、ボンッ、てスピーカーが両方とも破裂して煙噴いて、
同時にブツン、って画面もフラッシュみたいに光って切れちゃったんだけど、くっきり、女の子、とも言えない女の子の幽霊の顔が焼き付いて残っちゃったんだ。
激怒、という感情をそのまま形にしたような物凄い顔がくっきりと白黒でね。
その後は、もう、阿鼻叫喚だね。
みんな悲鳴を上げて部屋を逃げ出したよ。
その後ねえ。
テレビは壊しちゃったけど、ビデオは無事だったんだ。
で、勇気を振り絞って続きを見たんだ。
あれだけ凄まじい物を見ちゃったからね、今さら逃げてもどうしようもないだろうと。
次の深夜2時の20分間にも女の子の幽霊は映っていたよ。
音楽の鳴るオルゴールの周りをうろうろ歩いて、ふたが閉じるときに、スーッと、煙みたいになって消えていった。
どうやらオルゴールの中に入っちゃったようなんだな。
翌日オルゴールを取りに家に行ったよ。
オルゴールはそのまま部屋に置いてあった。
熊のぬいぐるみは、いくら捜しても見つからなかった。三番目の映像にはもう映ってなかったからね、女の子がどこかに持っていったんだろう。
そのビデオとオルゴール、厳重に梱包してテレビ局に送ったよ。
もう5年経つけれど、いまだにそれが何らかの形でも放送されたことはないね。
作り物、と思われたのかもしれない。
でも、違うと思うんだ。
本物過ぎて、とても放送できないんだろう。
あれは・・、
放送できないだろうなあ・・・・・・・・・。
もしかしたらテレビ局にはそういう本物だけど決して放送できない映像って言うのがいっぱいあるのかもしれないねえ。