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初心者用迷宮というものは、裏ルートや裏ボスの難易度が高かったりする。

今回、テンプレが多量含みます。ご注意ください。

「……やっぱり、僕の出る幕はなさそうだね。全く、働かないって素晴らしいぜ!」


「なに言ってるんですかシュウヤさん。戦闘から何か学ぶんじゃなかったんですか?」


 もともと魔物だったものが百ほど積み上がったところで、修也が呟いた。

 全く仕事をしようとしない修也に、レンが魔物の死骸から牙や剣、皮に魔石などを剥ぎ取りながら口を尖らせる。

 結局あの後誰一人とて死ぬことも怪我を負うこともなかった。初めての戦闘とはいえ、人類最高峰の力を持つ五人が戦えば無理もないかもしれない。


「かなりの深層に来たはずなのに、結局無双だもん。ご都合主義ほどつまらないものはないぜ」


 あくびをしながら適当に答える。

 レベルの低い迷宮とはいえ、かなり深くまで来たのだ。しかし、出るのは低レベルの魔物ばかり。もう少し強くなってもいいのではないだろうか。

 あるいは魔物が強くなっていないのではなく、勇者が強すぎたのかもしれない。


(どちらにしてもお荷物状態は変わらねえ。嫌な視線も感じるしよ。あー、嫌だ嫌だ)


 ため息をつく。なんの役にも立てないうえに、ねっとりした視線まで感じているこの状況では気が滅入るのも仕方ないだろう。


 実際、修也は蔑視されていた。

 彼が蔑視されるようになった理由は、やはり模擬戦の件だろう。

 あれから修也は完全に弱者認定されてしまい、王都の殆どの人から軽蔑されていた。例外は、騎士団長とレンと、他に数名くらいだろうか。


(はぁ、ホント俺の弱さは異常だろ)


 なんとなく、スキルプレートを確認する。これは、転移当時に貰ったものだ。


【名前:『シュウヤ』

 称号:『三流疫者(さんりゅうやくしゃ)』『最弱勇者』

 技能:『劣悪な道化師(レチッドクラウン)』『痛み分け(バットシェアー)』『???』】


 スキルは増えていたが、やはりどれも使えないものばかり。表示されていないスキルは妹である一華のスキルを真似したものだが、これもリスクが大きすぎて使えない。

 塵も積もれば山となるとはいうが、修也の場合は悩みのタネが集まってゴミ山を作っているだけだった。


(せめて一つでもましなのがあれば……いや、イフの話は意味ないか)


 無い物ねだり程、意味のないものはない。だから思考を振り払い、気が向かないながらもレンの手伝いをすることにした。


「ほら、手伝ってあげるから貸しなよ。これでも僕は困っている人を見るとつい助けたくなる性分なんだ!」


「いやこれシュウヤさんの仕事ですし。それに先ほどまでサボっていたじゃないですか」


 文句言いながらも修也に戦利品を手渡しするレン。サボっていたことに自覚はあるのか、修也は目を逸らしてテヘッと笑う。


「サボタージュくらい別にいいじゃないか。そんなに張り詰めてるといざという時に全力を出せないぜ」


「シュウヤさんはいざという時もサボってそうですね」


 ニッコリと微笑みながら言い放つレン。

 なるほど、と思った修也だが、これでは年上としての威厳がなくなってしまう気がしたので反論することにした。


「あいつらが僕の出番を潰してるんだ。僕が悪いわけじゃない。周りが悪い」


「なんという自己肯定。物凄い超理論ですよそれ……」


 あまりに責任転嫁な言葉にレンはため息をついていた。

 年上としての威厳は守ることはできなかったみたいだ。


 喋っているうちに、戦闘による騒音がやむ。どうやら、この層も狩り尽くしたようだ。


「よし、お前ら! 次の層へ行くぞ! 次は五十層、中ボスが出てくる。気合いを入れろ!」


 この層の攻略に一喜一憂していた勇者一行も、騎士団長の声が響いた途端次の層へ行く準備を始める。ついて行くだけで一苦労な修也と違って、勇者というのは疲労を知らないらしい。


(はぁ、帰りたい。家に帰ってラーメン食いたい。スーパーで買ったブラックラーメン大丈夫かなぁ……)


「行きますよ、シュウヤさん」


 レンに声をかけられ、慌てて準備をする修也。準備が終わると、勇者一行はすでに階段へと向かっていた。どうやら待ってくれるなんて甘いことはないらしい。レンに連れられそそくさとそのあとをついて行く。


 階段の下を見ると、これまでよりも薄気味悪い感じがした。

 今まであったはずの青白く光る松明もなく、真っ黒な空間が広がっている。

 数名の兵が持っている松明の明かりを頼りに、慎重に階段を降りる。

 階段を降りきると、今までにはなかったはずの大きな扉が鎮座していた。


「ここがボスの部屋って奴か?」


「いや、ここの次の部屋だ」


 騎士団長の言葉に勇者一行は息を飲む。修也も例外ではなく、笑顔を浮かべながらも首筋には汗が伝っていた。


(なんなのこの禍々しい雰囲気。本当はここ魔王城じゃねえの? 初級者ダンジョンでこれとか魔王どれだけ強いんだよ!)


 結局、心の準備もすまないまま騎士団長によって扉が開かれる。

 扉の奥は殺風景だった。今まではボコボコな岩の地面で足元が悪かったが、ここは多少のひび割れやくすみはあれどしっかりと整備されている。何年も使われていないからか、苔などは生えていたが……。


「ここだけ整備されている……?」


「なんでっスかね?」


 カツンカツンと、隆三は地面を足で蹴り、具合を確かめていた。後ろの腰巾着も、怪訝な表情をしている。


「ここは魔物が出たことはないが、何があるか分からん。気を緩めるな!」


 騎士団長の檄が飛び、勇者一行の空気が変わる。修也でさえも、ヘラヘラとした表情をしながらも周りを警戒していた。


(こういう時は裏ボスとか裏ダンジョンへの道が開かれるのが定石だ。ゲームとかラノベならな、うん)


 訂正。やはり彼は少し能天気だった。


「何も出ないといいんですけどね……」


「まぁ、そん時は逃げるしかないでしょ。僕みたいな弱者が立ち向かっても無駄だろうしね」


 実際彼は、何かあったら逃げろと騎士団長に言われていた。それはレンも同じであるらしく、彼の言葉に頷いていた。


「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。僕としてはどっちも出て欲しくないけどね」


 果たしてそんな都合の良い願いは、レン以外の誰にも届くことはなかった。レンは少し困ったように笑う。


「そうだと、いいですね」


 できれば、このまま何も起こらないでほしい。修也はそう願う。


「おーい、ここに扉があったぞ!」


 しかしそんな願いは叶うはずもなく。


「……階段じゃなくて扉?」


 事は止まる事なく進んで行く。


 それは入り口のような大きなものではなく、小さな扉だった。


「こんなところに扉など……」


「ここがボス部屋ってやつっしょ! マジ楽しみだわ」


 困惑する騎士団長をよそに臆する事なく扉に入って行く勇者一行。その様子を見ていた修也は、今日何度目になるか分からないため息をつく。

 扉の方に行けば、一華が壁に寄りかかっていた。どうやら修也を待っていたみたいだ。


「……にぃ。私たちに何かあったらすぐに逃げてね」


 首を縦に振る。それに満足したのか、一華は中へと入っていった。


(ああ、わかってるよ。俺は隅っこで小さくなってるか。どうせ邪魔だろうし)


 扉に入らないという選択肢はなかった。この部屋に魔物が出ないという確証はない。誰かのそばにいた方が安全だろう。

 いや、あるいは自分の活躍、そんな遠い可能性を夢見てのことかもしれない。それは修也にも分からなかった。


 扉の奥は、先ほどと同じ殺風景な部屋だった。松明が部屋を照らしていたという違いはあるが。

 そのおかげか、奥に潜むモノが何かを確認することができた。


「なんだよ……あれ」


 雪のように真っ白な毛に紅い瞳。口からは鋭く尖った牙が見える。

 雄々しくそびえ立つそれは巨大な狼だった。


「……僕はゴブリンの王がボスって聞いてたんだけど」


「私もです」


 情報とはかけ離れた姿に、修也は困惑する。

 それは他の勇者も同じだったらしく、全員が唖然としていた。

 しかし、さすがは勇者と言うべきかすぐに冷静さを取り戻し狼へと攻撃を始めた。

 抜群のチームワークで、狼を蹂躙していく。


「す、すごい……」


 いまだ気圧されているレンと修也は棒立ちしていた。頭部だけでも人の倍はある。

 見慣れた動物もここまで大きくなれば恐怖対象になりうるのかと思い、修也は身震いする。


「……レン。これは加勢どころの話じゃなさそうだ。僕たちはおとなしくしていよう」


 修也は、真面目な表情で話しかける。しかし、レンからの返事はない。


「シュウヤ、さん。あれ……」


 レンは、震える指で部屋の奥を指す。その顔は恐怖で歪んでいて、目には涙がたまっていた。

 何だろう、と思いながら奥を注視する。


 そこには、今まで倒して来た数々の魔物の軍勢がいた。十、二十どころの話ではない。目視でも百以上は確認できる。


「『……へ?』」


  思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 そして、それが何であるかを理解した途端恐怖が押し寄せてきた。


「にぃ、逃げて!」


 表情に乏しい一華でさえも、必死に叫んでいた。


「僕たちがいても邪魔になるだけだ。逃げよう!」


 逃げろ。立ち向かうなんて論外だ。逃げなければ死ぬ。そう、本能で悟る。


「シュウヤさん!?」


 近くにいたレンの手を掴み、出口へと走る。

 後ろを振り向けば、他の勇者たちが魔物を抑えていた。しかし、百もの軍勢は抑えきれず、こちらを追って来ていた。

 出口へ向かって必死に走るも、魔物は着々と近づいてくる。


「シュウヤさん! 追いつかれます!」


「『もう扉に着く。一気に走───』」


 ガコッ、足元から鈍い音がした。

 足四つ分くらいの広さの床が沈み、そのせいでバランスを崩してしまう。

 そのまま体は宙に放り出される。しかし、地面に落ちると言うことはなかった。


「シュウヤさん。これってもしかして……」


 レンの力ないつぶやきが聞こえる。

 何かの仕掛けが働いたのか、落下地点には先ほどまでなかったはずの穴が空いていた。

 奥には暗闇が広がっていて、どれくらい深いのかもわからない。

 ───ブービートラップ。

 止まった思考の中で、しかしその言葉だけは鮮明に頭に浮かぶ。


「にぃ!!」


「下条くん!」


「下条!」


 彼を呼ぶ叫び声は果たして彼には届くことはなかった。

 そのままシュウヤとレンは奈落に続く穴へと落ちていく。


(くっそ! こんなことならくるんじゃなかった!)


 もはや彼と彼女が上に上がる手段はなく、そのまま自由落下していく。


 落下先には深い深い闇が広がっている。


 きっと自分は助からないだろう。そう理解していながらも、猛烈な速度で離れていく光に手を伸ばす。


(弱いまま、強いやつに見下されたまま俺は死ぬのか?)


 嫌だ、と彼は首を横に振る。

 できることならば、強くなりたかった。誰かに認めてもらいたかった。負けてばかりいる自分が何より嫌いだった。


 そして、たった一つ。かつて自分の胸中あった想いを、いつからか求めることをやめてしまった理想を思い出す。


 もはや、もうその願いが叶うことはない。

 皮肉にも地面はすでに目の前に迫って来ていた。


(ああ、死んだな───)


 そう思うのも束の間、かつてない衝撃が彼を襲う。

 全身に激しい鈍痛が響き渡る。


 ゆっくりと暗くなる意識に死を予感しながらも、彼は両目を伏せた。

テンプレとは言えど、裏切られるわけではなく、罠に引っかかって落ちていく修也。やはり、彼の運ってかなり悪そうですね。

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