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スキルなんて大層なものを持っても、結局彼の弱さは変わらない。

今回は主人公のスキル説明と、迷宮へ行くシーンですかね。主人公の戦闘がなかなか書けなくてもどかしい!

 修也と岸島の模擬戦から三ヶ月が経った。

 あれからはスキルを扱うための訓練に、基礎体力づくり、武術の稽古など修也にとってはハードなスケジュールを毎日こなしていた。

 しかし、全く成長の兆しが見えない。身体能力も能力も強くなることなく、修也は完全にお荷物状態だった。

 そして今日、転移当時に世話になった男、騎士団長の言葉によって、彼をさらに焦らせることになる。


「今日は、実戦の経験を積むために近くの迷宮に潜ってもらう。もちろん俺たちと一緒だが」


「おお、まじかよ!」


「岸島先輩。楽しみっスね!」


 騎士団長の言葉に隆三たちが歓声をあげる。逆に修也は顔を真っ青にしていた。


(おいおいマジかよ。俺なんかが行って大丈夫かよ。こいつらみたいに戦闘力インフレ状態じゃないぞ。なんなら成長すらしていない)


 そのうちこうなるかもしれない事は修也も覚悟していたが、予想以上に自分のスペックが低かった。

 しかし、隆三たちの様子を見れば、いきなりの実戦も頷ける。彼らは習ったことをスポンジが水を吸うように軽々しく習得していた。いまや、彼らに太刀打ちできるのは騎士団長しかいない。

 つまり、修也が弱すぎるのだ。才ある勇者たちが見込みのない彼に合わせるわけがなかった。


(ま、頑張るしかないか。幸いなことに俺のスキルは多芸だ。前みたいなミスをしなければ大丈夫なはず)


 彼のスキル───『劣悪な道化師(レチッドクラウン)』は、他人を真似するスキル。技術や容姿、スキルでさえも真似することができる。


 しかし、彼のスキルには大きすぎる欠点があった。どうやらスキルや技術を真似できても、使いこなせるわけではないらしい。だから、表面上完璧に真似てても粗だらけになってしまい、実際のスキルの半分も効力を出すことができないみたいだ。


 その上、実際に見たわけでなければ更に質は落ち、多大なリスクを負うことになる。

 この前の模擬戦の時の『エクスカリバー』がそうだろう。彼は漫画で見ただけで実際に見たわけでないから、実際の『エクスカリバー』よりも大きく質が落ちていたし、模擬戦後には体に大きな負担がかかっていたことを医療班に伝えられていた。


(改めて考えると、俺のスキル弱すぎるだろ。なんで模擬戦の時に引き分けにまで持ってけたんかね……)


 ため息を吐く。それは修也の心情を表すかのようにとても重々しいものだった。思えばこの三ヶ月間、素の自分ではため息しか吐いていないような気がする。


「安心しろ。あそこのボスはそうそう上には上がってこないし、深層でなければ魔物もそこまで強くない。初めての実戦にはちょうどいい場所だ」


 修也はもう一度ほうとため息をつく。今度は先ほどのように重々しいものではなく、脱力したかのように。


 騎士団長がそう言うのならば、自分にとってはきついかもしれないが、死ぬこともないだろう。最悪、戦闘は全て任せればいい。そう思うと、気が楽になたような気がした。


「これは遊びではない。今までの訓練とは一斉を画するほど苛烈なものになるだろう! そのことを頭に入れとけ。わかったな!」


 軍隊ばりの怒号にこの場にいる全員が大きな返事をする。


(あーあ、俺も行かないといけないのか。もうゴールしていいよね。俺超働いたから。一生分働いたから。だから魔王さん早く自首してくれよぉ!)


 ただし、修也を除いてだが。



 ***



 修也一行は迷宮へと向かっていた。


「僕弱いから帰ってもいいよね? 『いやほんとマジで。死んじゃうから。スプラッタになっちゃうから』」


 揺れる馬車の中、誰に言うわけでもなく、ひとり呟く修也。手持ちは、騎士団長に頼んで用意してもらった良質な剣と、なけなしの食料のみ。


「……にぃ、本音が漏れてる」


「『いや、他の奴ら別の馬車だし別にいいだろ』」


 ジトーとした目をしながら言う一華の言葉を、修也は受け流した。


「『最悪、お前のスキルを使わせてもらうかもしれん』」


「それはダメ」


 即座に却下され、修也は少し顔を歪めるが特に何も言わない。


「『……分かったよ。あれはリターンは大きいけどリスクも大きいからな。全く、万能スキルまで劣化させるとか俺のスキルある意味チートすぎるだろ』」


「……確かに、にぃのスキルはエグい」


 もちろん、一華の言葉は欠点がエグい、と言う意味だ。修也もそれは嫌と言うほど自覚しているので、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「『ま、俺は寄生でもしてるわ。だから安心して俺の分まで働いてくれ』」


「言動がゲスだけど……仕方ない」


 弱気なことを呟く修也だが、彼の強さを考えればそれも仕方のないことかもしれない。

 それに、隆三や英次たち勇者の力は強大だ。その中でも、修也の妹である一華は頭一つ飛び抜けて強い。そんな彼ら彼女らに任せれば、修也の力など必要ないだろう。


(今回どころか、これからも俺の出る幕はないみたいだ。彼らには是非頑張ってもらうことにしよう)


 チラリ、と馬車の窓から外を見ると、何もない荒野を抜け、草原を走っているみたいだった。しばらく眺めていると、馬車は石の門をくぐっていた。


「もうすぐ目的地だ。全員、荷物の準備。気を引きしめろ!」


「『街に入ったみたいだ。そろそろ迷宮だ。一華、準備しとけよ』」


「分かった」


 石の門を潜り抜けると、そこには廃都が広がっていた。まさしくそこは、魔物によって滅ぼされた都である。

 かつて、王都として栄えていたその都。しかし今や人っ子一人いない。時計塔は、この都が滅んだその瞬間で時の刻みを止めている。当時の面影は完全になくなり、荒れ果てていた。


「ここが、王都だったルーンという街ですか……」


 隣を走っていた馬車から出てきた、英次がそう呟く。騎士団長である男は、無言で頷いた。

 この場にいる全員が目を丸くする。

 こんな荒廃した廃都が王都だなんて誰が信じるだろうか。


「魔物は大抵、地下深くに住んでいるが、地上に出ないとも限らない。気を抜くなよ!」


 サポート役である恋六來を除いた勇者一行の先頭を進む騎士団長の声が響いた。

 地下へ続く王城付近まで、ゆっくりと進んで行くが、魔物は出る気配はない。魔物が地下から出ることは滅多にないみたいだ。


「僕みたいなのが王城に入るのは畏れ多いから……帰っていい?」


 そう呟く修也だが、周りの鋭い視線を受け黙り込んでしまう。

 結局そのまま王城に入って行く。

 王城の中は昼間なのに薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。そんな雰囲気のせいか、数々の不幸の中で育てられた修也の危機察知能力が全力で警報を鳴らす。


(なんで皆なんともないように進めるんだよ)


 額に嫌な汗が流れる。無意識に、鞘を握る拳の力が強くなっていた。


「魔物、出ないっスね」


「そ、それあるっしょ! せっかくきてやったのにマジないわー。萎えるわー」


 修也の前をズカズカと進んで行く二人組。しかし彼らは、決して英次や隆三を抜かすことはなく、その言葉はどこか震えていた。


「ここで出ることは稀ですよ。地下に入ってから本格的に魔物が出てきます」


 修也の隣を歩いていた、黒いフードととんがり帽子の魔法使いらしき少女、レンが説明に入る。

 修也はうげっと顔をしかめた。


「あ、でも一層の魔物は皆弱いんで、シューヤさんでも倒せます! ……と思い、ます……多分……はい」


 レンの声はどんどん小さくなっていく。それと同時に彼女の青い瞳はどんどん泳いでいった。

 修也の弱さは現在の王都に伝わっているので、仕方のないことだろう。曰く「勇者のくせしてなよっちい奴」だとか、「弱い上に性格は悪い」だとか、挙げ句の果てには「間違えて連れてこられた一般人」とも言われている。まあ、本人は全部間違っていないと思っているのだが。


「別にフォローしなくてもいいよ。伝説の聖剣の力を使っても勝てなかった僕だぜ? 負けることと妹への愛だけなら僕が最強だ。あはは、……『負けを知りたいよ、ホント』」


 逆にフォローされた方が惨めだ、と暗に言う修也。

 そんな意図をくんでいるのかいないのか、「そんなことないですよ!」と言う少女。


「うーん、僕は本当に弱いんだけどなぁ。ま、いっか。可愛い女の子にそう言われるだけでも僕は幸せだ! よし、いつにもましてやる気が出てきた! 全力で寄生するぞ!」


「なんででしょう。可愛いと言われたはずなのに、後の言葉のせいであまり嬉しくありません」


 笑顔を絶やさず、サボり宣言をする修也。魔法使いのレンは苦笑する。

 しかし、修也は騎士団長からも後ろにいるよう言われているので、誰も文句を言わない。

 むしろいい感じに緊張がほぐれたのか、硬い表情をしていた二人組と隆三、英次の足取りは軽くなっている。


「おっしゃ! シューヤもやる気出してるみたいだし、俺もやる気全開でいかないといけないっしょ!」


「オレも燃えてきたっス!」


 ……うちニ名はやる気が空回ってそうだが。


「そろそろ、地下への入り口に着く。ここからは魔物の出現率も高い。気を引き締めていくように!」


 扉を開けると、そこは狭い部屋だった。他の部屋よりも埃や蜘蛛の巣で汚れている。中央を見れば、地下へと続く階段があった。


「ここは昔、隠し金庫として使われていたんですよ。王都ということもあり、財政は潤っていて、五十層まで金庫として扱われていたそうです」


 狭い階段を下りながら、説明するレン。

 修也はふーんと空返事をしながら階段を下りていく。


「にしても、君は戦わなくていいの?」


「はい、魔法使いと言えど私は見習いの中でも弱いので。先輩の戦い方をじっくり見て学べと騎士団長様から言われました」


 彼女は修也よりも頭二つ分くらい小さい、小柄な体格。そんな体格から推測するに、年齢は十三から十六歳。確かに、熟練の魔法使いになるには年齢も経験も足りないだろうと修也は思った。


「それに、あれでは私たちの出る幕はないでしょう」


「まぁ、確かに」


 修也は前方の勇者を見やる。

 そこでは、一方的な蹂躙が行われていた。

 襲いかかる魔物を次々と倒していく五人組。そのなかでも一華、英次、隆三の三人は凄まじい。

 他二人も遅れをとっているとはいえ、成果を上げていた。


「それに、王都から支給された回復薬もありますしね。やられる要素を探す方が難しいです」


 澄んだピンク色の液体が入った透明の瓶を振りながら言うレン。確かに、このままいけばこの迷宮の攻略は簡単に終わるだろ。


「……そうだね。まぁ、僕としてはこの回復薬は使いたくないかなー」


「? なんでですか?」


「だって、どんな傷でも一瞬で治しちゃう薬だぜ? 副作用が酷そうじゃないか。他の勇者ならともかく、僕が使ったら自然治癒力とかがなくなりそうで怖いよ」


 どんな傷でも一瞬で治せると言うことは、自然治癒力が要らないということになる。つまり、自然治癒力鈍り、小さな切り傷でさえも治らなくなることだってあり得るのだ。

 他の人間なら杞憂だろうが、修也はほとんど全てにおいてこの世界の平均をかなり下回っている。免疫だって例外ではない。些細なことにも気を使わなければならないのだ。


「それ聞いたら私も使うのが怖くなるからやめてくださいよ……、そんなことより、戦いを見ましょう。参考になることもあるかもしれませんし」


 修也は、小走りで走って行ったレンの後を早歩きでついていく。

 そこではやはり、魔獣相手に自分以外の勇者たちが無双していた。


(……俺、いる意味あるのかなぁ)


 この辺の魔物は今にも殲滅されそうであるというのに、非力な自分は後ろで眺めているだけ。

 現実は非情であった。


(ま、俺が勇者なんて名乗るのはおこがましい話か)


 隣を見れば、彼ら彼女らの戦闘から、必死に何かを読み取ろうとしている少女が一人。

 今はそんなことを考えてる場合じゃないなと、すぐにネガティヴになる思考を振り払う。

 彼らから学べることだってきっとあるはずだ。修也は自分を戒める。


「……お互い、あれくらい強くなれるといいですね」


「『……そうだな』」


 呟いた言葉は、戦闘によって鳴り響く騒音で掻き消され、レンに届くことはなかった。

 しかし、呟いた修也はいつにも増して真剣な表情で、勇者たちが戦っている方向を見つめている。


「『…………』ま、僕には無理だろうけどさ」


 おどけるように、諦めの声を上げる修也。

 それと同時に戦闘による騒音は止み、互いを労わる声が響き渡る。


 その輪の中に、最弱勇者と一人の魔法使いは入っていなかった。

 弱いものが腫れ物のような扱いを受けるのは、どこでも同じ……。つまり、逆説的に誰にも扱われない俺って強かったのか(錯乱)

 ということでメインかサブかは決まってませんがヒロイン登場です!やったね!

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