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意外にも、最弱な彼の初陣は好調であった。

 召喚勇者こと、修也たちは演習場にいた。そして、大勢の兵士が取り囲む中、修也と岸島が向かい合う。

 無論、昨日より伝えられていた模擬戦たるもののためだ。

 かなり弱いスキルを持っている修也だが、幸いなことに武器を借りることに成功していた。


 戦闘スキル持ちの勇者の中でも弱い部類に入るものは、武器を渡されたのだ。

 修也は、兵士に渡された武器を見つめる。何の変哲も無いただの木刀。ずっしりとした質感が、手に伝わる。

 はっきり言って、スキル持ちである勇者にただの木刀が効くかはわからないが、何も無いよりはマシだろう。


(……『場を台無しにする』とは言ったものの、何も考えてねえぞ俺。と言うかあんなのにどうやって勝つんだよ)


 朝食の時に豪語した修也だったが、いまでは完全に冷め切ってしまっている。まあ、それも仕方ないだろう。一戦目で、勇者と自分の格差を見せつけられたのだから。


 一戦目は城ヶ崎英次と下条一華の模擬戦だった。両方高位なスキル持ちだったみたいで木刀は持っていなかった。

 一体どれくらいの実力なのか、と思いながら見ていた修也だったが、すぐに顔を歪めることになる。

 ───何が起こったのか分からなかった。

 審判らしき兵士が「始めッ!」と言った時には、すでに決着がついていた。英次が倒れていたのである。

 見たところ、英次には外傷はなかった。それが、さらに周りを困惑させる。

 ただ一つ、分かったことは、一華のスキルがとんでもない代物だということである。


(あーあ、戦いたくないなー。早く帰りたいなー)


 心の中で悪態をつきながら、獲物を構えた。構えたとは言っても、木刀を両手で持ち、正面に構えただけなのだが。


「なあ、下条。始める前にちょっといいか?」


「……なにかな、岸島くん。僕としては面倒だから早く始めたいんだけど」


 不意に、隆三が口を開いた。彼はまだ試合前とはいえ、ろくに構えを取ってない。不意打ち目的などではなく、本当に話をしたいみたいだ。


「その……なんだ。すまなかった」


「『───ッ!?』」


 あまりにも隆三らしくない言葉に、修也は驚愕する。彼が謝ったところなど見たことなどなかったのだ。

 それに、今までさんざん自分を見下してきた隆三が謝るなど、予想できるだろうか。


「城ヶ崎とつるんでたら……なんか俺のやってることが馬鹿馬鹿しいことだって気づいてよ。謝って許されることじゃないのは分かっている。だけどその、すまんかった」


「『…………』」


 隆三は修也に頭を下げる。彼のそんな姿を見て、修也は言葉を詰まらせた。

 プライドの高い彼ならば、普段こんな事は絶対にしないはずだ。

 それならば、彼の気持ちは本物なのだろう、と修也は思う。


「……ふーん。最低な僕が言うのもなんだけど、『ワガママがすぎるぜ』」


 そう分かっていながらも、修也は隆三を絶対に許さない。

 確かに、隆三の気持ちは本物だったのかもしれない。

 しかし、だからと言って修也が岸島を許すのかと言うと、答えは否だ。許す理由など露ほどにもない。


「ま、僕にしてきた非道をみーんな忘れて改心出来たみたいでよかったよ」


 修也のそんな言葉が、隆三の心に突き刺さる。


「ああ、それと」


 そんな隆三の様子を気にもせず、修也は薄っぺらい笑顔を貼り付けながら、言葉を続けた。


「どうしようもなく弱い僕だけど、怨をあだで返す(本気を出す)ときの僕はちょっとだけ厄介だから、気をつけてね」


 満面の笑みで言い放つ修也を周囲の者は皆、大小の違いはあれど、気味悪く思った。

 気づいていないのか、無視しているのか。修也はそんな様子に目もくれず、再度木刀を構える。まるで、「もうお前に話す事はない」と言っているかのようだ。


「……俺は、お前に酷いことをした。謝っても許されることじゃない。だけど、勝ちは譲らないからな!」


 そう言いながら、隆三は構えを取る。

 それを見越した審判らしき兵が前に出た。


「それでは、シュウヤ対リュウゾーの模擬戦を始める。───始め!」


 先手を取ったのは、隆三だった。常軌を逸するスピードで、修也に向かって駆け出していく。


(でも、見えない速さじゃない!)


 そう結論づけた修也は───動かなかった。

 動けなかったわけではない。平凡な日本人と変わらぬ身体能力である今、動けば必ず好きが出ると判断したのだ。


「はぁ!!」


 それを好機とみた隆三は拳を振るう。

 その拳を、修也は木刀でどうにか防いだ。


(重……っ)


 あまりに強さに拳を逸らすのがやっとだった。手がジンジンと痺れる。

 一発防いだ程度で……と顔をしかめる。だが、今のたった一度に打ち合いにでも収穫はあった。


(スキルは、ちゃんと働いてくれているな)


 平凡な日本人である修也が、剣術どころか剣道すらしてこなかった修也が武器を扱えるかと言われれば、答えは否である。つまりそれは、修也がこの打ち合いでもスキルを扱っていることを指す。


「うらァ!」


「ぐっ……」


 そう考えている間にも、追撃の拳が来る。今度もなんとか防いだが、このままではジリ貧で負ける。

 そう思った修也は、反撃に出た。


「そこぉ!」


 拳を放つ寸前───つまり、一度拳を引くところを狙って木刀を横に払う。大振りで隙のおおいその攻撃は簡単に避けられてしまう。しかし、距離をとることはできた。


「うおおおおおお! 『血濡れの剣舞(ブラッディスラッシュ)』───」


 追撃と言わんばかりに隆三へと駆ける修也。すぐさま、隆三は手を顔の前に交差し防御の体制をとった。

 修也は木刀を肩の上に構えて、横に振るう───、


「キーック!」


 とみせかけて、隆三の鳩尾を蹴り上げた。まさに、外道のする所業である。

 しかし、蹴り飛ばされた隆三は、あまり効いていないのか、けろっとした顔で立ち上がった。


「……今のはちょっと効いたぜ、やるな」


「うわぁ、あまりしつこいと嫌われるよ? ま、小手調べみたいなものだよ。僕の……えっと、そう。愛とか勇気とかが詰まった超必殺技なら君なんかイチコロなんだからね!」


 相も変わらず二ヘラと笑いながらさらっとハッタリをかます。

 この場にいる全員が嘘だろ、とツッコミをいれる。


「……へえ」


 しかし、隆三は違った。心の底から面白そうに口を歪めている。

 それは、新たなおもちゃを買ってもらった子供のように、純粋に喜びを表しているような顔だった。


「じゃあ、撃ってみろよ。その超必殺技ってやつをよ」


「『……え?』」


 隆三の言葉に思わず修也は素に戻った。今この男はなんと言ったのだろうか。


(え、マジで? 打っちゃっていいの?)


 鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしている修也をよそに、隆三は構えを解く。


「おい、どうした。撃ってみろよ」


(ノーガード……。撃ってこいってか)


 隆三の様子から、彼が本気だと言うことを察知する。修也は、もちろん警戒しながら隆三から離れる。


「そんなにサービスされたら、僕も自分のスキルを教えるくらいしないといけないね」


 話しながら、修也は向きなおる。修也のスキルについては、隆三も興味があるみたいで真剣な顔で耳を傾けている。


「僕のスキルはあらゆる武器を使いこなすこと。武器を創りだし、使いこなす城ヶ崎くんのスキルの劣化版のようなものだよ」


(ま、嘘なんだけど)


 やはりこの男、外道である。

 しかし、隆三はそれを本気で信じているみたいで、なるほどと呟いていた。


「詠唱が長いから使わなかったけど、僕ほど使いこなせば伝説の再現だって可能。……それでもやるかい?」


 修也の問いに、隆三は二つ返事で肯定する。

 返事を聞いた修也は、木刀を天高く突き上げ、詠唱を始めた。


「求めるは聖なるつるぎ。魔を断ち、邪を切り裂く聖の象徴。対価に邪を切り捨てるとここに誓わん。故に力を与えよ───」


(こんな詠唱であってたかな)


 記憶の片隅でうっすらと残っている詠唱をたんたんと詠む修也。その不安そうな目には光り輝く木刀が写っていた。心の中で、そっと安堵の息を吐く。


「喰らえ───」


 修也は木刀を肩に寝かせる。


「エクスカリバー!」


 そして、大きく横に振りかぶった。

 刹那───隆三を中心に爆発が起きる。聖剣を模したにも関わらず小規模な爆発だが、それでも直撃すればひとたまりもないだろう。

 砂埃が宙に舞う。中の様子を伺うことはできなかった。


「……えーと、そこの兵士くん。これは僕の勝ちで───」


負し憑ける(おしつける)……」


 砂埃の中から、かすかに声がした。よく聞き取れなかったが、修也は気にしないことにする。

 そして、外野の元へ戻ろうとすると───身体中に激痛が走った。


「『あ、ぐぁ……』」


「油断したな下条。俺が何の対策もなしに必殺技なんて使わせると思ったか?」


 そう言いながら砂埃の中から姿を現したのは───無傷の隆三だった。


「『な、なんで……』」


「自分の体を見てみろよ」


 隆三の言葉に従い自分の体を確認する。見れば自分の体には所々に火傷があった。あまりに不可解で、疑問の声を漏らす。


負し憑けた(おしつけた)んだよ、文字通りな。俺のスキルは『罪重ね(スケープコート)』。自分を傷つけた相手に傷を負し憑けるチカラだ。奥の手は最後まで取っておくべきだったな」


 なんだそれは、と修也は思う。そんなスキルがあれば、絶対に傷つけることはできないのだから。


「……ま、慢心で負けるなんて、僕らしいなぁ。かはッ。あは、は。やっぱり、勝てなかったや」


 自嘲気味に笑う。そんな修也に隆三は手を差し伸べた。


「あまり喋るな、もうキツイだろ。ほら、運んでやるから」


「うん、そうだね。ごふ、甘えさせて貰うよ」


 修也は、震える手で隆三の手を取る。しっかりと手を握りしめ、隆三に手伝ってもらいながらも何とか立ち上がった。


「あ、そう、だ。岸島、くん」


「なんだ?」


 修也は今思い出したかのように、唐突に話しかける。


「さっきの言葉、そっくりそのまま返してやるぜ」


「は? ───ごふッ!?」


 いつのまにか、隆三の体は傷だらけになっていた。隆三の顔は驚愕の色に染まる。


「『痛み分け(バッドシェアー)』───。僕の痛みを分けてあげたよ」


「どういう、ことだ……」


 意味がわからないといった顔をしながら、隆三は倒れた。

 ───『痛み分け(バッドシェアー)』。自身のの傷を自分の肌に触れている対象者と共有するスキル。あくまで共有であるため、隆三のスキルで押し付けることはできない。


 しかし、押し付ける隆三とは違い、自分の傷は無くならない。いわば『罪重ね(スケープコート)』の劣化品。

 修也もまた、かなりのダメージを負っていた。


「『はは、やっと勝てたん……だ……』」


 限界がきたのか、糸の切れた人形のように力が抜け、地面に倒れる。そのまま、意識は底なし沼のように沈んでいき、とうとう修也は気を失ってしまった。


「この勝負───引き分け」


 静寂が空間を包む中、一人の兵士の声が演習場に響いた。

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