犬でも歩けば棒に当たるというのなら、人は生きてるだけでどれだけの困難に会うのだろうか。
初めましての方は初めまして。前作ぶりの方はおはこんにちばんは。どうも瀬戸さんです。
今回は主人公最弱系を書こうと思いまして。結構前から考えていたネタを出して見ました。
下城修也はいつものように教室で惰眠を取っていた。これが授業中ならば注意してくる教師がいるだろうが、今は休み時間。
それに注意してくれる友達がいないのも相まって、現在ものすごく暇なのである。
そろそろ遊びに誘ってくれるトモダチが来るだろうが、それまでが暇なのだが、暇つぶしになるものは何一つ持っていないので現在に至るというわけだ。
「おい」
絶賛狸寝入り中に声をかけられる。
聞き覚えがありすぎるくらいに知っている声に顔を上げる。そこには一人の見知った顔。あと二人は知らない顔だった。
一人は、目つきの悪いイケメン。制服が乱れているだけで特に変わったところはない。
そして後ろの二人は、制服の襟を開き、髪を染め上げた頭と、耳や腕、首にギラギラと光るアクセサリ。その様は誰がどうみてもDQNだろう。修也がそのDQNと関わりを持っている理由は……
「今日も一緒に遊ぼうぜ」
「俺たち友達っしょ?」
「そうっスよね!」
そう、彼こそが遊びに誘ってくれる友達なのである。後ろの二人は顔や名前は知らないが、どこか馴れ馴れしい。彼らも友達になってくれるのだろうか。
そう思いながら修也は、ニヤニヤと自分を取り囲む彼らに、ニッコリと笑いながら首を縦に降る。
「やあ岸島くん、今日もかい? 後ろのは?」
「今日からお前の新しい遊び相手になりまーす! よろしく!」
「ということだ。もちろん断らないよな?」
ニヤリと獰猛に笑う岸島隆三。もちろん断る理由などほとんどないので首を縦に振る。
「もちろんだよ。こんな僕と遊んでくれるなんて、岸島くんたちは優しいなぁ」
「……そうだろ? ……時間も惜しいしそろそろ行くぞ」
一瞬怪訝な顔を見せる隆三だったが、すぐに表情を戻す。
教室から出て行く隆三たち。修也はその後ろをついて行く。
痛いのは好きではないが、彼らは友達のいない自分と遊んでくれているのだ。彼らには感謝しても仕切れない。
それに、隆三と友達になってから三ヶ月も経つ。そろそろお礼をしないといけないかもしれない。だが、友達に渡すお礼がどんなものがいいか大室には分からなかった。お友達代とかが良いのだろうか。
「……うーん」
「おい、何ボサッとしてんだよ」
気がつけばいつもの遊び場にいた。
人気がなく、陽の光もあまり当たらない体育館裏。
そこまで連れられた修也は、三人に囲まれる。
「僕と岸島くんが友達になってから三ヶ月だから、そろそろお礼でもしようかなーって思ってたんだ」
「はは、ンなもんいらねえよ。ただ、俺と遊んでくれたら、なァ!!」
腹部に拳が突き刺さる。細い体格の修也は抵抗することもできず吹っ飛ばされた。
地面に背中を打ち付け、鈍痛が身体中に響くとともに、肺の中の空気が全て口から出ていき苦しくなる。
「ゴホッゴホッ。い、いきなり強くしすぎだよ岸島くん」
視界がぼやけ、フラつきながらも修也はなんとか立ち上がる。隆三はそれを当然かのように見ていたが、後ろの二人は目を丸くしていた。
「ホントに岸島先輩の本気に耐えられるサンドバックがいたんスね!」
「ははっ、お前らも満足するまで殴っていいぞ」
「はいっス!」
隆三は修也を試していたと主張する。それを疑いもなしに信じた修也は期待に応えられて光栄だと思った。本人にとっていたいのはあまりいい思いのするものではないが……。
そう思いながら襲いかかる痛みに耐え続ける。
「なにしてるんだ!」
五分くらい経ったところで後ろから誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。
教室で聞き覚えのある声。後ろを振り返れば誰なのかすぐに分かった。
「城ヶ崎……!」
岸島が呟くのが聞こえた。
城ヶ崎英次。そこそこイケメンであり、困った人は見捨てられないという性格から、人気度はクラスの枠にはまらず、男女問わず学校一の人気者。
「やあ、城ヶ崎くん。なんでこんなところに?」
城ヶ崎のような強者が一体自分に何の用だろうか。修也は心当たりがないか自分に問いてみたが、思い当たる節はなかった。
「下条が岸島に連れてかれて行くところを見て後を追っていたんだ」
「へぇ。で、城ヶ崎。なんか用か?」
隆三が英次に質問する。後ろの二人は、隆三の後ろでニヤニヤとしている。なんか三下っぽいなと思う修也だが、もちろん口には出さない。
「もちろん下条に対するイジメを止めに来た!」
その言葉に修也は少し驚いた顔をしたが、すぐにやれやれと呆れたような仕草に変わる。
「……城ヶ崎くん。僕はイジメを受けているわけじゃないんだ」
「そーそー、俺たちは遊んでいるだけっしょ」
「そうっスよ城ヶ崎先輩〜。俺たちの言葉も信用できないんスか〜?」
後ろにいた二人が英次の言い分を否定する。
隆三は不敵な笑みを浮かべて黙ったままだ。
「そこのモブくんの言う通りだよ。勝手に決めつけてクラスメイトを疑うなんて酷いねー。それでも人気者かよ」
ピキッと隆三の後ろから音がしたような気がした。隆三の後ろにいた二人の額には青筋が浮かんでいる。隆三と英次も何を言っているのかわからないといった様子だ。
「そもそもさ、イジメなんてものは強者がするものだよ? 僕みたいな虚弱で微弱で貧弱で軟弱で脆弱な最底辺の弱者をいたぶって満足してるような凶悪で醜悪で悪者で卑怯で卑屈で弱小で弱者で敗者な岸島くんたちが、イジメなんてものをするわけがない!」
空気が凍ったような感覚。
隆三も英次も修也の言葉に固まっている。そんなに感動してくれたのかと、大室は少し嬉しくなった。
だが、英次が岸島を悪く言ったのも事実。
「はっ!? もしかして僕と岸島くんたちの最低で最悪で生温い友情を壊すつもりじゃないだろうな! そんなことはさせない! 岸島くんたちは僕が必ず守る!」
「「「……は?」」」
「あ、いや……そんなつもりじゃ……」
パッと両手を広げ、城ヶ崎に対して隆三をかばうような姿勢をとる。わざとらしい態度に全員が言葉に詰まった。
そして修也は、そんなことを気に留めず、隆三の方へと向き直る。
「岸島くん。こんな奴ほっといて続きをしよう。あ、そうだ。お礼の話、まだ終わってなかったよね。岸島くんはいらないって言ってたけど、それじゃあ僕の気が済まないんだ。だから、岸島くんが受け取らないのなら、岸島くんの大切な人にお礼をすることにするよ」
隆三も混乱していただからだろうか。かなり痛めつけたはずなのにケロっとした様子で「同じことをすればおあいこだよね」という修也に対して少しだけ恐怖心を抱いた。普段は自分より劣った存在だと見下していたはずなのに、どうしようもなく気味が悪かった。
「確か、大塚ちゃんだったかな?」
───否。恐怖心が膨れ上がった。
大塚とは、隆三が最近付き合い始めた彼女のことである。彼女は他校の生徒で岸島の悪行をまだ知らない。隆三が彼女に隠しているのだから。
かなりの悪行を積み重ねて来た隆三だったが、彼女のことは本気で好きだった。
「やめろ!」
「ん? どうしたの岸島くん。そんなに怒っちゃってさ。それじゃ僕が悪いことしてるみたいじゃないか。これもぜーんぶ君がやったことだよ? もしかして悪いことしてたとか思ってる? 僕のこと騙してたの? 酷いなぁ、岸島くん。僕、信じてたのに! もう怒った! 岸島くんには勝てないから、岸島くんの大切な人に死返しする!」
修也はニコニコと笑顔を絶やさない。その様からは狂気さえ感じられた。
「大塚は関係ないだろ!」
「関係ないだなんて言うなよ。君の彼女なんだろう」
わざとらしい態度を取り続ける大室。この場にいる全員が修也を不快に感じる。人当たりの良い城ヶ崎でさえ、顔を歪めていた。
「なーんて、嘘嘘。大切な汚友達にそんなことするわけないじゃないか。じゃ、そろそろ授業だし、僕は先に帰らせてもらうぜ」
そう言って、校舎へと戻っていく大室。残されたものは彼の後ろ姿を呆然と見ながら、それぞれ別のことを思う。
モブと言われた二人は、大室に近づいたことを後悔し戒める。
城ヶ崎英次は大室を不気味に思い、できれば近づきたくないと目をそらす。
そして岸島隆三は、弱者に振り回された自分に怒りを感じ、歯ぎしりする。
だが、全員が違うことを考えているが、この場に大室がいなくなって安心したということは、全員が同じだった。
そして各自、授業を受けるために校舎へと足を運ぶ。
足元にゆっくりと広がっている円形の模様にも気づかずに……。
***
修也は勝ち誇ったような笑みを浮かべた顔で校舎へと歩いていた。
「『まさか、あんな演技であいつから一本取れるなんてな。ホント妹様様だ』」
今の修也からは先ほどまでの気味の悪いヘラヘラした表情は見受けられず、いたって普通でパッとしない平凡な顔。
「『俺みたいな三流役者でも騙せるなんて、あいつら頭悪すぎるだろ』」
先ほどまでの気味の悪い態度は演技であって、実際は普通の少年なのである。
修也は演劇部に所属していた。妹が好んで読んでいる漫画に影響を受け、演技の猛特訓をしていた時期があったのだ。
その努力も実を結び、演技に関して彼はトップクラスと言えるだろう。
(流れ星と木しかやったことない俺でも騙せるなんてな……。あいつら絶対に将来騙されるぞ。イジメられっ子なのにイジメっ子が可哀想になってきた……)
だが、クラスの中でも部活の中でも身分の低い修也は、一度も表舞台に出してもらうことができなかった。
そのことを修也は歪曲して捉えた結果、『自分の演技の出来が悪い』と捉えて演劇部を二年生で幽霊部員と化してしまっていた。
「『にしても、【敗北勇者は今日も嗤う】は面白かったな。マジンガの最新号が出たらまた妹に見せてもらおう』」
実は、先ほどの演技は週間少年マジンガの連載漫画。【敗北勇者は今日も嗤う】の主人公の勇者を参考にしていたりする。
イジメについて妹に相談してみたところ、「……にぃは演技だけが取り柄だから。演技が一番いいと思う」と、一緒になって参考になる漫画、ラノベ、アニメ、ゲームを探してくれた。結果、一番過酷なイジメの描写があった敗北勇者を参考にしたわけである。
とはいえ、当の本人たちもここまでうまく行くとは予想していなかったのだが。
「『……ん?』」
ふと、足を止める。
自分の足元で広がっている不可解ものを見つめながら硬直していた。
「『……なんだこれ』」
一分ぐらい経っただろうか。疑問の声がかすかに発せられる。彼が呆然と見つめていた先、足元からは幾何学的な模様が浮かび出ていた。
それは水面の波紋のようにゆっくりと広がっていく。今では大人が四人くらい川の字で寝ても大丈夫なくらいのスペースを埋めていた。
「『こんな円形から抜け出すことすらできないなんて、さすが俺。……動くとかどんな無理ゲーだよ。いやほんと』」
ため息と共に愚痴を吐く。
嫌な予感がして何度も抜け出そうと試みていたが、この円形に広がった文字列は自分の動きに合わせて動くため、どんなに速く走っても、フェイントをかけても抜け出せない。
「『眩しっ!?』」
魔法陣にも見えるそれを屈んで確認しようとしたところで、それが発光しだす。あまりの眩しさで、とっさに腕で目を守った。視界が光で埋め尽くされたことで、周りの状況を確認できなくなる。その間にも、白い光は修也の体を包むように大きくなっていく。
(なんか、これまた不幸の予感が。あの勇者風に言うなら全く、僕は本当に腐幸だよってか? 違うか。……やっぱ違うね)
修也は、目の前に起こっている現象に特に驚くこともなく。……否。考えることをやめていた。
現実逃避をする修也。それでも嫌な予感だけは感じていた。
光が一際大きくなり、反射的に目を瞑る。
そして、謎の光が感じられなくなって目を開けると───
「『…………なにこの状況』」
嫌な予感は的中し、どこかで見覚えのある六人の男女とともに見知らぬ部屋で棒立ちしていた。
ご閲覧ありがとうございます。
次回も読んでくださると嬉しいです!