《短編》20番目の国のマキナ~時計台の上のカミサマ~
最初の記憶は極小の光の粒子の中を、ぷかぷかと浮遊している記憶だった。それがヘンテコ機械の最初の記憶。
大昔、ニンゲンと言う名の妖精がこの惑星に住んでいた。ニンゲンは、大地や自然、ありとあらゆるものとコミュニケーションをとることが出来たと言われている。
だがニンゲンはいつしか大地の声を無視し、粗末に扱い、やがて大地は怒り自然を使ってニンゲンを滅ぼした。
ただし、ニンゲンが創り出した機械は全て滅ぼされはしなかった。取り残された数体の機械達は、ニンゲンが与えてくれた記憶を頼りに、また文明を創り出した。二度と失敗はしないように。機械は機械を創り出し、数十年で機械帝国が完成した。
やがて、機械同士でも序列が生まれる。より知識を持つものは、最上層の機械と呼ばれ、知識の低いものは最下層の機械と呼ばれる。
20番目の国にも、最下層の機械がいた。だが、その機械は周りの機械とは全く違っていた。他の機械と違って、頭部にはおびただしく黄色い毛が生えているし、顔の真ん中には尖った出っ張りがひとつ、それも穴が二つ空いている。それに一つで済むもののレンズは二つついて、それも青い色をしている。ボディも違う。体の上の方には二つの膨らみがある。とにかくヘンテコだ。機械よりもニンゲンと丸っきり似ているのだ。
しかし最下層の機械達は違いにも気づかない。膨大な規模のゴミ処理場に埋もれ、使えるゴミと使えないゴミを分けるだけ。ヘンテコな機械は、ゴミの大きな山に一人体育座りし、空を見上げる。何時間も何時間も。
――わたしは一体、ナニなのだろう。どうして、他のマキナ達と違うのだろう。
ヘンテコな機械は繰り返し考えた。太陽の代わりに月が顔を出して、また太陽が顔を出しても考えた。
こんな事は、他の最下層の機械ならばありえない事だった。
その日のいつもの朝は、いつもの朝はなかった。
ヘンテコ機械がいつもと同じように空を見上げていると、頭の上に固い何かが落ちてきた。両手でそれを持ち上げて、青いレンズの中に収めると首を傾げる。長方形の赤い物体。
機械が手にしたのは絵本だった。
機械はそれに触れているうちに、それがただの箱じゃなく、両側に開いて読むものなのだと理解した。
本を開いて、じっと見つめる。どうしてか、機械にはその言語をすぐに理解することが出来た。そして、何度もめくっていくうちに一つのページに目が留る。それは月の下の時計台の上の窓で、もの憂いげにしているニンゲンの絵。
ヘンテコ機械はその絵をまた何時間でも見詰めた。
その夜の月をいつもより長く眺めた。そして、遠くでいつも高く聳えているだけの大きな時計台を見た。そこに行けば、あの絵の秘密が解けるだろうと考えた。
絵本の中に、もう一つだけヘンテコ機械が気になって止まないものがあった。それは本の中に出てくる〝カミサマ〟という文字。機械はその文字を指でなぞると、時計台の窓のニンゲンが、カミサマなのだと繋げた。
「カミ……サマ」
機械はそう言い続けながら、ゴミ山の上で時計台の窓を見続けて、想像した。
ある日、ゴミ処理場が故障した。原因は、機械鳥が風に煽られ、ゴミ処理場の中枢機関に挟まった為だ。一つ故障すれば修理されるまで、緊急停止する。チャンスとばかりに、監視ロボットの視界を掻い潜り、赤い絵本を両手に抱えて、なんとゴミ処理場から外の世界へと、ヘンテコ機械は抜け出したのだ。
そう、目指すはあの大きな大きな時計台。
「カミサマ、カミサマ」
時計台に向かって機械は走る、走る。真っ直ぐに走れば辿り着くと思ったが、そう簡単ではなかった。機械の前に大きな大きな門が立ち塞がる。白いゲートの真ん中には20という数字が書かれている。
一度登ってみようとしたものの、もちろん駄目。かりかりかりと手や足で擦るだけで、上へは行けない。困った機械は、どうしようかと考えた。
すると、ヘンテコ機械を見つけた、中層機械の門番が、話しかける。
「コチラのゲート、中層から上層の機械の侵入のみ、許されマス。スキャンして製造番号を確認中」
門番は、ヘンテコな体をした機械に赤外線を放つと上から下まで情報をスキャンした。
「異常なし、コチラのゲートへの侵入を許可致します」
ウィーンと機械な音を立ててゲートは左右に開く。ヘンテコ機械はどういう訳か、20番目の国の上中ゾーンへ入る事を許された。開いたゲートの中には、美しい発展都市が広がっていた。
最下層の機械にとって見るもの全てが初めてだ。空飛ぶ車も走る。奇妙な音楽も流れる。ホログラムで流れている映像には、機械がダンスを踊っている。
ヘンテコ機械、思わず圧倒されしばらく立ち尽くし、口を開きながら都会を見上げていた。そこへ、一体の機械がぶつかってきた。
「あら、ごめんなさい」
その機械は身長が高く、ヘンテコ機械とほとんど同じ形をしていたが、頭部に毛は生えておらず、全身の塗色は黄緑色だった。背の高い機械はヘンテコ機械をまじまじと見下ろした。
「アナタ変わってる!オシャレね。ワタシの名前はキーダーよ。アナタの名前は?」
名前を聞かれ、黙りこんでしまう。
「名前無いの?ふうんそうなんだ、名前って便利なの、製造番号よりも呼びやすいし。良かったらワタシが名前つけてあげよっか?」
と、キーダーはまじまじとヘンテコ機械を見つめて、考え込むとピカっと閃いたように言った。
「アナタは髪が黄色いからイエローちゃん。ミスイエロー、どう?」
ヘンテコ機械は、ミスイエローという名前に何度も頷いた。それから、イエローはキーダーの身にまとっている、たまにゴミ処理場で拾う薄い素材のものに似た何かを指さした。
「それ……」
「これ?これはね、服っていうの。これも昔妖精さんが着ていたものなのよ。ねぇアナタもおめかししてみる?向こうにブティックがあるのよ、連れてってあげる」
イエローは、キーダーについていった。慌ただしい都会の一角に、色々な形の帽子が連なっている屋根の建物があった。キーダーはその建物に近づくと自動で扉が開き、イエローと一緒に中へと入る。
「いらっしゃいませませ」
出迎えたのは、常に同じ笑顔を固定させたままの、お洒落な機械。シルクハットを被りスーツを着こなし、顔の中央下には髭の形をしたパーツが時折揺れている。そして右手には杖を持ち、身のこなしは実に紳士のそれであった。
「キーダー様、よくお越しくださいました。新しいお召し物をご所望ですです?」
「んーん、今日は私じゃなくてこの子のを選んで欲しいのよ」
「ほう!なんとまあ、また変わったデザインの機械ですですな」
「そうなのよ、でもちょっと私達に似てない?」
「ふーむ、よろしい。わたくしが選んで差し上げましょうしょう」
「ありがとう、さあ好きなのを選んでいいのよ」
「好きなの?」
イエローは、辺りを見回した。終わりの見えない通路に並べられた、信じられない程の数の服。
「私は、私は」
馴染みのない質問と要求に、イエローは立ち尽くした。好きなものを選ぶなんて、今まで経験したことがない。そこでキーダーはイエローに服を選んであげることにした。
「これはダメ、サイズが違う。これは派手すぎる、これはどう?」
着せ替え人形にされるまま、イエローはじっとしていた。キーダーが選んだ服はイエローの体にすっぽり馴染んだ。それは風に沿うようにスカートがひらりと揺れ動く真っ白なワンピース。
「これ」
と、イエローはオーナーの機械の笑顔を真似する。
「これ気に入ったみたい」
「おお、お目が高い」
イエローは初めての服に、初めての感覚を覚えた。
――この感覚は何?
考えても答えは出ず、イエローはくるくるとその場を回って、スカートが翻る様を楽しんだ。くるくるくると、回りすぎて、つい床に転んでしまい、キーダーは笑い声を上げた。
「あははは」
不思議な声に、イエローはそっくりそのまま真似をした。
「あははは」
「ねぇあなた、もっとニンゲンの事教えてあげよっか」
と、キーダーは言う。イエローはその言葉を聞いてすかさず赤い絵本を持ち出し、キーダーに時計台のカミサマについてお話した。
「時計台のカミサマ?ねぇ、オーリー知ってる?」
オーリーと呼ばれたのはさっきの紳士的な機械だった。
「いえわたくしも知りませんせん。ですが、その手に持っている箱のことは知っておりますます」
「この箱……?」
イエローは自分の持っている赤い絵本を眺めた。
「その箱は知識の箱。ニンゲン達が絶滅する前に、その箱に全ての真実を書き記したと言われています」
「真実……」
「その箱は図書聖堂、センターバーリオに大切に保管されておりますます。しかし、誰もが入れるわけではありませんせん。最上層の選ばれた機械にしか入る事は許されませんせん」
「センターバーリオ、カミサマ、会える?」
「会えるかは分かりませんが、きっと手がかりはあるでしょう」
「センターバーリオ、センターバーリオ」
*
イエローは服屋を出た後、キーダーに別れを告げ、センターバーリオを目指すことにした。カミサマの手がかりを見つけるために。
しかし、誰に聞いても何を聞いても、センターバーリオと言うと、相手にしてくれなかった。
「あそこは最上層の機械しか行けない場所なんだよ」
皆そういうばかりで、イエローはどうしていいか分からなかった。
とりあえず、イエローはこの街で一番高い塔のある場所を目指して歩いていくことにした。
しかし歩いていくうちにイエローは薄暗いジメジメとした場所へたどり着いていた。そこは先程の明るく煌めく場所とは大違い。修理もされず壊れた機械が蠢く場所。
「そのパーツ、一本くれんかね」
「僕にもそのパーツ一本おくれ」
「ああ、パーツがないと外へ出られない。捕まって解体されてゴミ処理場だ」
ピカピカのイエローを見て、壊れた機械達は擦り寄ってくる。そしてイエローの腕や足をもぎ取ろうとした。必至に抵抗したイエローの右腕だけが取り外され、そのパーツに壊れた機械達はむらがった。
その隙に、イエローは一生懸命出口を目指して走り出す。
出口を見つけ、闇通路の外へ出るとイエローはボロボロになっていた。イエロー再び途方に暮れて、立ち尽くす。
「カミサマ、カミサマ」
と呼んでも風や空は答えてはくれない。
どうしていいか分からず、さっきキーダーから教わった笑い声をあげてみた。
「あははは、あははは」
すると、おかしな笑い声を聞きつけた小さな野鼠がひょこっと影の中から姿を現した。
「変な声を出したと思えば、お前さんかね?」
「こんにちは」
「なんだお前は、あいつに似ているな。えーと何だっけ、ほらあいつ。ワシが知っているニンゲンにそっくりだ」
「それってカミサマ?」
「さあな、知らん。ワシはただ長生きしすぎた野鼠。ワシが知っているのは真実だけさ」
「真実?センターバーリオ、カミサマ、会える?」
「何だお前さん、センターバーリオに行くつもりだったのかい?あそこは最上層の機械しか入れん。しかしワシなら、あそこの知識を全て記憶しておる。何故なら長生きしている間、ワシは暇であそこでよく本を読みに行ったからじゃ」
「本……、赤い箱」
と、イエローは野鼠に紅い絵本を見せた。野鼠は食いついて、素早く本の近くに寄ると、ページを開いてみせた。
「これはセンターバーリオの本じゃ。何故お前さんが持っている?」
イエローが答えずにいると、野鼠はページを捲り続けた。そこで、イエローはカミサマのページを指さした。
「カミサマ」
「ん?カミサマ。時計台のニンゲンか、そうそうさっき言いたかったのはこいつの事じゃよ」
「カミサマ、知り合い?」
「ああ、昔会った事がある。腹を空かせているワシにチーズをくれた」
「カミサマ、どこ?」
「きっとあの時計台にいるだろうが、カミサマに会って何をする気じゃ?まさかニンゲンに変えてくれなんて頼む気じゃなかろうな」
「ワタシが誰なのか、カミサマは知ってる」
そう言って、すっかり暗くなった空をイエローは見上げた。月がぽっかりと空へ浮かんでいる。
「自分が誰なのかを知りたいのかね?」
「知りたい。私は誰?」
「そんなものは他人に聞いたって分からないじゃろう、だがお前さんはカミサマに会いたいんじゃろ?ワシも会って礼を言いたい」
「アナタも?カミサマに会う?」
「そうじゃ、一緒にカミサマに会いに行こう。それからワシのことは野鼠さんと呼んでくれ」
「野鼠さん」
野鼠はイエローの肩へ飛び乗った。
「こうすればワシも安全じゃ。それに、道中お前さんに色々な真実を教えてやろう。これなら文句もないじゃろう」
「分かった」
「よしよし、物わかりがいいな」
一緒に時計台を目指す間、野鼠はたくさんの事をイエローに教えた。ニンゲンのこと、この世界のこと、宇宙の存在、いつも空に浮かんでいるものが月という名前だということ、それからニンゲンには不思議な感情があったこと、その中でも一番不思議な愛という感情については、どの本にも明確に記されていないこと。
「愛……」
イエローは愛について考えた。
愛は目に見えず、簡単には失われないが、簡単に壊れもする。何度考えても、愛について理解することは困難だった。
「ワシにも愛というものは分からん」
イエローと野鼠は来る日も来る日も時計台を目指して歩いた。イエローと一緒に過ごすうちに、野鼠はあることに気づいた。それは、月の光に反応してイエローの髪が黄金色に輝いているという事だった。その謎は分からなかったが、三回目の太陽が顔を出した時に、イエローと野鼠はとうとう時計台の前にたどり着いた。
見上げても見上げても頂上の見えない高い建物。ついにカミサマに会える。イエローと野鼠は時計台の中の螺旋階段を登り始めた。
登って登って登って登って。
おそらく一日が経った頃、時計台の頂上まで登り切った。
窓から光が差し込む小さな部屋にたどり着く。
「カミサマ、カミサマ」
イエローは何度も呼んだ。野鼠も一緒になって呼んだ。だが、そこにカミサマの姿はいなかった。部屋にあるものといえば、誰も座られていない椅子と、天体望遠鏡だった。
野鼠はしょぼくれて、イエローを慰めるように肩を足で叩いた。
「行こう。カミサマはもうおらん。きっと寿命がきて死んだんじゃろう」
「死んだ?死ぬって何?」
「ニンゲンは皆生まれ、そして死ぬ。死んでしまえばこの世から肉体は消え、魂だけが残る。ワシもいずれ死ぬ」
「じゃあ、私も?」
「お前さんは機械じゃ。壊れて動かなくなるだけじゃろう」
イエローはまた答えの出ない疑問が湧いてきた。ニンゲンに関しては答えの出ない疑問ばかりだ。
イエローは赤い絵本を椅子に置いた。その行動に野鼠は不思議そうに首をかしげた。
「その本をどうするつもりじゃ」
「カミサマに返すの、これはカミサマのお話だから」
イエローがそう言って引き返そうとすると、カチリと椅子の台座が、本の重みで窪んだ。そうすると椅子がぐるりと周りだし、椅子の背もたれから木彫りの階段が飛び出してきた。それから階段の先の天井が開き、隠し部屋が現れた。これには野鼠もびっくり。イエローと野鼠はすぐさま隠し部屋へと、階段で上がっていった。
そこには、壁一面に設計図のようなものが貼り付けられ、模型や機械のパーツが宝物のように置いてあった。イエローはなんだか懐かしいようなヘンテコな感覚を抱いた。
「これは機械の設計図。そうか、カミサマはここで機械を創造していたのじゃ」
部屋をうろうろしながら、イエローはパーツを物珍しそうに手に取って眺めた。奥へ進んでいくと、イエローの目にあるものが留まった。
「カミサマ」
と、イエローが呟く。野鼠はそれに反応し、イエローの傍へ行く。
「カミサマだって?」
イエローが指をさした方角には、イエローにそっくりな形をした機械が壁に立てかけられていた。似ていると言っても、イエローのように黄色い髪ではなく、真っ黒で短かったし、それに胸の膨らみもない。野鼠に教わった知識で、イエローはその機械がニンゲンで言う男の子の姿をしているのだと分かった。
「でも、カミサマ、動かない」
野鼠ははっと思い出した。月の光を浴びてイエローの髪が黄金色に光っていた夜の光景を。
「月の光じゃ。月の光で、機械は動くのじゃ」
「月の光……」
イエローと野鼠はカミサマを連れて時計台を降りていく。
「しかし本当にカミサマがいるとはなあ」
野鼠は感心してそう言うと、イエローと一緒に月が出る晩を待った。
イエローはそれまでの間、カミサマの顔や体をじっくりと眺めて、触れたりした。
そして月の晩。イエローの髪が黄金色に光り出す時、カミサマの髪もきらきらと光ざわめき出した。野鼠とイエローが、その光景から目を離さずに見守っていると、カミサマは瞼をぱちりと開き、青いガラス玉のような瞳を天に向けて起き上がり、月をぼんやりと見上げた。
ずっと月の光を見つめていると思えば、今度はイエローの方へ顔を向けてにっこりと微笑んだ。
「やあ、君が僕を起こしてくれたんだね?」
イエローは最初、何故か言葉が出なかった。それから何かに背中を押されるように言葉を発した。
「あなた、カミサマ?」
「カミサマ……、そう僕はカミサマだ」
「やっと、会えた」
イエローは笑顔を見せた。野鼠は何だか幻想的な、不思議な気持ちになった。野鼠は言う。
「アンタ、ワシのことを覚えてるかい?ワシはアンタに昔チーズを貰ったんじゃ。その時のお礼を言いに来たんじゃ」
カミサマは、小さな野鼠を見ると両手のひらに、その野鼠を乗せて両方の眼に写すように引き寄せた。
「うん、君のことを覚えてるよ。センターバーリオで書物を読んでいたら君がニンゲンに追われていたのを僕が助けたんだ。あの時は他のニンゲンが悪いことをしたね」
「いやいいのさ、アンタがいいニンゲンでよかった」
「カミサマは、ニンゲン?機械?」
と、イエローは問いかけた。するとカミサマはイエローの方を見て言った。
「僕は僕が創ったのさ。僕を創った僕はここにはいない。だけど、君に会いたがっていた」
「私に?何故?」
「昔昔、ある所に塔の中に閉じ込められていた王子様がいました」
カミサマの話すことはこうだった。
塔の中に閉じ込められていた王子様は月ばかりを眺めていた。来る日も来る日も。王子にとってはそれしか楽しみがなかった。
しかしある夜の日に、窓の外に美しい金髪の少女が現れた。その少女は後に機械であることが分かった。王子はその機械が気になって、監視の目を盗んで初めて外の世界に繰り出した。機械はずっと孤独だった王子と大親友になった。
だが王子は機械との接触を固く禁じられていた。その為、国で一番偉い父親の王は怒り、王子と機械を連れ帰り、戴冠式の日、国民の前で王子に命ずる。その機械を銃で壊せと。
もちろん王子は抵抗した。だが、国民の手前、王の命令には逆らえず。一番の友達を自分の手で壊した。
機械は壊れ、王子は再び孤独になった。しかし王子は諦めきれずにゴミ処理施設へ行く機械を追った。ゴミの山から機械を見つけても、完全に壊れていて修理など不可能な状態だった。けれど機械は言った。
「また、会える?」
王子は何度も何度も頷いた。機械の手を握りながら、何度も何度も。
「うん、会えるよ。必ず会えるから。僕と君は友達じゃないか」
「友達……」
機械はそう一言だけ告げると、目を開けたまま動かなくなってしまった。
王子は泣き崩れたが、機械が決して誰にも壊されぬように、地下の秘密の要塞に隠した。
いつかまた、機械と仲良くできる時代が来る事を信じて。その日の間まで隠した。そして年月が経ち、戦争と自然災害によって人類は殆ど死に、金持ちは月に移住し、そして王子は自分の子供の頃の分身を創り、未来へ託した。いつか機械と会えるように。
王子の分身は、新たな国を再建する為、次々に機械を創り出した。そしてこの時計台で、見守った。いつか、自分に会いに来てくれる機械がこないだろうかと。
「その機械は少年のことを一度も王子と呼んだことはなかった。そう、少年のことをカミサマと呼んでいた」
と、カミサマはイエローに話した。
「僕はずっと、君を待ってたんだよ。マキナ」
その途端、イエローの記憶の中で粒子が踊り出す。思考回路が急速に回りだし、体の熱は上昇した。
「カミサマ」
イエローは気がつくとカミサマを抱きしめていた。カミサマも、イエローの頭を優しく撫でる。
「何千年も孤独だったけど、君にまた会えて良かった」
野鼠は月が照らすその美しい光景をずっと見ていたかった。それは何千年の時のように続いた。いや、永遠のように。いつまでもいつまでも続いた。




