表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

絶対死なせない♡

      挿絵(By みてみん)




「千勢さん♡」


 バラバラに引き裂かれたドラゴン。それは燃えるような光に包まれ、蒸発しながら落ちていった。間一髪千勢に助けられた僕。レインボー・ブリッジ手前の東京湾上空で彼女と合流する。


―― !! ――


 が、イキナリ彼女の平手打ちが僕を迎える。


――えっ!?――


「バカ! 絶対に無理はしないでって言ったのに!!」


 彼女は泣きそうな顔をしていた。


「ご、ごめん……。なんとかしなきゃって、無我夢中で……」

「もし、あなたに何かあったら……」


――えっ♡――


「……」


 躊躇いに瞳を伏せる千勢。暫しの沈黙の後、彼女は俯いたまま話を始めた。


「あのね……。わたし、ハルから、この世界の千勢ハルから預かった伝言があるの」

「伝言?」

「そう、あなたに……」

「俺に!?」

「あなた、千勢ハルの事が好きだったんでしょ?」


――あれ? 何でそれを――


「アキラから聞いているわ」


――あいつ――


そこで彼女は、ようやく僕と目を合わせた。


「ハルも……、彼女も貴方の事が好きだった……」


――ん……? えええっ!!―― 驚くしかない。


「でも、親友のアキラに遠慮して、最後まで言えなかったって……」

「アキラに?」

「気付いてるでしょ? アキラも、あなたのことを……」


 なんと反応して良いのやら。僕の部屋での出来事が頭の中を過っていた。


「……」


 黙っていると、やや冷たい目で千勢が僕を見ているのに気付いた。


「い、いやぁ、な、なんとなく、そうじゃないかと……」

「これはアキラも知らない話。ごめんね、こんな時に。でも、こんな時だから言うの。私の大切な仲間だったハルとの、最後の約束だから」


――最後の――


「そして、この先に起こる事から、あなたを守って欲しいって、私はハルに頼まれた」

「俺を守る?」

「そう。あなたを仲間に引き込んだのも、一緒に居れば守ってあげられると思ったから。たぶん、アキラも同じことを思ってる」

「……」

「だから、あんまり無茶はしないで……」

「そんなことが……」

「ごめん、たたいたりして。でも、もしあなたに何か――」


 そこから彼女の話が耳に入って来なかった。


――僕は、調子に乗っていたのかもしれない――


 てっきり、頼られているとばっかり思っていただけに多少ショックだった。僕は千勢の話を遮った。


「でも千勢さん。だからって君が、俺の犠牲になるようなマネだけはしないでくれ。正直、まだ実感が沸かないんだ。こんな時だから俺も言うけど、君は俺の知ってる千勢じゃないのかもしれない。でも俺は、ずっと千勢を見て来た。少なくとも、この数ヶ月は君の事を」

「ショウ君!」


 今度は彼女が僕の言葉を遮った。そして、その想いを遠ざけるように視線を逸らした。


「ごめん、私が一方的過ぎたのかもしれない。もっと違う時に、話をするべきだったのかも」

「いや、俺はただ」

「違うの! そうじゃないの。そうじゃなくて、わたし……」


 彼女は悲し気に表情を曇らせた。


「あのね。わたしにも、昔好きな人がいたの。それは……、それは別世界のあなた。わたしの世界の、コトクショウ……」

「別世界の、俺……」

「レジスタンスの彼は、わたしを守って死んだ。そして、ハルも私の身代わりに。そんな二人の命を奪ってしまったのがわたし。だから、だからきっと私は、あなたの千勢ハルの代わりにはなれないし。あなたは、私のショウの代わりになってはいけない……」


――君を守って、死んだ――


 その言葉が重く響いた。17歳の僕には、実感のない言葉だった。果たして僕に、それだけの覚悟があるのか? ここまで、確かにノリと勢いだけで来た所はある。それでも、千勢やアキラの涙に心を突き動かされたのは本当だった。何より、たった今も、こうして戦い続けているのは、紛れもなく目の前に居る千勢を守りたい一心からだった。


――俺は――


「それでも俺は、君に守られるんじゃなくて、君を守りたい。自分でも良く分からないけど、そう、アキラも、エルちゃんも。少なくとも、一緒に戦って君たちを守りたい。それもダメなのか?」

「ショウ君……。だけど、わたしは……」


 僕の問いに、千勢が何かを答えようとしたその時。


――!?――


 三度、ヘッドセット・ゴーグルのディスプレイが、赤く明滅を始めた。







 鳴り響く警報アラートの中、千勢が呟く。


「そんな……」


 奔る緊張。


「千勢さん、話の続きは後回しだな。それより、毎晩こんなにハードなのか?」

「いいえ、こんなの初めてよ……」


 ゴーグルのディスプレイに空間の歪みが増えてゆく。どうやら、僕たちを取り囲むようにドラゴンが出現しているらしい。


「ろ、六体も……」

「俺のバッテリーが40%弱。君も30%ちょっと。で、音速タイプのドラゴンが六体。計算が合わない、だろ?」

「私は、あと一体を撃ち落とすのが限界」


 戦い慣れている筈の千勢が動揺している。


「俺、省エネの拳銃ベレッタにしといて良かったぁ、ハハ……」


 無理に笑ってみた。


 そんな僕に、彼女も冷静さを持ち直そうと表情を変える。


「ショウ君は設定が上手ね。確かに拳銃ベレッタの銃弾速度なら、プラス音速飛行で確実にドラゴンのスピードを捉える。それにしても、さっきの、あの花火みたいなのはナニ?」


 次々とドラゴンが、その頭を現し始める。


「あっ、発煙焼夷弾ナパーム・フレアのこと?」

「飛行アビリティに光学迷彩。攻撃アビリティは一つしか設定出来ない筈でしょ?」

「もちろん一つさ。火器ファイヤーアームズって大まか設定だけど」

「そんなのアリ?」


 一体、また一体とドラゴンが全貌を現す。


「あっ、でも、アビリティ・アクセスする時に、明確な火器のイメージが出来なきゃだけど」

「ショウ君って、ミリオタだったんだ?」

「いや、DVRGの第二世代は、アビリティ・ウィンドウが二つしかなかったからな。色々と試行錯誤して試してたんだ。どれくらいの言語幅を読み取ってくれるか」

「ヘビーユーザーってわけね?」


 間もなく完全体となった奴等に僕らは囲まれた。


「にしても、俺も落とせて二体が限度……」

「ここはなるべくバッテリーを消耗しないように時間稼ぎしないと。アキラとエルが来るまで……」

「ああ。囲まれてるのはマズイ。やっぱり海上に出よう」

「分かった」


 そして、奴らが獲物を狙うように回遊し始める。


「先行する。俺の火器なら小分けで撃てるし。千勢さんのは、いよいよになるまで温存してくれ」

「OK」

思念崩壊火器ファイヤーアームズ!!」


 僕は汗ばむ両手に拳銃《ベレッタM9A5》を握ると、千勢に無言で頷いた。そして、彼女が頷き返したのを合図に、僕らは一斉に飛んだ。


 千勢が続くのを確認し、僕はスピードを上げる。

 あっという間に越えるレインボウ・ブリッジが遠ざかる。

 そして、南東に出現したばかりのドラゴン一体に銃撃を集中した。

 至近距離から放たれる銃弾コラプス・バレットがドラゴンを撃ち抜く。 

 燃え上がる光の炎。

 奴は蒸発に意味消失した。

 囲みを突破した僕は右に急旋回する。


「千勢さん! 君は真っすぐ!」


――えっ!?――


「まだ奥の手があるんだ!」


――奥の手!?――


思念崩壊火器ファイヤーアームズ!!」


 瞬間。新たに更新されて左手に飛び込むサウスポー用の64式改7.62mm小銃。その切っ先には銃剣付きだ。僕は背中の盾を右手に装着した。


 呆れるように驚く千勢の声。


――なにそれっ!?――


「白兵戦用。ガンダムみたいだろ?」


――こんな時に、ばか!――


「褒め言葉、ってことにしとくよ。俺は時計回りに南側のをる。それまで君は北側のを引き付けてくれ!」


――分かった。でも、ムチャはしないでね――


「わかってる♡」


 と答えたものの。ハナから無理は承知の状況だ。

 逃げる僕らに他のドラゴンが気付く。

 その内の一体に僕は突進した。

 抵抗の火球が乱れ飛び僕を襲う。

 僕は盾を正面に据え構わず突っ込んだ。

 アーマーの延長線上である盾が次々と炎を砕く。


「いける!」


 僕はドラゴンに仕掛けた。


「いまだ!」


 接触する直前。

 僕は右のバレル・ロールで軸線をずらす。

 回転から擦れ違いざま。

 ドラゴンの左翼を64式の銃剣で切り裂いた。


「どうだ!?」


 エルの言った通り音速タイプの装甲は脆かった。

 翼半分の浮力を失ったドラゴンが落下してゆく。

 ただ、いずれ再生するのは織り込み済み。

 こうして今は時間を稼ぐしかない。

 僕は立て続けに三体目を狙った。

 走り抜けるように今度は左にバレル・ロール。

 同じく翼を切り裂かれたドラゴンが落ちてゆく。


「他の三体は!?」


 高度を大きく下げターンする千勢。

 左右に旋回を繰り返す彼女が追われている。


「千勢っ!」


 僕は盾を背中に装着し直すと、更に右旋回で急降下した。


「クソッ! もっと、もっと速くだっ!!」


 すると、【DreamLift】のアビリティ・アクセスが反応する。

 僕の全身から光のシャワーが波を打って弾け飛ぶ。

 突然に鳴り響く電子音の非常ベル。

 ゴーグルの表示速度が一気に倍に跳ね上がる。

 瞬く間に僕は千勢を追うドラゴン編隊上へと迫る。


「千勢! 上昇しろっ!!」


 僕の声に急上昇を掛ける千勢。

 僕は64式を振り下ろし、引き金を引く。


「落ちろっ!」


 ショートストロークピストンが7.62mm(コラプス・バレット)を連射する。

 が、銃弾を躱しドラゴンの編隊は消えるように三方に散った。


「ナニっ!? 読まれてる!!」


 次の瞬間。

 入れ替わった背後上空から無数の火球が襲い掛かる。


――け切れない!――


 爆炎衝撃が僕の全身を繰り返し打ち据える。


「ぅあっ!!」


――ショウ!!――


 炎に包まれる僕は、高速のまま落下した。

 そして、真っ逆さまに海面へと激突する。

 破壊的な衝撃に朦朧とする意識。



 口の中に海水が入ってくる。




 体が言うことを効かない。





 暗い水底へと沈みゆく。





 

 光が、消えてゆく。







――ユキセ――











 なんで、こうなった?






 ただ僕は彼女が好きだった。






 セーラー服姿の彼女が。






 バス停の列に並ぶ彼女が。






 校舎の下駄箱で靴を履き替えている彼女が。






 廊下で擦れ違う彼女が。






 教室の窓辺で佇む彼女が。






 夏の陽射しの中、校庭で走る彼女が。






 いつもアキラやエルと一緒に笑う彼女が。







――千勢――


 一瞬、気を失っていたのか? 僕は息苦しさに意識を取り戻した。


――息が――


 カラダは相変わらず自由が利かない。いつのまにか――LiftOff――している。


――このまま溺れ死ぬのか――


 水中の暗闇が絶望の淵を見せる。


――ダメだ、息が切れる――


 僕は最後の一息を吐き出した。


――チクショウ――


 再び口の中に海水が入ってくる。が、その時。同時に僅かだが空気が送り込まれる。それは希望に飢えた僕の肺とカラダ、その奥にまで沁みわたる。息を吹き返すように僕は瞳を開いた。


 するとそこには、千勢がいた。彼女は僕を正面から抱きかかえ、閉じる瞼に口移しで息を吹き込んでくれていた。


――絶対死なせない――


 錯覚だろうか? そんな言葉が聞こえたような気がした。そして、水の中なのに、彼女の瞳から涙が零れて落ちているように見えた。






――千勢……。千勢…。千勢。千勢、千勢、千勢、千勢っ!――


 俺はどうしようもなく、やっぱり千勢が好きだ。


――そんなに呼ばなくても、ちゃんと聞こえてるよ。ショウ――


 彼女は涙顔に笑顔を浮かべた。






 その微笑みが強烈な覚醒を呼び起こす。僕は彼女を強く抱きしめると心の底から叫んだ。


「レッツ! リフトオン!!」


 瞬間、光のシャワーが弾け飛ぶ。

(0.5秒)

 突然に水中を震わせ、鳴り響く電子音の非常ベル。

(1秒)

 突如、頭上に現れる眩い光体。

 それは水の煌めきを引き裂いて姿を現した。

(2秒)

 水中に抜け出し輝くもう一人の僕。まるで亜空間から現れたそれは、僕に輪郭を重ねるよう舞い降りた。

(3秒)

 体中にみなぎる想い。荒ぶる肉体。僕は水面みなもを掴むかに左手を突き伸ばすと、再び呪文の如き言葉を叫んだ。


「召喚! 装甲騎士アーマー・ナイト!!」


 瞬間、僕のカラダに光の螺旋が走る。

(3.5秒)

 突然に風をはらみ、千勢と共に海中を浮上する僕のカラダ。

(4秒)

 そして、螺旋の亀裂に破裂する七色の瞬き。それは僕の身に纏うもの全てを引き裂いて姿を現した。


 僕らの体を中心に層を成して双方向回転するリボンリングの瞬き。そこに描かれる光の球体。まるで立体魔法陣のように瞬くモザイク模様。それはドミノ倒しに色を黒く変えると、最後に一際大きな閃光を放ち光の渦を収束させた。


 この間、全6秒。


 僕は右腕に千勢を抱えたまま中空へと躍り出た。


「千勢!」


 彼女は言葉なく、ずぶ濡れの泣き顔で微笑んだ。が、事態は容易ならないところまできていた。二人ともバッテリー残量が20%も無い。残る音速ドラゴンは再生した二体を含め五体。それは上空で円を描く様に待ち構えている。


「千勢、まだヤレるか?」


 彼女は小さくもしっかりと頷いた。


 その時だった。

 西からレインボウ・ブリッジを越え、爆音を響かせ天に一筋の炎が走る。

 平行してブリッジを潜り、轟音を携えて水面を切り裂き水飛沫が走る。


 そして、二人の声が木霊した。


思念水圧破砕プレッシャー・クラッシュ!!」

思念火炎灰燼フレイム・アッシュ!!」


 海面から撃ち上がる巨大な五本の水柱。

 その水圧砲は上空のドラゴンを撃ち抜き砕く。

 次の瞬間。空を駆ける火炎の渦が全てを跡形もなく焼き払った。


 そこには、火神の如き天女。赤線レッド・ラインで彩られる黒いバトルスーツに身を包んだ伊月アキラ。

 そして、水神の如き天女。青線ブルー・ラインで彩られる黒いバトルスーツに身を包んだ火旗エルの姿があった。


「アキラっ!」「エルっ!」






「「お・ま・た・せ・♡」」






つづく






最終回「必ず君の元に戻ってくる♡」お楽しみに♪(*´艸`*)ムフッ♥

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ