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期待しちゃうぞ♡

      挿絵(By みてみん)




「今夜からいくわよ……」


――マジっすか!?――


 その日の夜。二階にある僕の部屋に入るなり、ベッドを椅子代わりに腰を掛けた伊月アキラ。彼女は足を組むと、普段あまり見た事の無い神妙な面持ちでそう言った。


――うっ、この美脚、目に毒だ♡――


 アキラは隣向かいに住む幼馴染だ。物心ついた時には一緒に遊んでた。高校生になった今でも、僕に宿題を手伝って貰うという名目を立てては、しばしば我が家を訪れた。


 御多分に漏れず、今夜も夕飯を済ませ、風呂上がりの髪も半渇きで来てる。服装もラフでラベンダ色のショートパンツに夢可愛いロング・Tシャツだ。

 が、今回の目的はそれではない。今日の放課後。校舎の屋上で交わした約束を実行する為だ。


「ショウの【Deream Lift】貸して」

「あっ、はい……」


 僕の【Deream Lift】を受け取ると、アキラはベッドに俯せで寝転んだ。


「ええっと、転送設定……、転送設定……。あった……」


 枕を脇に両肘を立て、何やら設定画面をいじっている。


「プライベート・リクエス、トぉ。マイ・フェイヴァリッ、トぉ……」


 すると、今度はベッドの上で女の子座りに座り直す。そして、ポケットから自分の【Deream Lift】を取り出した。彼女は片手で素早く【Deream Lift】画面をスワイプ&設定すると


「よし、てんそ~ぉ♡ はやっ! おお~、できたできた♡」


何やら楽しそうだ……。


「ショウ、ほら、これ見て……」

「えっ、ああ……」


 などと気のない返事をした僕は、ベッドの上にいるアキラの隣に座った。そして、肩と顔を寄せてくるアキラと二人で【Deream Lift】の画面を覗き込んだ。


「これが夢仮想現実世界設定画面。を、FREEでしょ……」


――洗い立ての髪からコンディショナーの甘い香りが♡ いや、いかんいかん!――


「で、リクエスト・ウィンドウにMVRルーター経、由ぅ……」


――空いたTシャツの襟首から胸の谷間が♡ いや、いかんいかん! 幼馴染相手に何を考えているんだ俺は――


「で、もう一つに、現実世界のキーワードで、今回はドラゴ、ん……」


――だぶだぶのロング・Tシャツの裾からムッチリ太腿が♡ いや、いかんいかん! 昼間の屋上で見た映像が頭に浮かんでしまう――


「で、最後にコスチューム画像添、付ぅ。名称機能入、力ぅ……」

「……」

「ねえ? 聞いてる?」

「えっ!?」

「あああっ! 今聞いてなかったでしょ!?」

「いや、聞いてる聞いてるっ!」

「嘘っ! あああっ!! 今、いやらしいこと考えてたでしょ!?」

「な、ナニ馬鹿なこと……」


 アキラは両腕で胸を隠すポーズをすると叫んだ。


「キャー、最低!」

「バ、バカ、でっかい声出すなよ! 違うよ、そう、ちょ、ちょっと太ったんじゃない、オマエ!」

「なにィ~っ(怒)!」


 そう言って顔色を変えるアキラ。彼女は僕に飛び掛かると、そのまま僕をベッドに押し倒した。


「お、おいっ!」

「《《ゆるさ》》ないんだからっ!」


 アキラは僕のマウント・ポジションを取った。僕は彼女の両手を掴んで抵抗する。そして、おふざけの攻防を幾らか終えると、アキラはバンザイするように僕の上に突っ伏した。


「えいっ!」


――えっ!?――


 僕の顔に彼女の柔らかな胸が当たる。驚きに力の抜ける僕。掴まれていた両手を擦り抜くと、彼女は僕の頭を優しく抱いて言った。


「ちょっとだけ……。ちょっとだけ、このままでも、いい……?」


 アキラは泣いているようだった。僕はどうしていいか分からず、無言に彼女の背中に手を回した。それ以上、僕も何も出来ず、それから少しの間、僕たちはそのままだった。







「ホントは、怖くて怖くて、しかたないの……」


 僕に抱き着いたまま、彼女は小さく嗚咽まじりに呟いた。


――アキラ――


 よくよく考えてみればそうだ。アキラに限らず、千勢もエルちゃんも、普通の夢可愛いが趣味だけの女子高生。それが、あんなバトルスーツに身を包んで、空を飛んだり、ドラゴンやら意味不明のサバイバル・ゲームをやるなんて。確かに非現実にも程がある。


 アキラは僕を抱きしめたまま話始めた。



 覚えてない? 今年の初め頃。ハルの様子がおかしかったの? それで私とエルで相談に乗ったの。そしたら、ハルに別世界のおハルを紹介されて、びっくりしたけど彼女が可愛そうで。


――別、世界の――


 はじめはね、アタシもエルも同情半分だった。それにアーマーを身につけていれば、無敵だし、それほど痛い思いも怪我をする事もなかったから。でも、だんだんドラゴンの現れる間隔が、一週間に一回から三日に一回になって。それが毎晩になって。それに、前は現れても一晩に一頭だったのに、夜毎にドラゴンの数も増えて。


 それでね。アタシも気付いたの。アタシたちは遊ばれてるって。これはゲームなんだって。怖くなって、途中で止めようとも思ったけど、止めたら、アタシの大好きな人たちが死んじゃうって。だから、だから四人で、みんなで頑張ったの。


 そしたら三ヶ月前。おハルがピンチになって、もう、【Dream Lift】のバッテリーが切れかかってるのに、見殺しに出来ないってハルが助けに行って……


――千勢が――


 ゴメンね、ショウ。ショウはさ、ずっとハルの事が好きだったんだよね。言わなきゃ、言わなきゃって思ってたんだけど、どうしても言えなくて。言ったら、きっとショウが悲しくなっちゃうって思って。だから今日も、おハルには、そのことは内緒にしてもらおうと思ったの。騙すつもりなんてなかったの。アタシ、どうしても言えなくて。ゴメンね、ショウ。



 泣きじゃくりながら謝るアキラ。


「大丈夫……。大丈夫だよアキラ。怒ってないから……」


 そう言うしかなかった。と言うより、こんな感じでアキラが言うのだから、きっと僕の知ってる千勢ハルは、もうこの世には居ないのだろう。それを頭で理解できても、心では理解できていなかった。アキラが何に対して謝っているのかも実感が沸かない。ただ、心のどこかで見ぬふりをしていたものが、消えて無くなったのは感じた。


 こんな時。何か気の利いたことでも、そう思った僕は言葉をひねり出した。


「でも……、そんなに思い詰めるまで、誰かに相談しようとか思わなかったの?」

「思ったよぉ! でも、こんなの、頭オカシイって、きっと誰も信じてくれないよぉ!」

「馬鹿野郎っ……」


 思わず、僕の口を突いて出た言葉。一瞬、アキラの体がビクついた。


「……」


 アキラのみならず、自分自身でも驚いた。


――いったい僕は何を言いたいのか?―― 


「えっ、いや、そんな時こそ、俺に、相談だろ……」


――そうだ、幼馴染のくせに水臭い――


 ゆっくりと体を起こすアキラが、泣き顔の目を丸くして僕を見る。思わず目を逸らす。


「いや、いっつもさぁ、同い年なのに姉さんぶって、アレコレ言う割には、乙女なんだよなぁ、アキラはぁ……」


 なんとなく繋いでしまった言葉。とは言うものの、彼女の出方を伺う僕は、変に出来た間を嫌うように体を起こした。


「だいたいさ、抱え込み過ぎるんだよな、いっつもアキラは。オマエの悩みぐらい、お、俺が解決してやるよ……」


 若干、言い過ぎた感はあったが、再び様子を伺う。


 すると彼女は、おでこを僕の胸に預け凭れかった。そんな彼女を抱きしめようと腕を伸ばした瞬間。彼女は僕の脇腹に拳を突き立てた。


「言い過ぎ!」


 腹部に滲む鈍い痛み。


 何はともあれ、いつものアキラに戻っていた。彼女は泣き顔を見せるのを嫌うよう僕に背を向けた。そして、ベッドの脇に転がる【Dream Lift】を拾うと、振り返りもせずに僕に突き返した。


「はいコレ……。もう、設定とか大丈夫だよね?」

「あ、ああ、たぶん大丈夫」

「花薗神社、AM01:00に……」

「オ、OK!【Dream Lift】を持って、山車庫の前に集合ね」

「じゃ、アタシ、帰るね……」


 最後まで視線を合わせることなくベッドから降り立つアキラ。僕が泣かせた分けでは無いが、なんとなくの後味悪さ。ふと、僕は彼女を追ってエスコートするよう後ろに立った。


「玄関まで送って……」


 それを言い終わらぬうち、アキラは急に振り向くと僕の首に両腕を回した。そして俯いたまま背伸びをすると、瞬く間に僕のファースト・キスを奪って、また俯いた。


 予期せぬ一瞬の出来事に硬直《(*´艸`*)ムフッ♥》する僕。




「ショウのばか……。期待、しちゃうぞ……♡」




 そう呟くアキラの言葉だけが耳に残った。


 そこから暫くの、僕の記憶は無い……。




♥♥♥




「ショウさん、遅いですね。アキラさん、ちゃんと設定してあげたんですか?」


――あっ、エルちゃんの声だ。ま、間に合わなかった――(ハァ、ハァ)


「したわよぉ……、一応……」


――ア、アキラか――(ハァ、ハァ)


「一応ぉ?」

「いや、だってさぁ……、ショウ、が……」


――アキラ、オマエまさか――(ハァ、ハァ)


「ショウ君が、どうかしたの?」


――ゆ、千勢か? ア、アキラ、それは言っちゃダメだ――(ハァ、ハァ)


「えっ!? ああ……、いや……、ええと、したした、ちゃんとした! アイツ、何やってんだろ!?」


――オマエこそ、《《したした》》は無いだろう――(ハァ、ハァ)


 ようやく僕は辿り着いた。


「ご、ごめん。お、ぉまたせ……。はあああぁ~、し、しんどぃ……」


「ショウ君!」「ショウ!」「ショウさん!」


「ショウ君、どうしたの? そんなに汗だくになって?」


「千勢さん今晩は。エルちゃんも。いや、ちょっとね……」



 待ち合わせの時刻に遅れぬよう――遅れたが――、僕は自宅のある阿佐ヶ谷から――10km弱だろうか?――新宿まで全速力で自転車を飛ばして走ってきた。


 あの後。


――ゲフンゲフン――


 アキラが居なくなった後。僕は待ち合わせの時刻である午前01:00までの時間を使って【Dream Lift】設定の分析、カスタマイズをやってみた。アキラが添付してくれたコスチューム画像の改変やら、PCに繋いで幾つかいじっている内に午前00:30を回った。


 そろそろかなと、【Dream Lift】にLiftOnして夜空を一っ跳び、のつもりだった。が、そこで問題に気付いた。


――待てよ? 確かアキラとエルちゃんがリフトオンした時。光と大きなベルの音が発したような――

(1秒)

――光の方は何とかなるとして、こんな時間に家で大きな音を鳴らしたら親父やお袋にバレてしまう――

(2秒)

――いや、そもそも。アキラは、どうするつもりなのだろう? 電車か? 飛ぶのか?――

(3秒)


 そう思って部屋のカーテンを開けてみると、既に隣向かいの二階にあるアキラの部屋は真っ暗だった。


――何! 電車か? いや、もう終電は終わってる。先に出たのか?――

(4秒)

……

(5秒)

――ま、まずい、遅刻だ!!――

(6秒)



「で、そこから慌てて家を抜け出し、自転車で青梅街道をひたすら。で、鳥居の入り口に自転車を乗り捨て、暗い石畳を息も絶え絶えに。という訳です……」


 息を切らしながら一通りの説明をし終えると、呆れた顔でアキラが笑った。


「ばっかじゃないのぉ。サイレント・モードが付いてるでしょ?」

「えっ!? アレにもサイレント・モードが効くの?」


 当然の如くアキラが言う。


「当たり前でしょ、【Dream Lift】なんだから。アンタ、DVRG何年使ってるの?」


 そして、またケラケラと笑う。ちょっとだけイラつく僕。


「そんなの知る訳ないだろ! オマエがチャンと説明しないからっ!」


 売り言葉に買い言葉でアキラが返す。


「もう設定とか《《大丈夫だよね》》? って《《確認》》したでしょ! それに、あんな状況でチャント説明なんか出来るわけないじゃないっ……」

「あんな状況って。そもそも、あんな状況を作ったのはアキラだろっ!」

「あんな状況、って、二人とも何かあったの?」


 千勢だった。


「いっ! いや、なにもぉ……。な、なあ、アキラぁ……」

「えっ!? ぅ、うん、別に。特には、なにも……」

「あのぉ、お取込み中スミマセン……」


 不自然に狼狽える僕たちではあったが、そこにエルちゃんが割って入ってくれた。彼女は腕時計に目を遣ると、不安げな表情を浮かべた。


「でもぉ、もうそろそろ時間じゃないかと……」


 その言葉で皆に緊張が走った。それは、もうすぐ思念体マインド・キャラクターであるドラゴンが現れることを示唆していた。僕を見て千勢が言う。


「ショウ君、どうしよう? 変身、なんだけど、ここで、する?」


 言われてみると、既に三人とも――装甲天女アーマー・メイデン――に変身していた。


「ショウは初めてだし、そ、そぉだね、最初は見学でも、イイんじゃないかなぁ……」


 と、アキラも言う。


「で、では、ショウさんの変身は次回ということで!」


 エルちゃんまで。が、しかし。この時の為に幾つもの葛藤を繰り返した僕は、あっさりと引くわけにはいかなかった。


――決して自信があるわけではないが、全く自信がナイわけでもない――


などと、変身してゆく過程を思い浮かべながら再び覚悟を決める。


「いや、せっかくだから変身を試してみるよ」

「「「えっ!? そ、そお……」」」


 皆も意識していたのか、照れる三人が同時にそう言った。そして、三人揃って僕に背中を向ける。


「は、早く、やっちゃって……」と、アキラ。

「い、いいわよ……」と、千勢。

「い、急がないと……」と、エルちゃん。


――喜んでいいのか? 悲しんでいいのか? 複雑な心境の僕――


 そうは思いながらも神経を集中させる。

 両足を肩幅に開き、やや斜に構える。

 大きな深呼吸。

 瞑想するかに瞼を閉じる。

 そして、《《しっか》》と瞳を見開く次の瞬間。

 僕は叫んだ。


「レッツ! リフトオン!!」


 瞬間、光のシャワーが弾け飛ぶ。

(0.5秒)

 突然に辺りを覆い、鳴り響く電子音の非常ベル。

(1秒)

 突如、背後に現れる眩い光体。

 それは輝きを引き裂いて姿を現した。

(2秒)

 宙に抜け出し輝くもう一人の僕。まるで亜空間から現れたそれは、僕に輪郭を重ねるよう舞い降りた。

(3秒)

 体中にみなぎる想い。荒ぶる肉体。僕は両の掌を天に翳し仰ぐと、再び呪文の如き言葉を叫んだ。






「召喚! 装甲騎士アーマー・ナイト!!」

「「「えっ!!!」」」


 三人の驚く声が聞こえた。


 瞬間、僕の服に光の螺旋が走る。

(3.5秒)

 突然に風をはらみ、その場に浮上する僕のカラダ。

(4秒)

 そして、螺旋の亀裂に破裂する七色の瞬き。


 それは僕の


 《《身に纏うもの全て》》を《《帯状に引き裂いて》》


 姿を現した。


 思わず振り返っていた彼女たち。




「「「(*♡o♡*)わ~お♡」」」




 僕の体を中心に層を成して双方向回転するリボンリングの瞬き。そこに描かれる光の球体。まるで立体魔法陣のように瞬くモザイク模様。それは僕の露わな肢体を彼女たちの視線から遮るよう、ドミノ倒しに色を黒く変えていった。そして、最後に一際大きな閃光を放ち光の渦を収束させた。


 この間、全6秒。


 千勢ハル。伊月アキラ。妃端エル。僕の変身した姿を見て、三人が声を揃えて驚く。


「「「おおおっ♡」」」






つづく






次回「ゆるさないんだから♡」お楽しみに♪(*´艸`*)ムフッ♥

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