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放課後、校舎屋上にて♡

      挿絵(By みてみん)




「ショウ君。パラレルワールドって知ってる?」


 それは唐突な質問から始まった。


――やっぱ、恋の告白なわけ、ないですよね――


 次の日の月曜日。約束の放課後。この日も良く晴れたせいか、下校時刻になっても暑さが和らぐ事は無かった。蝉の鳴き声が余計に蒸し暑さを際立たせる。ただ、時折に校舎の屋上を吹き抜けてゆく風が、僕と千勢ゆきせの現実《夏服のセーラー姿(*´艸`*)ムフッ♥》を留めていた。


「パラレルワールドって、よくSF小説とかに出てくる……」

「そう。この私たちの世界から分岐して生まれる並行世界。この現実とは別に存在する、もう1つの現実。――もしもこうだったら、どうなっていたのか?――その可能性によって差異が生じた、似ているようで何かが少しだけ違う別世界」

「でも、それって小説や漫画の世界の話でしょ?」

「いいえ。実際に物理学の世界でも理論的な可能性が語られているの。例えば、量子力学の多世界解釈や、宇宙論のベビーユニバース仮説。超弦理論なんかでも」


 僕は才女が語る小難しい話の展開に面食らった。が、目の前にいるのは夏服の|セーラー《しかもミニ(*´艸`*)ムフッ♥》を纏った僕の天使。何より、真っすぐに見詰め返して語る彼女の瞳に、魔法でも掛けられたかのように僕は目を逸らすことが出来なかった。


「ま、まあ、で、もしそんな世界が存在してるとして、それが、どうかしたの?」

「ショウ君。昨日、DVRG持ってたよね?」

「ああ」

「ショウ君もDVRGユーザー歴、長いの?」

「ええっと、第二世代機種からかな。昨日やっと、最新の【Dream Lift / ドリームリフト】手に入れたんだ」

「じゃあ、細かい説明は要らないわね」

「ま、まあ……」


 千勢は屋上のフェンス越しに広がる街並みを眺めた。


「この私たちの世界にあるDVRGは、私たちの夢の中で仮想現実を構築するでしょ?」

「あ、ああ……」

「でも、もしそれが、そうじゃなかったら?」

「そうじゃ、なかったら?」

「さっきの話に戻るけど。似ているようで何かが少しだけ違う別世界。もし別の並行世界にもDVRGが存在して、でも、それは夢の中ではなくて、パラレルワールドに仮想現実を構築出来るとしたら?」

「パラレルワールドに、仮想現実を……」


 ピンとこない僕。彼女は僕の様子を伺うように一瞥すると、今度は視線を校庭に落とし話を噛み砕いた。


「要は別の世界から見れば、この私たちの暮らしている世界こそがパラレルワールドってことでしょ?」

「なるほど……」

「もし、ここに彼らの願望や欲望が構築されたら?」

「そんな。僕らの世界がメチャクチャになっちゃうよ」


 そう言って苦笑する僕だったが、そこで昨日の記憶が頭の中を過った。それは新宿の東口で見た、あの光景だった。


「な……、まさか……」


 校庭で部活動をする生徒たちを眺めながら千勢は当然のごとく答えた。


「そう、そのまさか」

「えっ! 昨日のドラゴンって、もしかして、その……」

「正解!」


 僕を指さし、そう言って真顔で振り向いた千勢。彼女の艶やかな黒髪とセーラー服の赤いスカーフが、校舎の屋上を吹き抜ける夏のそよ風と|軽やかに《ミニスカートと共に(*´艸`*)ムフッ♥》 なびいた。







 一瞬、言葉をなくした僕。千勢は淡々と話を続けた。


「厳密に言うと、昨日のドラゴンはマインド・キャラクター」

「マインド・キャラクター?」

「ええ。私たちの夢仮想現実に対して、平行世界住人パラレル・レジデンスたちの思念仮想現実マインド・リアリティ。そして、ドラゴンは平行世界住人パラレル・レジデンスたちの思念が生み出した思念体マインド・キャラクター


 耳慣れない言葉が千勢の口から次々と躍り出てくる。また僕は頭の中がこんがらがった。


「ちょっと待った。細かいことは、ま、置いといて。何で、そんなことが起こるんだ?」

「平行世界はタイム・パラドックスと同じように、どの空間軸で現実を書き換えても、自分たちがいる元の世界には影響しないの。そもそもが交わるはずの無い世界だから。

 それを平行世界住人パラレル・レジデンスたちの一部が悪用している。彼らは構築する思念仮想現実マインド・リアリティの干渉によって、この世界の原理原則を書き換えているの。

 彼らにしてみれば、この私たちの世界がどうなろうと関係ない。その他大勢に至っては、それが実際に血が流れているなんて認識すらしてない。すべては思念上の、仮想現実の中の出来事だと思ってる……」

「そんなムチャクチャな……」

「そして、大きな問題が一つ……」


 ここまで突拍子もなく小難しい話を、淀みなく説明してきた千勢が急に口籠った。何かを迷っているようで、また、泣きそうにも見えた。イヤな予感がした僕だったが、それを彼女に問い尋ねずにはいられなかった。


「あのぉ……、大きな問題って?」


 千勢は天を仰ぐと|一度《その白く柔らかなウエストが見える程(*´艸`*)ムフッ♥》大きく深呼吸した。そして、静かに意を決すると再び口を開いた。


「私たちの世界のDVRG【Dream Lift】の総販売台数は約700,000,000台。同じように平行世界のMVRG【Mind Lift】の総販売台数も約700,000,000台。その二つのガジェットを通して14億もの夢や思念が互いの世界に干渉しているの。そのせいで、本来交わらないはずの彼らの世界と私たちの世界が、引き寄せ合い侵食を始めている」

「侵食って……」

「しかも、この宇宙を含め世界を構築している正物質に対して、その平行世界を構築しているのは反物質。それらの次元が交わり重なった時……」

「重なった、時?」






 汗ばむ額。僕は息を呑んだ。千勢は眼差しに悲し気な影を滲ませると言った。






「この世界は、消滅する」







――この世界は、消滅する――


 そんなセンセーショナルな発言を真に受ける奴も少ないだろう。普段であれば僕もそうだ。しかし、相手が千勢ゆきせなだけに、僕は疑心暗鬼ながらも信じるしかなかった。


「にしても、何で千勢さんが、そんなこと知ってるの?」


 彼女は僕の問いに顔色を落とすと、再び視線をフェンスの向こうへ流した。いつものように校庭で、放課後の部活動に勤しむ生徒たちの声や音が木霊している。そして、その掛かる黒髪を耳元で掻き上げると彼女は静かに語り始めた。



 似ているようで何かが少しだけ違う別世界。そう、ショウ君の住むこの世界と、かつてそっくりな世界があったの。


――ん? ショウ君の住む――


 それは二年前。昨日の新宿のように、その世界にも突然ドラゴンは現れた。それは日増しに増え、対処に困った政府は自衛隊の出動を要請した。


――じ、自衛隊――


 最初は捕獲する方向だったけど、最終的には攻撃排除する事になったの。でも、出来なかった。アレの仮想実体は、いくら物理攻撃をしても思念集合によって再生されてしまうから。


――さっきの思念体マインド・キャラクターってやつか?――


 別世界のMVRGから別世界のDVRGへ。平行世界を跨いで思念転送された思念体マインド・キャラクターは、その世界で仮想実体を獲得して具現化される。

 だからアレを排除するには、それを構成している思念を喪失か分散させないといけなかった。でも、その世界の住人は、それに気づくのが遅かった。

 当然、攻撃されたドラゴンは反撃。街は戦場になった。そして、同様の事が世界中で起こったの。


――世界中!?――


 ただ、それは思念体マインド・キャラクターを送り込んだ世界側からしてみれば、単なるお遊びのゲームに過ぎなかった。


――ゲーム?――


 自分たちの世界と似ているようで何かが少しだけ違う別世界。そこに彼らは思念体マインド・キャラクターを送り込んでバトル・ゲームのステージにした。そう、オンラインゲームみたいに。

 彼らは彼ら自身の分身体マインド・アバターも送り込んで、思念体マインド・キャラクターと送り込まれた世界側の住人との三つ巴のバトル・ステージで戦った。


 そして、それは不公平なルールのサバイバル・ゲームでしかなかった。彼らは傷つきもしなければ、死にもしない。何故なら彼らの分身体マインド・アバターは思念だから。死んでゆくのはゲーム・ステージにされた世界側の人間だけ。

 後は想像通り。やがて、すべてが燃えて灰になり、地上から国というものは消えてなくなった。


――マジか――


 それでも、ゲーム・キャストにされた住人たちはレジスタンスを組んだ。それは抵抗する為と言うより、この不可解な現象と敵の正体を知るために。


――敵の、正体って?――


 レジスタンスはDVRGが事の元凶であることには気付いていたわ。ただ、その時点でDVRGは殆ど焼失してた。それにMVRGのように分身体マインド・アバターを別世界に送り込むまでの性能はなかった。

 だから代わりに、敵が設置したMVRルーター基地を急襲して手に入れ、逆流させて同じように分身体マインド・アバターのスパイを送り込んだ。


 そうして、ようやく私たちは突き止めた。


――えっ? わたし、たち?--


 敵は、私たちの世界と似ているようで何かが少しだけ違う別世界。その平行世界のMVRG企業であるリコール社。そして、彼らの作った狂気のゲームに興じる平行世界住人パラレル・レジデンスだって。


 でも全てが遅かった。その情報をもって、私が私の世界に戻った時。私の仲間たちは既に全滅していた。もう誰ひとり生き残ってる者はいなかった……。



 それきり、驚きと疑問の渦巻く僕を置き去りにして、彼女は黙り込んでしまった。その美しい横顔《うなじと胸元(*´艸`*)ムフッ♥》。ただ、その頬には一筋の涙が流れ伝っていた。







「あっ、ごめんね。泣いたりして、わけが分からないよね……」

 

 暫くの沈黙の後。千勢ゆきせは涙を拭いながらそう言った。


「だから私、ショウ君に謝らなければいけないことがあるの……」


――ん? だから? って、どう言う意味だ?――


 正直、僕は彼女の話を信じ切れてはいなかった。そりゃそうだ、こんな突拍子もない話。誰が信じるというのだろうか? 夢見がちな17歳の高校生である僕でも、信じろと言う方が無理だ。夢物語にしては出来過ぎのお伽噺を聞かされているようだった。


 ただ、彼女が流した涙を見る限り、彼女が嘘をついているようにも思えなかった。だとすると、やはり僕の中に芽生えた数多くの疑問が再び頭をもたげる。


千勢ゆきせさん、いったい君は……」

「ごめんね、ショウ君。私、私は、あなたの知っている千勢ハルじゃないの……」

「えっ!?」

「彼女は、この世界の千勢ハルは、もう死んでいないの……」

「死んで、って……。な、なにを言ってるの、千勢さん……」


 抱えていた全ての疑問を、綺麗に吹き飛ばしても余り有る衝撃的な一言だった。僕は置き去りにされた上に途方に暮れた。


「私は、MVRGが生み出す思念体マインド・キャラクターに、分身体マインド・アバターたちに滅ぼされた、もうひとつの並行世界。ショウ君の住むこの世界とそっくりな、別世界の千勢ハルなの。あなたの知っている彼女は……」


 一瞬、沈痛な表情を浮かべた千勢。それでも、彼女は何かを振り切るように言葉を繋ごうとした。そして、その頬には再び涙が伝い零れる。


「彼女は、私の身代わりに……」


 その時だった。僕の右後方、屋上の出入口から聞き慣れた声が呼び止める。


「「チョット待ったああ!!」」


 驚いたように涙顔を上げる千勢。僕も思わず声の方に振り返る。


「ア、アキラ!? それにエルちゃんも……」


 するとそこには、この学校の生徒会副会長であり幼馴染の伊月イヅキアキラ。そして、同書記長を務め同じクラスの妃旗ヒバタエルの姿があった。







 千勢ハルの親友であり、現生徒会の強気な副会長・伊月アキラ。ロング・ストレートの髪は亜麻色。大きな瞳に長めのまつ毛が丸い小顔に映える。ややポッテリした唇は若干アヒル。足、長っ! な|ダイナマイト・ボディ《(*´艸`*)ムフッ♥》。


 で、もう一人の親友が、ほんわか天然書記長・妃旗エル。赤毛ツインテールの眼鏡っ子。おちょぼな感じも若干アヒル唇。その小さな体に似つかわしくないバランスのとれた|セクシー・ロリータ《(*´艸`*)ムフッ♥》。


 そう、そこに千勢ハルが加われば、それは我が校が誇る言わずと知れた三大天女様プリティ・メイデンたちの集合だった。


「な、なんで? ふたりが屋上に???」


 そんな僕には御構い無く、アキラは千勢に歩み寄ると優しく言った。


「おハル。もう自分を責めるのは、それぐらいにしときな……」


 僕を通り越してエルちゃんも優しい。


「そうよ。おハルさんがそんなんじゃ、天国のハルちゃんが悲しむわよ」


 ついさっきまでの重々しい空気が夏空のように晴れてゆく。それでも、堪える程に涙が、千勢の頬に繰り返し溢れてはポロポロと流れた。


「ごめんなさい……」

「だぁかぁらぁ、もういいって……」


 包み込むように(その胸に羨ましく❤)アキラが千勢を抱きしめた。


「そりゃ、アタシだって、最初は恨んだけどさ。でも、アンタが悪いわけじゃない」


 エルちゃんも千勢の背中から抱き着く。


「そうよ、ぜんぶ彼らのせい。おハルさんは、何も悪い事なんかしてない」


 僕はと言えば、そんな光景を微笑ましく(やはり羨ましく❤)眺めた。すると、アキラがキツイ眼差しを向けて来た。


「アンタ、男でしょっ! 女の子を泣かして、ただで済むと思ってるのっ!!」

「えっ!? 俺は別に、なにも……」

「ショウさん、ヒドイっ!」

「えっ!? エルちゃんまで、そんな……」


 違う意味で、また僕は一人、置き去りにされた上に途方に暮れた。あの白い夏雲までが、晴れ渡る青空を遠ざかるように流れていく。そしてこの後。僕は彼女たちの素敵な姿を、いや、トンデモナイ秘密を目の当たりにする♡。






つづく






次回「モチロンやるんでしょ♡」お楽しみに♪(*´艸`*)ムフッ♥

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