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3.猫が鳴く

挿絵(By みてみん)

 僕はその日ものすごく体調が悪かった。

 何か変なものでも食べた訳でもないし、熱もない。ただ体がだるく頭もきちんと回らなかった。


 体調不良で調子が悪い時に無理に出て、大きなミスをしても大変だ。

 僕は思いきって休みを貰うことにした。


「ニャー」

 寝てれば良くなるだろうと思ってベッドに潜った僕の耳に、猫の鳴き声がする。

 ちなみに僕はペットを飼っていない。

 近所の猫が鳴いてるんだろうか?

 ぼんやりする頭でそう考えた。

「ニャー」

 いや、妙に近くに聞こえる。

 どういうことだろう?


 そっとベッドから起き上がるが当然猫の姿など無い。

「気のせいか」

 僕は再びベッドに潜り込む。


「ニャー」


 ハッキリと聞こえた。

 しかも、家の中で。


 僕の心臓が高鳴った。

 どういうことだ?猫が勝手に上がり込んだのか?

 いや、窓だって開けてないし開いてたとしても網戸がある。どう考えても入ってこられない。

 それにこの狭い部屋だ。

 仮にドアの開け閉めの際入ってきたとしてもすぐに見つかるはずだ。隠れる場所がない。

 第一猫が入ってきたらいくら何でも気付くはず。


 じゃあ、これはどういうことだ?


 先ほどまでぼんやりしていた頭が冴え、恐怖に支配されていく。


 もしかして、これって…猫じゃないのかも。


 そう、これは。


 人間の…赤ん坊の泣き声!?


 ぞくり。

 その思考に達したとき、僕は例えようのない恐怖に凍り付いた。

 そんなバカな。これはアレか?あの淳二の怪談に出てくる、押し入れの中から猫の鳴き声がして、よく聞くとそれは赤ん坊の泣き声だったって言う、アレか!?


 いつもは思い出すこともない怪談をこういう時に限って思いだしてしまった。

 なんてことだ。この部屋、いわゆる訳あり物件だったのか!?

 今の今まで気付かなかったぞ。というか、この現象は昼間限定なのか?だから気付かなかったのか?ああどうしよう。もうだめた。怖くてベッドから出られない。でもこのまま赤ん坊の幽霊と一緒にいるのも耐えられない。どうしよう、どうしたらいい?


 僕はパニックになっていた。オカルト好きだが怖がりなのだ。

 あれはアクマで、エンターテイメントとして楽しむから面白いんであって、経験するのは嫌なものなのだ。冗談じゃない。

 かといってこのままでいたらどうなるか判らないし、塩でもまいた方がいいのか?

 ああもう、頭が混乱して判らない。体も固まってるし、どうしよう!怖いよ!


 僕の恐怖がピークに達していたとき、またしても声が響く。

「ニャー」

 ああ、近くだ。結構近くにいる。奴がいる。

「ニャー」

 これは一人かな?複数じゃなさそう。でも一人でも充分に怖い。

「ニャー」

 混乱する僕をよそに、その泣き声は規則的に鳴きだした。


 ええい、もう、ヤケクソだ。このまま纏わり付かれても嫌だしコチラが強気に出ればビックリして消えるって聞いたことがある。逆に脅かしてやれ、そうだ!頑張れ!


 僕はヤケになってベッドから飛び起きた。恐怖に駆られた絶叫を上げて。


「ニャー」

 僕は声のした方を見た。不思議と恐怖心は消え去っていた。

 多分ピークに達しすぎて怖いという感情そのものが吹き飛んだのかも知れない。

「ニャー」

 まだ鳴いている。視界がぼやけているので近くに置いてあった眼鏡をかけた。

「ニャー」

 ピントが合う。


 それは、僕のケータイだった。


                      *****


 僕はある人に電話をかけた。その人は直ぐに出た。

「はい。留目です」

「留目さん。僕です。五十里です」

「五十里さん、今日は病欠と聞きましたが」

「ええ。おかげさまで吹き飛びましたよ」

「話が見えませんが、良くなったと解釈してよろしいですか?」

「良くなったかどうかは判りませんが、それどころじゃなくなりました。あなたのおかげで」

「私、ですか?」

「はい。留目さん、この前僕のケータイ弄ってましたよね」

「ああ、はい。お勧めのがありまして、きっと喜ばれるかと」

「なんで猫の鳴き声なんて入れたんですか」

「え?」

「そのおかげでめっちゃくちゃ怖かったんですから!」

「何の話ですか」

「この期に及んですっとぼけないでください!猫の鳴き声の着信音入れたでしょう?」

「五十里さん、落ち着いて下さい」

「落ち着いてますよ」

「それ、私ではありません」

「え?」

 この時、やっと気付いた。

「猫の鳴き声…入れてないんですか?」

「はい。私は着信音なんて入れてません。私がいれたのはアプリですから」

「え?え?うそ、じゃあ…なんで鳴き声が…」

「五十里さん?」

 僕は頭が真っ白になった。

 床に落ちたケータイから留目さんの声が聞こえたが、何を言ってるかは判らない。


 じゃあ、あれは何だったんだ?

 まさか本当に赤ん坊の幽霊が?


 そんな僕の疑問に答えるかのように、ケータイから鳴き声が聞こえた。

「ニャー」


 くらり、視界が揺れる。

 僕は気を失うようだ。

 ゆっくりと床に倒れ込む僕の目に、ケータイの画面が映った。


 それは、留目さんが入れたであろう猫のアプリが、お知らせを表示させていた。


 猫の鳴き声付きで。


 もう、絶対許さない。留目ェ…。

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