第2話
人間観察が趣味の、僕『山本』がこの会社に勤めることになったいきさつから、日々の業務のこと、個性的な社員の人たちのことを思いつくままに書いています。
2、面接です
ども、山本です。
いよいよ明日が面接です。今日は、かおりが作ってくれたパスタで夕食です。僕は独り暮らしで、よくかおりはここに食事を作りに来てくれます。かおりは、パスタを作るとき決まって人数分より1種類多い、つまり今日だと3種類のパスタを作ってくれます。これが僕はとても好きです。今日は、明太子のパスタと、カルボナーラ、ペペロンチーノになってます。
おいしく食べながら、明日の面接の話題になりました。
「ねーねー、こうちゃん。今度の面接の会社って、変わった名前だよねー。何屋さんだろうね?」
「そうだよな・・・。さっぱり検討がつかないや。」
「あやしい仕事だったらやめておいてね?」
「ああ、もちろんそのつもりだよ。でもさー、この会社の名前からすると、社長さんって女かな?」
「あー、そうかもぉ。姉妹屋なんてさー、ひょっとして宗教絡みだったりしたらやだねー。」
「そっち関係はお断りだな。」
なんて、お気楽な会話をしていました。
そう、かおりには宗教で痛い思いをしています。信じていた宗教があったのですが、やっぱり人間のすること。人間関係に嫌気がさして辞めたんです。でもその宗教の内容は、今でも正しいと思っているようで、時々その考えを元に決断を下したりしているようです。
来ました。面接当日。僕は朝から落ち着きません。なぜかと言うと『普段着で来て下さい』の言葉。
(なーに着ていけばいいんだぁ?)
今の時期だと、僕はジーンズに長袖Tシャツに上にトレーナーかパーカーです。外出するときには、ダウンを羽織るくらいです。
(こんなんでいいのかなぁ・・・)
と、かおりが泊まるようになってから購入した姿見を見ながら、もう10分もうなっています・・・。
(どーしよー。かおりに電話するかなぁ・・・)
でも、この時間はかおりは寝ています。例の精神疾患の症状なのですが、ホントに朝は弱いのです。と、言うよりも、ほとんど寝ています。そうだなー、12時間以上寝てるときなんてざらにあります。
(ま、しょうがない。何かつっこまれても『コレが僕の普段着です』でいこう)
あ、もうお昼です。遅刻するのは嫌なので、面接の会社の近くで昼食を摂る事にしました。これ、僕の性格で、心配性なんです。それに、姉妹屋商会を見つけたとき、あれは面接に行った帰りで、手ごたえがなくてトボトボ帰った日のことでした。だから、あまり詳しい場所を思えていない、というのもあります。
(ええーと、確か並木通りのファミマの所を歩いてて・・・)
辺りを見渡します。
(歩道橋があったよなー)
すると、前のときと同じ時間だったからかまた保育園児たちがお散歩しています。今は、保育園も変わりましたね。よく見ると、日本人以外の子供も混じっています。そして最後尾に、保育士さんが押す車椅子に乗った園児も。みんな楽しそうです。
(お、もしかして多分この子達に前も会ったんだろうな。それで運よく会社が見つかった!おおー、ラッキーかも)
と、僕お得意の勝手な縁起担ぎ。こういう前向きのものなら、いいと思いません?
(じゃなっくって、会社探さなきゃ・・・)
目の前に歩道橋が見えてきました。
(ん?あれかな?)
今日も、あの人同じで窓が冬の陽を浴びて光っています。
(よし、会社の所在地は確認したぞ。飯にしよう)
近くにあった定食屋に入りました。サラリーマンやタクシーの運転手、OLがいっぱいです。
(もしかして、ここはおいしいのか?この人の入りよう見ると・・・)
でも、さすが店員さん。さっさと片付け、板場さんもどんどん料理を出していきます。僕、こういう人間観察が大好きなんですよ。なんだかワクワクしませんか?
5分ほど待つと、席に案内されました。
「日替わりランチお願いします」
そう、『日替わりランチ』がすきなんですよ。と、いうのはこういうので板さんの腕ってわかりそうな気がしませんか?
「今日は、白身の魚フライですが、いいですか?」
と、店員さんに聞かれ、
「はい、それでお願いします。」
待っている間、タバコを吸おうとしたのですが、ランチタイムは禁煙だそうです・・・。喫煙者の肩身は狭くなるばかりです。
10分も待たないうちに、頼んだものが出てきました。
(早いなぁー。慣れた人多いのかなー)
早速食べました。
(熱っっ・・・。)
揚げたてですから、熱いですよね・・・。冷凍の白身魚じゃないです。おいしいです。
(あー、もし姉妹屋商会に勤めるようになったらここで昼飯食えるなー)
と、また僕の楽観的な考え・・・。ホントにおいしくて満面の笑みを浮かべてお勘定を支払いました。これで¥680なら安い!!
(ここは、またかおりと一緒に来てもいいな)
まだ時間があります。ちょっと歩いてみることにしました。ウロウロしてると小さな公園がありました。公園と言っても、ブランコだけしかありませんでした。幸いベンチはあったので、腰掛けてタバコを吸っていました。もちろん、携帯灰皿は持っていますので、吸殻は持ち帰りますよ。
ボーっと冬の空を眺めていました。ちょっと雲が雪雲に近い感じです。
(あー、雪が降るのかなぁ。かおり雪が好きなんだよねー)
タバコに陽は点けたものの、吸うことも忘れていつになく空を見ていました。
「ぐわっ!あっちーー!!!」
やりました。根元まで火が来ているのにも気が付かず、空に見入っていました。時計を見ました。もうすぐ時間です。
「よっしゃー、行くかー」
と背伸びをして冷たい空気を胸いっぱい吸いました。
面接時間の5分前です。ここのビル5階建てなのにエレベータがないんです。4階まで上がったら、暑くなりました。
(おし、がんばろう!)
「こんにちはー。面接をお願いしていた山本と申します。
とドアを開けていいました。が、人の姿がない・・・。
「あのー、すみませーーーん」
と、奥の部屋から物音が。
「あー、ちょっとお待ちくださいねー」
(あ、小山さんの声だ)
「はーい、ここで待ちます」
しばらく待つと、小山さんが顔を出して、
「寒かったでしょ?お茶とコーヒーどちらがいい?」
「じゃあ、コーヒーお願いします。あ、ブラックで・・・。」
やがて、コーヒーを2人分お盆にのせた小山さんが、
「こちらにどうぞ」
と、『会議室』と書いてある部屋に通された。
「どうぞ、お座りになって」
「はい!」
文字通り『会議室』な雰囲気の部屋で、長机にパイプイス。壁にはホワイトボード。
「じゃあ、先に履歴書拝見させていただいていいですか?」
「はい、こちらです。お願いします」
小山さんは、学歴をサラッと見て、職歴について質問してきました。
「前のお仕事長く勤めてらしたのに、どうしてお辞めになったの?」
「いろいろ事情がありまして・・・。」
と、そこに
トントン、とノックする音が。
ガチャっと会議室を開けるドアの音。
「遅れてすまない、今戻った。」
(ん?社長さん?)
「あ、社長ー、今始めたばかりですよ」
と、振り返ってみると、ジーンズにパーカーを羽織った女性が居ました。
(小柄な人だな。30前後ってとこかな・・・。)
「山本さん、こちらが社長の『上野 凪』です。」
「よろしくお願いします」
すると、その小柄な体からは想像できない貫禄のある声で、
「ああ、かしこまらなくていいよ。こっちまで窮屈になるから」
と。
髪の毛は黒くて、肩まである。ん?でも左は肩まであるが、右は胸の下まである。斜めに切ってあるようだ。骨太な感じで、化粧はしているようだがあまり目立たない。香水の匂いだろうか、微かにする。でも、笑顔がない・・・。
(もしかして、怖い人?)
「社長、山本さんの履歴書です。先に拝見しました。」
「そうか。」
と、おもむろにタバコに火をつけ、小山さんの隣に座った。
「山本君も吸いたかったら遠慮なく吸ってくれていいんだよ」
「あ、はい。じゃあ。」
社長は、真剣に履歴書を見ている。
「ふむ。申し分ないな」
「ありがとうございます」
「で、だな、ここは変わった会社でな、本名を名乗らないのだ。と、いうのも、別人になって働いてほしいのだ。プライベートと切り離すためにもな。」
「へー、変わっていますねー」
「うん、それでだ。山本君。君は苗字はそのままで良いが、下の名前変えることに抵抗はないか?」
「あ、はい。いいですが・・・。」
「うむ。では、君はとても誠実で真摯な印象を受けたので『眞』としても良いだろうか?」
「なんだか、人が変わった気分になりますね」
「そうだろ?そうやってうちの会社のものは仕事をしている。」
クスクス横で、小山さんが笑い出した。
「なんだ?ブンさんよ」
「だって、社長は俳優の『山本耕史』さんが好きだから、同じ名前じゃいやなんじゃないですか?ふふふ」
「いやいや、ここはみんな偽名だろ?いいじゃないか」
「はいはい、わかりましたよ」
社長はくわえタバコで苦笑いしていた。
「ところで、社長、お伺いしたいのですが、業務内容なんですが・・・。」
「ああ、そうだよな。ここは、なんて言えばいいんだろう。困った人を助けてることが多いな。」
「NPOとかなんですか?」
「いや、そうではない。んー、例を挙げると、不登校の子供がどうやって将来を切り開くかのお手伝いをしたり、独居老人の方たちの話し相手や公的な支援の取り付けのために動いたりもする。一応、常駐の看護師がいてね、専属のドクターもいて往診にも行ってくれる。」
「ほー、すごいですね。」
「その後、その子供がうちの会社に入ることもある。今は3,4名いるかな?ブンさん」
「そうですね。クロアとハクアと、アリとオーとアユミくらいですかね」
「それで、僕のする仕事は何でしょうか?」
「そうだな、最初はブンさんの仕事を手伝ってくれ。それから、うちの奴らを紹介していくから、それに慣れてくれ。」
(慣れてくれ?ってなんか気になる)
「個性的な人間ばかりでな。次に出勤したらわかるぞ、その意味が。」
「山本さん、いつから働けますか?」
「んー、あの、フレックスの件なんですが・・・。」
「ああ、あれはな、基本的に8時間働いてくれればいいんだよ。一応土日祝日は休みだが、出勤しても構わない。代休はしっかり取ってくれ。夜勤みたいな形態で働いている奴もいるから、心配しなくていいぞ。22時以降は、ちゃんと深夜手当もつく。」
「ほー、それは僕にとっては好都合です。例えば、1回抜けて戻ってきても構わないのですか?」
「ああ、構わないよ。」
「まあ、やっていくうちにわかると思いますからね。山本さんなら大丈夫でしょう。」
「で、眞はいつから勤められそうかな?」
「そうですねー、家の者と相談してきます。」
「ああ、気が向いたらいつでも来てくれ。ちなみに給料は、最初は、20万からだがいいか?」
「はい、昇給もあるってことですね?」
「そうだ。働いた結果が出ていれば惜しみなく出す。それが方針だ。仕事は楽しんでしてほしいと思っている。ただな、この会社は『歪な者』が集まっている。人間観察は好きか?」
「はい。今も社長のことを見て、『どんな方なのか』想像していました。」
「あははは。私の事は簡単にはわからないだろうな。な?ブンさん。」
「ええ、そうですね。」
(え?この小柄な人は、そんなにいろいろある人なのか?)
「わかりました。またわからないことがあったらお電話していいですか?」
「はい、お待ちしてますよ。」
「今日はありがとうございました。」
(ふー、疲れた)
でも、変わった会社だと思いませんか?いつから出勤するかは、かおりと相談しよう。しかし、変わった社長さんだ。小柄なのに、骨太なのかな?がっちり体型。なんとなく威圧感があるし、心から笑わない。感情のない人みたいだ。話し方も女性っぽい感じがない。
(もしかして、性同一性障害の人?)
とにかく、帰ってかおりに相談だ。勤務時間などは申し分ないんだけどな・・・。『歪な者』ってのが気にかかる。業務内容は、特に気にはならないけど、どうしようか。自分だけでは決められない僕。
(かおりは、即決即断だからなぁ。かおりに聞くのが1番だな)
今日は疲れた。明日、またかおりと夕食でも食べながら相談しよう。明日は、キムチ鍋が食べたいな。
では、またお会いしましょう。
読んでくださってありがとうございます。3,4週間で1話のペースで仕上げていきますので、よろしくお願いします。まだまだ未熟者なので、気になることもあると思いますが、どうぞよろしくお願いします。