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5:可愛い子

ある日の昼休憩の時間。

クラスの男子たちはひとつの議題を熱く語り合っていた。

教室の後ろのほうの片隅に集まり、顔を寄せ合いヒソヒソと語り合う姿は傍目にはとても暑苦しい。

オレはその輪のすぐ傍の席を借りて座り、ぼんやりとその内容を耳に拾っていた。

「だーかーら!オレは絶対1組の吉田さんだと思うんだよね!」

「いやぁ、それはどうだろ?オレは断然3組の和久寺さんだと思うね!」

「落ち着けお前ら。まずは各クラスで一番可愛い子を決めよう。」

段々とヒートアップしてもはや内緒話でもなんでもなくなってきたそれは、一番近くでまだお弁当を食べている女子たちの耳にも届いているようで、あからさまに呆れた顔をしている。

「なぁ、英田(あいだ)はどう思う?」

そんな話題を振られても困る。

大体、元が女であるオレは誰が一番可愛いかなんて興味が無い。

「我等が4組の代表は...橋元さんだろうな。」

1人の言葉に集まった男子たちが一様にウンウンと頷く。

橋元さんとは、色白で少し丸顔の童顔だが笑った顔が愛嬌のある、大人しい部類の女子だ。

顔は確かに文句なしに可愛いと言える。

「あ~。確かに。」

オレが同意すると、皆が驚いて振り返った。

「お前、橋元さんのこと好きなのか?!」

「は?なんでそんなことになるんだよ。」

だって、可愛いってことに同意しただろう?そう言われて首を傾げる。

「客観的に見て可愛いと思ったら、それは好きってことなのか?」

そんなことを言っていたら、オレは好きな子が何人いることになるんだろうか。

「いや、普通は可愛い子を好きになるもんだろ?」

輪に参加していた吉村が正論と言わんばかりに胸を張る。

吉村の言う「可愛い子」の定義がわからない。顔さえ良ければそれでいいのか?

「女子って、誰でもどっか可愛いなって思えるところがあるだろ。」

声とか仕草とか気配り上手とか。一生懸命何かに取り組む姿も可愛いと思えるんだが。

お前らはそうじゃないのか?と逆に問いかけたら、何故か無言が返ってきた。

「...オレ、お前の将来が不安になってきたよ。」

吉村がぽつりとそう呟いた。



「って話をしたんだよ。」

帰宅してから、どうしても吉村の言った言葉の意味がわからず隣の家に突撃し、想に全てを語って聞かせたら、想は「あ~...」となんとも言えない表情をした。

「可愛い子が好きっていうのは、まぁ、この年頃の男の子には当たり前と言えるかもね。」

「そうなのか?」

驚くオレに想は頷いた。

じゃあ、オレはやっぱり気が多いのか?想は「それは違う」とすぐさま否定してくれた。

「滋は紛いなりにも女の子だったんだし、根っからの男の子とはその辺の感じ方は違うのかもね。」

「紛いなりにもって...」

強く反論したくても出来ないところを突かれ押し黙る。

「そ、そもそもオレは可愛いっていうより恰好いいっていうほうが好きだし。」

「それがそもそも決定的に違うんだよ。」

うん?と首を傾げて想の次の言葉を待つ。

「滋が言いたいのは人間的に好きかどうかってこと。他の男の子たちが言いたいのは恋愛対象として好きかどうかってこと。」

つまり、と一呼吸置いて想はじっとオレの目を見つめてきた。

「滋の初恋はまだまだ遠いってことだね。」

「え?意味わかんねぇんだけど。」

想は苦笑を洩らしたあと、ふっと真面目な顔になった。

「それよりも滋。ちゃんと受験勉強してる?」

突然の話題転換にオレはギクっとした。

受験勉強はそれなりにしているつもりだが、成績は現状維持ってところだ。

それは悪いことじゃないと思うけど、たまに(想の)母さんから「どう?勉強はかどってる?」と聞かれるのは、(オレ)にもっと上を目指して欲しいと望んでいるからだと思う。

本来の想の実力は英清も狙えるといわれるレベルなのだから、当然と言えば当然か。

もしかして、想もオレに今以上の成績で偏差値の高い高校へ入ることを望んでいるのだろうか。

お互いの中身が入れ替わったまま生きていくのかなと思ったりするが、もし高校へ入学した後に元通りになったら、想は不本意な高校に3年間通うことになる。

「勉強してるよ。部活引退したらもっと時間とるつもりだし。」

想が不安に思わないように明るい声でそう言うと、想はようやく表情を和らげた。

「英清とまではいかなくても、ここらへんで一番頭のいい高校は入れるように頑張るよ。」

「無理しない程度に頑張ってね。」

「あ。あと、もし今度可愛い子は誰かって聞かれたら滋って答える。」

「え?」

話を戻したオレに、想は目を丸くした。

要するに、他の男子達は見た目だけで女の子を判断してるってことなんだ。

元はオレの身体ということをこの際差し引いて客観的に見ると、(ソウ)が一番可愛い。

それに―――オレは手を伸ばしてサラサラ艶々の黒髪をひと房すくい上げた。

「想、(オレ)の身体を大事にしてくれてるだろ?髪の毛とか肌とかすげぇ綺麗だし。」

中身が違うってだけで元は自分だった身体が華奢で可愛い女の子に見えてしまうなんて、もしかしてオレってナルシストの気があるのかもしれない。

想に知られたら引かれるかもしれない。ちらりと視線を向けると、想は何故か顔を真っ赤にした。

「―――っ、吉村くんが言った言葉の意味、わかる気がする。」

「え、マジで?教えてくれよ!」

その後何度も頼んだけど、想は頑なに「知らない!」とそっぽを向いて視線を合わせようとしなかった。

想(中身・滋)の天然タラシ疑惑...

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