2:妙な距離感
久しぶりの更新です。
「じゃ、また学校でね。」
実にあっさりした態度で想はそう言うと、路地を右へと回った。
2年生の終わり頃からだろうか?「友達と一緒に登校する約束してるから」と、通学路の途中で別れることになった。
友達というのは、小学校からの友達である紀子を含め3人。
なんでも、女子は女子の付き合いというものがあるらしい。よくわからん。
日差しを反射して綺麗に輝く黒髪が背中で揺れるのをぼんやりと見送り、俺も歩き始める。
俺と想は相変わらず一緒にいることが多いが、学校では別行動を取ることが多くなった。
1年の時は同じクラスだったから自然と一緒にいることが多かったけど、2年になってクラスが分かれ、一緒に帰ることが少なくなり、廊下で出会っても一言交わすだけになり、気がついたら全く違う交友関係が出来上がっていた。
想だけでなく俺にも新しい友達がたくさん出来たし、どちらかがどちらかを避けた結果というわけではない。
朝の登校は途中までとはいえ必ず一緒だ。それが俺たちの関係が昔と何一つ変わっていないという証拠。
「英田!!」
教室に入るとすぐに名前を呼ばれた。この声は振り向かなくてもわかる。
今ではクラスの中で一番つるむことが多くなった、吉村巧だ。
バレー部所属で、学年の男子の中では頭ひとつ身長が高い。が、身体はひょろっと細い。
「数学の提出物、写させてくれ!」
「断る!」
目の前に差し出された手をパシっと叩き落として自分の席に着く。
「じゃあ、和久寺さん紹介してくれ!」
「じゃあで繋がる話題か、それ?断る!」
「いや、むしろそっちのが本題。」
最近、吉村のみならずこうして男子生徒から「和久寺滋を紹介してくれ」と言われることが多い。
俺はそれに飽き飽きしている。
「大体、なんで滋なんだよ。」
はぁっと溜息をつく俺に吉村は「はぁ?!」と大袈裟に驚いて見せた。
「お前、あの和久寺さんだぞ?学年のみならず学校内で一番の美少女と呼び声の高いあの和久寺さん!」
そう言われてもなぁ。あれ、元々俺の身体だし。
今でも毎朝顔を合わせているから、大して新鮮さも感じないしな。
「美少女、ねぇ。」
客観的に見ると確かに可愛いが、素直に肯定出来ないものがあるな。
「お前、いくら幼馴染だからって何も感じないのはおかしいぞ。」
「そう言われても...生まれた直後からの付き合いだしなぁ。」
うぅ~ん、と首を傾げるオレに吉村は深い溜息をついた。
「いいよなぁ、幼馴染...一緒に遊んだりご飯食べたり部屋を行き来したり、あまつさえ風呂なんかも一緒に入ったり、は流石にしてねぇか。」
「あ?話したことあったっけ?」
「っ?!一緒に入ったことあるのか?!」
オレの言葉に吉村は過剰なまでに反応した。
「あ、あぁ。別に大したことじゃあ―――」
「い、一体何歳頃まで?!まさか、今も...っ?!」
いやいやいや、そんなまさか。
「今は入ってねぇよ流石に。精々小4くらいまでか。」
「小、4...だと?」
吉村がガクンと膝から崩れ落ちた。
ふと気がつくと、吉村だけでなく、何故か教室中がしんと静まり返っていた。
「...?」
オレはただただ首を傾げることしか出来なかった。
それから、何故か学校中でオレと想が今でも一緒に風呂に入っているという噂が流れた。
担任から職員室に呼び出された時、初めてその噂を知ったオレはきょとんと目を丸くした。
どうやら想も別に休み時間に職員室に呼び出されたみたいで、その日の夜珍しくオレの部屋に来たかと思うと、冷たい視線を向けながらこう言い放った。
「しばらく一緒に登校しないから。それと、学校で会っても話しかけないで。」
それから2週間ほど、本当に想は朝オレを迎えに来なかったし、学校でも無視され続けた。
仲が良すぎる幼馴染も考え物です。