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1:朝の日課と儀式

短編「チェンジ!!」の続編書き始めました。

続きが気になっていたという神様のような方は是非お立ち寄りくださいませ。

「ふっふっふ...」

朝起きて着替えるときに姿見の鏡の前に半裸で立つという日課をこなしながら忍びきれない笑いが盛れる。

うっすらと割れた腹筋をさわさわと撫でて日頃の努力の成果を労ってやるのが最近何よりも嬉しい。

このままいけば、高校生になる頃には世紀末覇者くらいの肉体になれるのではないだろうかという夢想すらしてしまう。

「...想、何やってるの。気持ち悪い。」

「はぁ?!何言ってんだよ!この鍛え抜かれた無駄の無い身体!まだまだ身長は足りないし厚みも無いけど、あと2、3年したらそれはもう大変なことに―――」

「はいはい。それはいいから早く下に降りてご飯食べなよ。」

「おう!朝ごはんは日々の生活の基本―――、って、お前なんでここにいんの?」

ようやく自分の部屋に幼馴染の姿があることに気付き、きょとんと目を丸める。

ほんと、一体いつから居たんだ?

「想が鏡の前に立ってTシャツ脱ぎ始めた頃かな。先に下行ってるね。」

フン、と小さく鼻から息を吐き出す様は最近になってよく見るようになった。

俺の幼馴染は随分と逞しくなったものだと、感心すらしてしまう。



俺の名前は、 英田(アイダ)(ソウ )

もうすぐ15歳の誕生日を迎える、中学3年の男子だ。

―――と言っても、中身は実は和久寺滋という、れっきとした女子なのだ。

中学に入って少し経った頃、とても不思議な体験をした。

寝て起きたら隣に住む幼馴染の身体に俺がいたのだ。

幼い頃からまるで男の子のようだと言われていた俺と、大人しく読書が好きで黙っていれば女の子みたいねと言われていた想。

お互いに中身が入れ替わっていればよかったのにね、と想が呟いたその翌日、本当に入れ替わってしまっていた時はどうしようかと焦った。

意外にも、あまり戸惑った様子を見せずに「このままでもいいんじゃないか」と提案してきたのは想だった。

俺は想みたいに頭が良くないし、元に戻る方法なんてさっぱり思いつかなければ、「言われてみればそうだよな」と単純に納得してしまって、以来2人とも互いの振りをして生活している。

あれからもう丸2年が経とうとしているが、元に戻るような気配は全くない。

多分きっとこのまま中身が入れ替わったまま生きていくんだろうな、と最近ぼんやりと思うようになった。



「おはよう、想。」

ご飯出来てるわよ、と言いながらせっせと弁当におかずを詰め込んでいるのは、想の母親。

俺にとっても、幼い頃から可愛がってくれている第二の母親みたいな存在だ。

なので、同じ屋根の下で暮らしていてもさほど違和感は覚えない。

想もそれは同じで、俺の母親とうまくやってるようだ。

俺の母親は俺に女の子らしさを求めていたから、急におしとやかになり柔道部も辞めてしまった想に涙を浮かべながら喜んだという。

「想!あんた、またそんなにだらしない恰好して!!」

機嫌よく弁当をつめていたかと思えば急に怒り出した想の母親に俺は頭を掻きながら首を傾げた。

「んなこと言っても。こんな恰好学校じゃあ普通。」

「あぁ、もう!滋ちゃんからも言ってやって!」

自分の実の母親に泣きつかれた想は手にしていたマグカップをコトリと静かにテーブルの上に置くと、ふんわりと笑みを浮かべた。

「おばさん。最近の想ってばコレでも女子から人気あるのよ。恰好良いって。」

「え?あら、あらあらあら。そうなの?こんなのが?」

自分の息子(中身は違うが)に対してその言い様は無いだろうと思わず眉を顰めたが、想は気にもしていないといった風に続けた。

「こういうのが流行りなんですよ。逆にきっちり着こなしてたら真面目すぎるとか言って虐めの対象になったりもするし...」

想は小さい頃から虐めの対象になることが多かった。俺が大抵庇ってやったが、見えないところでも嫌がらせされていたようで、おばさんは俺の母親に相談していた。

だからなのか、想の言葉で「そう、それなら仕方ないわね」とあっさりと納得したようだった。

ゆったりと紅茶を飲んでいる想の前で朝ごはんをかき込み、用意されていた弁当をカバンに突っ込んで「行ってきまーす」と大声を出すと、想の母親が負けないくらいの大声で「いってらっしゃい!」と返してくれた。

履きなれたスニーカーに足を突っ込み靴紐を結ぶ俺の隣で、想はぴかぴかに磨いた綺麗なローファーを履いている。

想は昔からなにかとマメなヤツだったから、この靴も自分で磨いてるんだろうな。

しげしげと眺めていた俺の視線に気付いた想が小さく首を傾げた。

「滋!それじゃあ今日も頑張りますか!」

「うん。想くん。」

お互いの姿に見合った名前を呼び合い、歩き出す。

滋が想に、想が滋になりきるためにあの日になんとなく始めた毎朝の儀式。

それは今でも変わりなく続いている。

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