=9話=
「まあ、でも女の子も必死の思いで告白したんだから……」
お、神楽、貴様俺の敵側に回るつもりか?
「集の言い分もわかるけど、理屈抜きでドスっとくることもあるからなぁ」
神楽の悟ったような口調。
「ドスって、ヤクザの出入りかよ」
多分、多分だけど、こいつは一目惚れをしたんじゃないかと思う節がある。
それも相手は俺の姉貴。
本人が言ったわけじゃないけど、姉貴を前にした時の態度がな……。
あんなはにかんだ神楽の顔なんて、想像もできなかったもん。
普段食べ物の好き嫌いが多い奴なのに、姉貴が作った飯を褒めちぎりつつ嫌いなカボチャを完食してた。
姉貴を迎えに来てた彼氏を見たときのあのさみしそうな顔ったらもう……。
「いや、ホントに、そんな感じでいきなり心臓にドンっと。いろんなウダウダを超越して。例え自分を見てくれなくても、とりあえず傍にいさせて、って」
「ゴホッ!ゴホッ!」
急にミチルがむせ返る。
「あ、汚ね……」
見れば手には俺が追加で買っておいたペットボトルの茶が!
「てめッ!それオレの茶じゃねえかッ!」
「ケチ……くさ、いッ!」
胸を叩くミチル。
まったく昔から油断も隙もないやつだ。相手にしてられない。
うむ。俺は今日、もも上げ八の字とやらに挑戦するのだ。バスケ部が練習でなんなくやっているやつ。
ももを上げて、その下にボールを通すわけだけどなかなかどうして、ボールは別の意思で動いてんじゃねえのってくらいいうことを聞かない。
あいつらなんであんなに軽々やってんの?
え?俺の足が短いから?
これができなきゃ、先日どこぞのおっさんが公園でやってたことなんかできるわけがない。
神楽にポイントを聞こうと振りかえった。
……トクン……。
心臓が、そこにある。
うん。
あって当然。
でも――。
目に入ったのは、三つ編みをはずしたミチルの姿。
ゆるやかな波をつくる髪が、もの憂げな表情をしたミチルの頬にこぼれている。
???
いきなり、二人の女子の会話が脳内で再生された。
――けど――でも―――ー。
あれ?
そこでふと、神楽と目があった。
なんとなく慌てる。
「神楽ッ、神楽ッ、もっと派手なの教えてッ!ほら、こないだ駅の傍の公園でオッサンがやってたクルクル」
そしてなんでかわからないけど、過剰に大きめの声が出た。
「あれはストリートボールの技だから、オレはできないの。なんならあのおじさんに弟子入しにいく?」
近づく神楽の声。
俺はなんとなくミチルを見ることができなくて、そしてまた脳内にあの言葉が再生される。
コウサカサンキレイニナッタ―――。