=8話=
ミチルの問いかけに、神楽は少し笑顔を見せる。
おお、男前。
まあね、そりゃそんな顔されりゃあ、ゴーゴンもメデューサも帽子被ろうかって思うわな。
「はは。どうもしないよ。オレ、当分誰とも付き合う気ないから」
「それにしても忙しいよな、おまえ。入学してから何回目だよ。しかも殆ど話もしたことないようなのばっか。友達からでいいから~なんて言われて友達になったら、それはそれで怒るんだろうに。
そもそもロクすっぽ知らない相手が、だぞ?オーケイの一言でいきなりカノジョってのがよくわかんねえよ。友達からでもなんて言われても、絶対無理じゃねえ?告白された瞬間、友達としてなんて見えねえだろ」
中学の嫌な記憶が蘇り、拳に力がこもる。
「何々?集、やけに饒舌だけど」
「ああ、100年に一度の奇跡。よほどご長寿でもないと生きてる間はお目にかかれないような奇跡でね、こいつ、去年その『ロクすっぽ知らない』付き添い有りの女子に告白されたの。身の程しらずにも断ったんだけどさ。一緒にきてたご友人方にまずは友達でもいいから付き合ってやれってしつこく言われて、キレたのよ。その時の台詞、今でも覚えてるわよ。友達なんて人に指図されてなるもんじゃないし、知らない奴から告白されて即付き合うような奴とは、オレなら付き合いたくないッ!って」
いや、だってそりゃそうだろ。当然の自己防衛だ。
あれはまさに浦島太郎の亀状態だった。
「ははは。他に好きな子がいるとかなんとか当たり障りのないこと言えない集、好きだなー、ほんと。ていうか、香坂さん、その場にいたんだね」
「そりゃ100年に一回のイベントだから。こっそりと」
「マジこいつ悪趣味だろ?っとに笑い事じゃねえし」
「そーそー。それから集しばらく罪人扱い。チビのクセに何様ぁーとか、ナントカチャンかわいそーとかを、聞こえるような小声で」
思い出すのも恐ろしい。
お前は知らないだろうけどな、女相手に喧嘩するわけにもいかんと大人の心で接したら、教科書に落書きされるわ、リコーダーや制服隠されるわ、結構な被害にあったんだよ、俺は。
「オレの方が可哀相だっつーの」
気分を害した。
弁当完食後でよかった。不快な気持ちで飯食って栄養吸収に害出たら困るからな。
俺は気分転換にドリブルの練習をしようと立ち上がった。