=7話=
「心ちゃん、帰ってきたんだね」
ミチルが研修から帰ってきた姉貴の手作り弁当を指して言った。
「おお」
「しっかしあれだね、弟の弁当ほぼ毎日とか、ホントえらいよね」
4つ上の姉の心は、お袋が死んでしまった頃既に中学生だったこともあり、今ではすっかり俺の保護者を自認してるみたいだ。
今は保育の専門学校に通ってる。
「いつも思うんだけど集の遺伝子って、絶対心ちゃんの残りカスだよね。優良なの全部心ちゃんに持ってかれてるもん」
「うるせえよ。母親似なんだよ」
「いや、ほんと嫁に欲しいわ、心ちゃん」
「伝えとくわ」
「……ほんと、美人で家庭的で優しくて……。女の子の、鏡だもんね……」
弁当箱のみを見ていた俺、ミチルの口調の変化に思わずミチルを見てしまった。
うつむいて、さっきから一向に口に運ぶことのない菓子パンを見てる。
なんか……なあ。
なんか気持ち悪い。
「おーい」
俺は飲み干した烏龍茶の紙パックをミチルに投げる。それはミチルの頭にあたりカコンと間抜けな音をたてた。
ミチルはゆっくりと顔をあげ、少し呆けたように俺を見る。
ボール当てた悪影響か?
なんかやっぱいつもと違う。
「おまえ、どっか悪いんじゃねえの?」
ミチルは少し笑って傷だらけの床からそれを拾い上げると
「どっこも。あるとすれば虫歯くらいだよ」
と言って投げ返してきた。
力のこもってない返し方。パックは俺の投げ出した足に力なくあたる。
なんかイラつく。
俺は紙パックを手にとると、さっきよりも力を込めて投げつけた。
「それと頭だろ!」
ミチルは当たって膝に落ちた紙パックを手にすると、自分の脇にそれを置いた。
へ……変すぎる。
いつものミチルならやっきになってやり返してくるはずなのに、俺の言葉に言い返すこともしない。
やっぱ気持ち悪い。
「おまえ……」
何かあったのかを聞こうとした時、昼休みに入ってすぐ派手な女に拉致された神楽が現れた。
さっきまでの変な雰囲気から一転、ミチルは笑顔でそちらに向かって手を振る。
「メデューサとゴーゴン、なんか言ってきた?遅いから石にされたかと思った」
髪が蛇の黄金コンビだな。
「何だ何だ。新作か」
「ゲームじゃないよ、集」
神楽は俺の横に座ると、グシャグシャと俺の頭を撫で回す。
「やめんかいっ!圧をかけるなっ!縮む!!」
俺は神楽の手を振り払うと、残りの弁当を書き込んだ。
「香坂さんに迷惑かけてたかな、もしかして」
「いや、私、どっちにも悪いことしたなーって思ってて。乙女ゴコロを汲んであげられなかったのと、ほら、神楽くんの好みだったら申し訳なかったなって気にはなってたから、直接交渉に出てくれたみたいでよかったかな、と。で、どうすんの?ああ、プライベートにかかわることですから、あなたには黙秘権があります」
ああ、あれ、ミチルもかんでたのか。
神楽を連れて行った派手な女を思い返す。
メデューサとゴーゴンね。なるほど。言い得て妙とはこのこった。
それで……様子が変だったの、か?