=5話=
キュッキュッ。
昼休みに入ったばかりでまだ人気のない体育館。
シューズで床をこする音がやたらと反響するのが、俺は結構好きだ。
転がったバスケットボールを追いかけ拾いあげると、フリースローラインまで下がりボールを構えた。その時、
「おいっす!」
と聞きなれた声。見ればミチルが片手を上げて近づいてくるところだった。
「てめー!今朝はよくもやってくれたな!!」
忘れまじ、天誅事件!
「あーあー、あれね。あんた、廊下で寝ちゃ駄目よ。異人さんに連れていかれるよ」
「おれはウシじゃねーっつの」
俺とミチルは小学校卒業までマンションの隣同士だった。
今でこそ姉貴の作った飯を食っているが、小3でお袋を亡くした当時は、タクシー運転手という親父の不規則な仕事のせいもあって殆ど毎日香坂家で飯を食っていたように思う。
小学校卒業と同時に一戸建てを構えた香坂家は引っ越してしまったものの、中学は結局同じ校区で、以来現在に至るまで腐れ縁が続いている。
「いや、まあ、似合うけれどもッ!」
ミチルは言いながら走り寄り、俺の手の中のボールをはじいて奪い取った。
その場で数回床にボールを打ち付けると、ゴールに向かって投げる。
ボールはゴールネットの下をかするようにして落ちた。
「あー、おしい。んで、相棒はお休み?」
「オレ様のパンを買いに購買に」
神楽は約束通り戦地に赴いてくれた。
マジいい奴。
「何それ、集ごときが神楽くんをパシリに使うとは!そんなんだからノミの猛獣使いとか言われるの、よッ!」
ミチルは拾いあげたボールを全力で投げてきた。それは結構なバカ力であることは付け加えておかなけばいなるまい。
「ノミの話はもういいっ!」
ボールを軽く受け止めた俺に対するミチルの舌打ち。
……おいおい。
朝の女子二人の会話と、神楽の言葉が思い出された。
女らしくなった?おしとやかになった?
なんか日本語の定義がよくわかん。