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その8
バイト先に同い年の中村という男がいる。中村はこの古本屋で2年働いている。中村とは同い年ということもあり、すぐに打ち解けた。中村は大学に通っている。2年生だ。
「大学なんて行ったって意味はないぜん」閉店時間の22時をまわり、狭い更衣室で窮屈に着替えながら中村は言った。
「そういうもんなの?」
「ああ。大学は人を堕落させる所だぜん」
「どうして?」
「自由だからだぜん」
「自由?」
「そう、自由。しかもただの自由じゃないんだ。大学という大きな囲いの中で自由なんだぜん。だから守られているんだ。ペットみたいなもんだ。ある程度要領を掴んでうまくやっていけば、何も特別なことをしなくてもその4年間は気楽に生きていける。学割だってあるしな!はは!まあ単位を取らないといけないが、あんなもんお手みたいなもんだ。お手!と言われればお手してやればいいんだぜん。そんなもんなんだ大学ってな!はは!」
「じぁ楽しんでるんだ、大学?」
「楽しくはないな」
着替え終わると、駐輪場で中村は黒のトゥデイに乗り「おつ」と言って去って行った。