その5
ボクが始めたバイトの古本屋は思っていたより客が多かった。
古本。
古漫画。
中古ゲーム。
中古CD。
中古DVD。
棚を物色する人達をレジから眺める。
ボクの隣では店長が、レジのことや雑務やこの店を開いた成り行きを、熱心にボクに教えている。
またボクは棚に目をやる。もう1人のバイトが品出しをしている。
「俺は昔から古本屋さんを開きたかったんだ」
ボクはまた店長に気を配る。
「そうなんですか」
「ああ。古本屋は自由だぞ」
「自由?」
「ああ。こんなに自由な空間はない。それを感じないか?」
「うーん。確かに皆自分の世界に入り込んでいるようには見えますね。」
「そうだろ。特にどの客がそういう風に見える?」
「どういう風に?うーん、本を選んでいる人ですかね?」
「そうだ!お前は本当に物分りが良いヤツだな!そうだろそうだろ。古本を選んでいる人間が自由な人間なんだ。」
「はあ」
「でもな、うちも商売だ。ゲームやビデオを置かなけりゃならない。
でも、俺は古本が自由だと思うんだ。そこがその辺の店とは違うところだ」
ボクは何だかよくわらなかなったので思わず「どういうことですか?」と聞いた。
「だからな、俺の店はいろんな物を置いてはいるが、きちんと古本が大事だということをわかっているんだ。でも、いろんな物を置く店は、古本が一番だということをわかっていない。逆に、古本が1番大事だと思う人間は、自分の店に古本以外は置かない。でも、俺の店は置く。そういうことだ。」
「はあ、そういうもんですか」
「そうだ」
ボクは古本屋の自由について考える。
それは宇宙について考えるようなものなのかも知れない。