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17/31

その17

 彼女はよく来る客。いつも


 新入荷の棚→単行本の棚→文庫本の棚


 という順番で棚を見てまわる。

 時折タレントエッセイ本やエンターテイメントの棚もチェックしている。そして3回に1回くらいの割合で、決まって2冊本を買って帰る。

 もちろん、本を2冊買った後、そのまま家に帰っているのかボクは知らない。


 いつもスーツ。仕事帰りだろう。決まって18時半過ぎにここに寄っている。スーツはとても似合っているが、だからと言ってキャリアウーマンのように鼻につく感じもしない。とてもナチュラルに似合っている。いつもリクルートスーツみたいにパリッとして黒いスーツを着ているが、時折グレーでくたびれたスーツを着ている時がある。

 年齢は25歳前後だろうか。

 とても綺麗というわけではないが、どこか惹きつけられる部分がある。大抵、誰かを好きになる時はそれが原因だ。

 目はクリクリしている。


 今日の彼女は、本を買う日だったようだ。ボクがいるレジに本を2冊持ってきた。


 ボクの知らない日本人作家が書いた、文庫小説の上・下巻だった。


 「カバーはお付けしますか?」

 「あ、いいです」


 ボクはいつもの手順で仕事をする。それを彼女は見ている。


 日常とは少しのキッカケで変化する。少しの非日常を混ぜることで世界は劇的に変化する。


  「いつも決まって2冊ですよね」ボクの口は自然と言葉を発していた。

 

 「えっ?」

 「いつも2冊本を買いますよね」

 「ああ、そうなんです」

 「2冊って決めてるんですか?」

 「そうですね。2冊。決めてますね」

 「どうしてですか?」

 「うーん、ペース的に。2冊ずつ読むのが私のペースに合ってるんです」

 「ペース的」

 「あ、お金的にも良い感じでしょ?」と彼女は無邪気に笑いながら言った。

 「お金的」

 「いつも見てたんですか?」

 「いや、そのぉ、よく来るお客さんだったんで、しかもいつも決まって2冊買って帰る人はあなたくらいだったんで、つい聞いちゃいました」

 「へぇ、いつも決まって2冊買うのって目立つのかぁ」彼女はほんとうに不思議そうに言った。

 「まぁ目立つというか印象に残ると言うか」

 「なるほど」


 ボクは袋に入れた本を彼女に渡した。


 「ありがとうございます」彼女はクリクリした目を、さらにクリクリさせて言った。

 ボクは何だか話しかけたことが照れくさくなって、無言で会釈した。

 彼女も無言で会釈して出ていった。


 ボクはまた日常に戻った。

 手持ち無沙汰になったボクはレジにある札を整えた。



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