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その16

 「ほれっ」

 彼はぼくに缶を放り投げ、自分の分のジュースを買った。

 「ありがとうございます」



 金髪の男女のカップルが入ってきた。



 「ええよ、ええよ。そんなことよりもここの自販は高いなぁ。150円もするで」

 「へぇ。なるほど」ボクにはこれといった返事が思い浮かばなかった。



 金髪の男は金髪の女をベンチに座らせて颯爽と右打ち110キロのバッターボックスに入っていった。



 「さっき俺が打ってた120キロのコースあるやろ?あれ絶対130キロは出てるで」

 「はぁ、なるほど。でもとてもうまく打ち返してたじゃないですか?」

 「そらそうや。俺、元プロ野球選手やからな」



 金髪の男がボールをバットに当てる度、金髪の女が「おぉ」と声をあげている。



 「マジですか?」

 「そうや。だから130キロはむしろ遅いくらいやわぁ。って言うても大したことない選手やってんけどな。ハハハハ。ハハハハ」

 「それでもすごいことじゃないですか。と言ってもボクも野球詳しくないんですけどね」

 「キミ野球好きちゃうんかぁ。俺の時代の男は皆、野球好きやったもんやけどなぁ。時代やなぁ」



 金髪の男が出てきて、今度は金髪の女が右打ち60キロのバッターボックスに入っていった。



 「何かすいません。何年くらいやっていたんですか?」

 「別に謝るようなことじゃないよ。ハハハハ。ハハハハ。きっちり5年やな。初めから5年て決めてたからな。5年で鳴かず飛ばずやったら辞めようと。で5年経ったら自分から辞める前に向こうからクビにされたわ。ハハハハ。ハハハハ。」

 「はぁ。そういうものですか。ちなみにどこのチームだったんですか?」



 金髪の女はなかなかバットにボールを当てることができず、途中で出てきた。「もったいない」ということで代わりに金髪の男がバッターボックスに入っていった。



 「巨人。高校からドラフト6位。たまたまやな。コネって大事やぞ。コネクション。腐るほどの努力とコネ。世に出ようと思ったらコネ。社会に繋がろうと思ったらコネ。運なんてコネありきや。」

 「なるほど。そういうもんですか」

 「そう。キミは今何かしてるん?学生か何かか?」

 「いや、ただのフリーターです」

 「そうか。まぁ時代やからな。まぁ世の中皆フリーターみたいなもんやからな」



 金髪のカップルが自販機の前でジュースを選んでいる。



 「おっ、もう2時前か。ほな俺はそろそろ行くわ。気ぃ向いたら一回ここに食べに来てみ」そう言って彼はボクに名刺を渡してくれた。そこには風岡武史と書かれていた。彼はお好み焼き屋を経営しているらしかった。名刺の裏には店の地図が描かれていた。


 「ありがとうございます」

 「これもコネ。ほな」と言って彼はバッティングセンターを出ていった。



 ボクの隣のベンチでは金髪カップルがなぜか真剣に宇宙の話をしていた。ボクは何となくその話を聞いていた。



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